上 下
1 / 12

1 クズ夫が私を怒らせました(リリアーナ視点)

しおりを挟む
 
「愛しているよ。リリアーナ! ヨルダン国への留学から帰ってきたら結婚しようね」

 私の婚約者レミントン侯爵家の嫡男レオン様は、そう言って私を抱きしめた。

「えぇ。ずっと3年間も行きっぱなしではないわよね? 夏の休暇は帰ってくるでしょう?」

「あぁ、もちろんさ」

「だったら、私寂しいけれど我慢するわ」

 そうして送り出したその半年後、夏の休暇でラトレル国に戻ろうとしたレオン様は、帰国途中の森で何者かに襲われ死体で発見された。





「これは彼じゃないわ・・・・・・こんなことがあっていいはずないもの!」

 泣きながら否定しても、指にはめられたレミントン侯爵家の家紋が入った指輪が大きな証拠とされた。顔は判別ができないほど損傷が激しく、それが彼だとわかるのは服装と指輪に、私がプレゼントしたロケットペンダントだけだった。

ーー私の写真が入ったロケットペンダントは、彼がいつも肌身離さず持っていた物。これはやっぱりレオン様なの?

 葬儀に参列した私は、レオン様の両親レミントン侯爵夫妻と深い悲しみを分かち合った。



「リリアーナ! 悲しいけれどレオンはもうこの世にはいないわ。あなたは新しい恋をして幸せになってちょうだい。それをレオンも望んでいるはずよ」

 レミントン侯爵夫人はそうおっしゃって涙ぐんだ。その時の私はうなづくことしかできなかった。



 優秀な嫡男レオン様を亡くしたレミントン侯爵夫妻は、次男のラマー様に爵位を譲り領地の別荘に引きこもってしまわれた。

 その後、両親が次々と病にかかり看病する毎日に明け暮れた。その両親も他界し、いよいよ独りぼっちになった頃に母ライラの妹のエイナ・リック男爵未亡人が、両親の葬式が済んですぐの私に提案をしてきたのだった。

「私の夫も亡くなったし、リリアーナも両親を亡くしたわ。こういう時こそ一族で助け合って一緒に暮すべきだと思うのよ。だから、一緒に住んであげるわね!」

 翌日には大きな荷物が続々とランス伯爵家に運び込まれたのだった。従兄弟のラモントは亡きリック男爵から爵位は引き継いでいたが、貴族とは名ばかり。猫の額ほどの痩せた土地しか引き継いでいなかったのだ。

「困りますわ! 私は承諾した覚えはありませんよ!」

「あらぁ、姪のくせに叔母の私を追い出すの? リリアーナの寂しい心を慰める為にせっかく私達が来てあげたのに感謝するどころかそんな冷たいことを言うなんて! ライラお姉様はいったいどんな育て方をしたのかしら? これでは先が思いやられるわね!」

 当然のように乗り込んできた叔母は、さっさとお母様のお部屋に荷物を運びこませた。ラモントはあろうことか、お父様のお部屋に自分の荷物を置き始め・・・・・・すっかりこのランス伯爵家はこの親子に占拠されたのだった。


 そしてその夜、寝室に忍び込んだラモントに無理矢理乱暴されそうになり抵抗した私は・・・・・・気絶し・・・・・・最悪なことにその一回で妊娠、娘ララを出産したのだった。




 ラモントを婿にせざるを得なくなった私は、この強姦魔と結婚したが部屋も住まいも別にすることを決めた。ランス伯爵家は由緒ある家系でスキャンダルにまみれさせることは、亡きお父様も悲しがるに違いなかったので強姦されたことは隠すしかなかった。

 そんなことが公になっても結局は白い目で見られるのは女性側なのだから、女性は本当に損だと思う。強姦されても、傷物扱いされて好奇の目にさらされるのならあんな強姦魔でも夫にしておいたほうが私の名誉が保てるのだ。それもわかったうえでの従兄弟のクズな所業に怒りはフツフツと沸いてくるのだった。

ーーこんな男には二度と私に触れてほしくないわ!


 離れにもう一つ屋敷を建てそこに叔母とラモントを住まわせた。私はランス女伯爵として全てを切り盛りしていたが、この二人は遊ぶこと以外なにもしない。

「おい、俺様の小遣いが少なすぎるぞ! これじゃぁ、社交界での紳士同士の付き合いもできないよ」

「ねぇ、リリアーナ! 私の宝石の代金を払っておいてよ! あと専属侍女をもう一人つけてちょうだい。義理の母の私を、もっと大事にしなきゃだめよ。嫁としてなっていないわ!」

ーーこんな不満ばかりを3日おきに言ってくる叔母親子。それでも、娘のララにとっては父親と祖母には違いない。我慢、我慢だわ!

