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プロローグ
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私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵家に嫁いで来てもう4年になる。夫のサミー・トゥー伯爵との間には3歳の娘ソレンヌがいる。貴族だから純然たる恋愛結婚ではないが、私達は愛し合っていると思っていた。
子供が産まれたばかりの時もソレンヌが泣くと率先してあやしてくれたから、子供好きな男性だと思い嬉しくなったことを今でも覚えている。
「おとうしゃま、あたちのかいたえをみて。おとうしゃまとおかあしゃまをかいてみたの」
「どれどれ? 本当だ、とてもよく描けているよ。ソレンヌは天才だね」
「ほんとう? あたち、おおきくなっちゃら、えかきさんになりたい」
「あぁ、絶対なれるよ。ソレンヌなら国1番の絵描きさんになれるとも」
父と娘の微笑ましい会話だった。私はこんな時間がずっと続いていくと思っていたわ。
ところがサミーの妹ジャンヌ様が離婚して、ソレンヌと同じ3歳の息子フランソワを連れて出戻ってきてから夫は変わってしまう。
いつもなら執務室で仕事をしている時間のはずがフランソワをあやしていたり、ジャンヌ様とフランソワを連れて外出する日も増えた。
「今日はサミーお兄様とフランソワにお魚を見せに行ったのよ? ソレンヌは水族館に行ったことはある? とても大きな水槽にたくさんの綺麗なお魚が泳いでいるところなのよ」
サミーと外出した日は決まってジャンヌ様がソレンヌの前で自慢した。
「ないわ。あたちもいきたかったなぁ」
ぽつりとつぶやいたソレンヌの目に涙が浮かんだ。
その様子を見てもサミーはそ知らぬふりだ。水族館で買ったのだろう。イルカのぬいぐるみをポンとソレンヌに投げ、「お土産を買ってきてあげたからそれで我慢しなさい」と、言った。
「なぜ、おとうしゃまがいないの?」
ソレンヌの誕生日にフランソワが熱を出した時は、病院に連れて行きフランソワの側に一晩中付き添っていた。
「フランソワ様が病気だから我慢してね」
私はソレンヌにそう言うしかなかったが、心が狭いとは思うけれど正直いい気持ちはしなかった。なぜならかつてソレンヌが熱をだして病院に運ばれた時には、言葉では心配してくれたけれどすぐに屋敷に戻ってしまったからだ。
ある日、フランソワはソレンヌの描いた絵を破いた。それはとても時間をかけて描いた、ソレンヌにとっては大事な絵だった。
怒ってソレンヌが突き飛ばすとフランソワがテーブルの角に頭をぶつけ泣く。ほんの少しおでこを切ってしまっただけなのに、夫は激高した。
「たかが絵を破かれただけで、フランソワを怪我させるなんて乱暴者め! フランソワはトゥー伯爵家を継ぐ男子なんだぞ」
「男性しか爵位が継げないから、フランソワが大事なのはわかりますわ。でもフランソワが絵を破いたのは明らかに悪いことです。それを叱らないでソレンヌを叱るのは間違っていますわ」
「たかが絵だろう? 大袈裟すぎる」
「おとうしゃまは、あたちに、くにいちばんのえかきになれるといったでしょう?」
「国1番の絵描きだと? そんなに簡単になれるものか! それよりフランソワに怪我をさせたことを謝りなさい!」
「う・・・・・・えっ。うっ、うっ。ご、ごめんなしゃい」
ソレンヌが泣きじゃくりながら謝る姿に不憫で母親として見ていられなかった。
子供が産まれたばかりの時もソレンヌが泣くと率先してあやしてくれたから、子供好きな男性だと思い嬉しくなったことを今でも覚えている。
「おとうしゃま、あたちのかいたえをみて。おとうしゃまとおかあしゃまをかいてみたの」
「どれどれ? 本当だ、とてもよく描けているよ。ソレンヌは天才だね」
「ほんとう? あたち、おおきくなっちゃら、えかきさんになりたい」
「あぁ、絶対なれるよ。ソレンヌなら国1番の絵描きさんになれるとも」
父と娘の微笑ましい会話だった。私はこんな時間がずっと続いていくと思っていたわ。
ところがサミーの妹ジャンヌ様が離婚して、ソレンヌと同じ3歳の息子フランソワを連れて出戻ってきてから夫は変わってしまう。
いつもなら執務室で仕事をしている時間のはずがフランソワをあやしていたり、ジャンヌ様とフランソワを連れて外出する日も増えた。
「今日はサミーお兄様とフランソワにお魚を見せに行ったのよ? ソレンヌは水族館に行ったことはある? とても大きな水槽にたくさんの綺麗なお魚が泳いでいるところなのよ」
サミーと外出した日は決まってジャンヌ様がソレンヌの前で自慢した。
「ないわ。あたちもいきたかったなぁ」
ぽつりとつぶやいたソレンヌの目に涙が浮かんだ。
その様子を見てもサミーはそ知らぬふりだ。水族館で買ったのだろう。イルカのぬいぐるみをポンとソレンヌに投げ、「お土産を買ってきてあげたからそれで我慢しなさい」と、言った。
「なぜ、おとうしゃまがいないの?」
ソレンヌの誕生日にフランソワが熱を出した時は、病院に連れて行きフランソワの側に一晩中付き添っていた。
「フランソワ様が病気だから我慢してね」
私はソレンヌにそう言うしかなかったが、心が狭いとは思うけれど正直いい気持ちはしなかった。なぜならかつてソレンヌが熱をだして病院に運ばれた時には、言葉では心配してくれたけれどすぐに屋敷に戻ってしまったからだ。
ある日、フランソワはソレンヌの描いた絵を破いた。それはとても時間をかけて描いた、ソレンヌにとっては大事な絵だった。
怒ってソレンヌが突き飛ばすとフランソワがテーブルの角に頭をぶつけ泣く。ほんの少しおでこを切ってしまっただけなのに、夫は激高した。
「たかが絵を破かれただけで、フランソワを怪我させるなんて乱暴者め! フランソワはトゥー伯爵家を継ぐ男子なんだぞ」
「男性しか爵位が継げないから、フランソワが大事なのはわかりますわ。でもフランソワが絵を破いたのは明らかに悪いことです。それを叱らないでソレンヌを叱るのは間違っていますわ」
「たかが絵だろう? 大袈裟すぎる」
「おとうしゃまは、あたちに、くにいちばんのえかきになれるといったでしょう?」
「国1番の絵描きだと? そんなに簡単になれるものか! それよりフランソワに怪我をさせたことを謝りなさい!」
「う・・・・・・えっ。うっ、うっ。ご、ごめんなしゃい」
ソレンヌが泣きじゃくりながら謝る姿に不憫で母親として見ていられなかった。
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