(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏

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ディーを抱っこした私はノーラン様の腕に抱き上げられる

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 アリッサは、ノーランの言葉に逆上してディーを投げつけるような素振りを見せた。ディーは、見知らぬアリッサに抱かれて、怖いのだろうか。小さな体を震わせて、悲しそうな目で私を見つめている。小さな声で、助けてと言っているように鳴くディーに私の胸は締め付けられた。

 ディーは、私にとっては子供のような存在だ。ノラはカルロス王国に置いてきたが、ディーはいつだって私の側にいたがるから一緒に連れてきたのだ。

「ねぇ、この子犬のか弱さなら、床に投げつければ一瞬で死ぬと思わない?」

 私の顔を嬉しそうに見ながら天使の無邪気さで微笑むアリッサに、ノーラン様がゆっくりと剣の刃をアリッサの首もとに近づけた。

「やってみろ。お前の命もここで一緒に散らしてやろう!」

「ばっ、バカじゃないの? たかが、子犬一匹で騒がないでよ! じ、冗談よ。ほんの冗談のつもりだったのよ? ほら、こんな犬なんて返すわよ。よく見たら全然、可愛くないじゃない!」

 私に、ディーを乱暴に押しつけると、アリッサはノーランを睨み付けた。

 この緊迫した気まずい空気を和らげたのはトリスタン王(宰相のふりをしています)だった。

「ははは、余興はこれぐらいにして、部屋に案内してもらえませんかな? この子犬は、とても珍しい品種ですから体も弱く世話も大変なのですよ。すぐに、お腹を壊し吐いたり下痢をしたりします。一日中、吐き続けて体調を崩すと、つきっきりで飼い主が世話をしなければならない。とても、神経質な犬なので、主人として認識した者からしか餌を食べないのですよ。それでも、よろしければ・・・・・・」

「あぁ、そんな面倒くさい犬ならいらないですぅ。吐いたり下痢をするなんて最悪だわぁ。部屋が臭くなるなんてまっぴら」

「そうでしょうなぁ。かわいいお姫様には、下呂は似合わないでしょうな」

 宰相のディビット様(秘書のふりをしています)は、にこやかにそう言うと、侍女から細長い包みを二つ受け取りアリッサに差し出した。

「これを、アリッサ王女様とそのお母様に差し上げようと持ってきました。どうぞ、お受け取りください」

 アリッサとお母様は途端に顔をほころばせた。この人達は、なんでも欲しがる。その物欲に限界はなさそうだ。


 私は、ブロンディ王国の将来を憂いて、お婆様の守ってきたものが崩れ去ることを悲しんだ。この国の未来はない。このアリッサが女王になる限り・・・・・・小さなため息が私から漏れた。


 ノーラン様はそんな私に、にっこりと笑いかけ囁いた。

「貴女のものだったはずの全てのものは、私が必ず貴女の元に戻してあげよう。バイオレット王女よ」

 私は最後の言葉にはっとした。ノーラン様は愛おしげに私を見つめると、さっと抱き上げ声を張り上げた。

「我が妃が、旅の疲れで歩けないようだ。寛ぎたいので失礼する」

 ブロンディ王国の侍女達が案内する来賓用の隣の城にディーを抱っこした私は、ノーラン様に抱きかかえられたまま移動するのだった。

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