 けれどその数日後、私の従姉妹マーガレット(母の3番目の妹マティの娘)を連れてきたラモントは、

「ねぇ、君は娘しか産めなかっただろう? この伯爵家の跡継ぎをこのマーガレットに産ませてあげるから一緒に住むよ」


ーーはぁ??
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お姉さまに挑むなんて、あなた正気でいらっしゃるの?

中崎実
ファンタジー
若き伯爵家当主リオネーラには、異母妹が二人いる。 殊にかわいがっている末妹で気鋭の若手画家・リファと、市中で生きるしっかり者のサーラだ。 入り婿だったのに母を裏切って庶子を作った父や、母の死後に父の正妻に収まった継母とは仲良くする気もないが、妹たちとはうまくやっている。 そんな日々の中、暗愚な父が連れてきた自称「婚約者」が突然、『婚約破棄』を申し出てきたが…… ※第2章の投稿開始後にタイトル変更の予定です ※カクヨムにも同タイトル作品を掲載しています(アルファポリスでの公開は数時間~半日ほど早めです)

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

【短編】追放した仲間が行方不明!?

mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。 ※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。

閉じ込められた幼き聖女様《完結》

アーエル
ファンタジー
「ある男爵家の地下に歳をとらない少女が閉じ込められている」 ある若き当主がそう訴えた。 彼は幼き日に彼女に自然災害にあうと予知されて救われたらしい 「今度はあの方が救われる番です」 涙の訴えは聞き入れられた。 全6話 他社でも公開

幼馴染みを寝取られた無能ですが、実は最強でした

一本橋
ファンタジー
「ごめん、他に好きな人が出来た」 婚約していた幼馴染みに突然、そう言い渡されてしまった。 その相手は日頃から少年を虐めている騎士爵の嫡男だった。 そんな時、従者と名乗る美少女が現れ、少年が公爵家の嫡男である事を明かされる。 そして、無能だと思われていた少年は、弱者を演じていただけであり、実は圧倒的な力を持っていた。

婚約者が私の弟と旅行に行くというので私は婚約破棄を告げる。後悔しても遅いわよ。旅行先で婚約破棄した後元婚約者はあっけなく死んだ。ざまぁwww

甘いからあげ
ファンタジー
 「婚約破棄するわよ。後で後悔しても遅いのよ」  「ああ、それでも行きたい」  婚約者が私の弟と旅行に行くと言うので止めたけれど、止まりやしない。  婚約破棄を持ち掛けてもなんのその。婚約者は止まらない。  結局家族全員で行く事に。  旅行先で婚約破棄した後、あっけなく死んだ元婚約者。  弟も家族も殺され、恨みを持ったまま死んだ私はチートスキルチートステータスを得て生き返る。  小細工なしのチートスキル結界無効・気力魔力100倍・全攻撃魔法適正Sランクの圧倒的殲滅 チートスキルチートステータスでクソ外道どもに復讐する。  一人残らず殺してやるわ、覚悟なんてできなくても構わないわよ。泣いて叫んでも殺すんだから。

妹は悪役令嬢ですか?

こうやさい
ファンタジー
 卒業パーティーのさなか、殿下は婚約者に婚約破棄を突きつけた。  その傍らには震えている婚約者の妹の姿があり――。  話の内容より適当な名前考えるのが異様に楽しかった。そういうテンションの時もある。そして名前でネタバレしてしまうこともある(爆)。  本編以外はセルフパロディです。本編のイメージ及び設定を著しく損なう可能性があります。ご了承ください。  冷静考えると恋愛要素がないことに気づいたのでカテゴリを変更します。申し訳ありません。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  後で消すかもしれない私信。朝の冷え込みがまた強くなった今日この頃、パソコンの冷却ファンが止まらなくなりました(爆)。ファンの方の故障だと思うのですが……考えたら修理から帰ってきたときには既におかしかったからなー、その間に暑くなったせいかとスルーするんじゃなかった。なので修理とか出さずに我慢して使い続けると思うのですが、何かのときは察して下さい(おい)。ちょっとはスマホで何とかなるだろうけど、最近やっとペーストの失敗回数が減ってきたよ。

神殿から追放された聖女 原因を作った奴には痛い目を見てもらいます!

秋鷺 照
ファンタジー
いわれのない罪で神殿を追われた聖女フェノリアが、復讐して返り咲く話。

処理中です...