(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏

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生まれ変わったシミだらけのドレス(バイオレット王女視点)

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 私は、王太子の住む宮殿にお部屋をいただいた。それは、とても広い贅沢なもので、プライベートに寛ぐ居間と寝室と大広間が続きの間になっている。通常ならば、この規模の部屋は王妃や王太子妃が住まうスペースな気がした。

「私達5人の侍女は貴女様の専属侍女となります。他にも小間使いが5人と護衛騎士が5人おりますので、なんなりとお申し付けくださいませ」

 部屋に入ってきた、手際のよさげな落ち着いた侍女が私に跪くと、一斉に15人の者達が膝をついた。愛妾に対する態度にしては、少し不思議な気もした。ブロンディ王国では、膝をついてのお辞儀は、生粋の高貴な身分の者にだけしかしない。

「ドレスを新調するので採寸をさせていただきますよ。このシミだらけのドレスはお捨てなさいませ」

 侍女の一人が処分しようと手を伸ばすので私は慌てて、それを腕に抱えて守ろうとした。が、次の瞬間、ノックもせずに部屋に入ってきた王太子にそのドレスを奪われてしまった。

「あ、それは、私の大事な・・・・・・」

 言いかけた私に王子は答えもせず、大股で部屋を出て行こうとする。あのドレスをどうするつもりなのだろう?不安が押し寄せるが、顔には努めて表さないようにした。ここで、取り乱したら負けだ。

「王太子。どちらに行かれるのですか?お戻りはいつになりましょうか?」
 私は、声が震えないように努めた。

「なぜ、私にそんなことを聞く?」

「私が貴方の為にお料理を作るからです」
 咄嗟に出てきたその言葉に私自身もまごついた。

 王太子は呆れて振り返り私の顔をまじまじと見た。

「私は、信頼に値する者が作った料理しか食べないのだがね・・・・・・」

 その答えに私は、言うべき言葉が見つからない。目を逸らせたり泣くべき場面ではない。多分、ここは優しく微笑むべきな気がした。お婆様がおっしゃっていた言葉を思い出す。

「人の心は、泣いても強請っても手には入りませんよ。いつも微笑んでいなさい。毅然として思いやりをもって接すれば相手に心があるのなら必ず通じます」

 お婆様の言葉が、このような場合にも当てはまるのかはわからない。お婆様がこれをおっしゃった場面は女王として貴族達を統率する講義の時だったから。それでも、どんな場合にもこれは間違いではないはず。

 優しく微笑むのよ! バイオレット!
 そう、自分に言い聞かせて私は王太子にふわりと優しく微笑んでみせた。

 王太子は苦笑しながら出て行き、私は侍女達に聞かれないようにため息をついた。



「王太子様は、角切りにしたお肉を甘辛く煮込んだものが好物ですよ」

 背後からかけられた言葉にゆっくりと振り向くと、さきほど真っ先に跪いた侍女がにっこりと微笑んでいた。

「私の名前はマディソンと申します。貴女様に仕える者達を総監督する者とお心得くださいね。さぁ、皆様早いところ、このお嬢様の採寸を済ませて新しい仕事に取りかかりましょうか?」

 マディソンは、テキパキと指示をだして、あっという間に私の採寸を済ませ、私の部屋を居心地よく整えていった。お婆様が存命だった頃の私の部屋に似ていた。ベージュと淡いピンクを基調とした落ち着ける空間ができあがったのだった。

 その後、マディソンと王宮の厨房に行きコック達に混じって料理を作った。

「美味しくできあがりましたね」
 マディソンは、私を褒めてくれた。人に褒めてもらったのは、本当に久しぶりだった。お婆さまは、よく褒めてくださった。お婆様の思い出が浮かぶと、やはり涙腺が弱くなる。私の瞳に浮かんだ涙を見てマディソンは言った。

「大丈夫ですよ。大丈夫。貴女様のことを必ず天で見守っている方がいらっしゃいますからね」

 私を優しい思いやりのこもった目で見つめ返すそのマディソンの瞳に、私は元気づけられたのだった。






 王太子がお戻りになって、真っ先に私の居室にいらっしゃった。淡い紫のドレスを私に手渡してくださった。

「お前のここでの名前は、ディダと名付けよう」

 それだけをおっしゃって、さっさと去って行く。それを広げると、お婆様が仕立ててくださったドレスなのがわかった。

「町の染物の専門店に持ち込んだのでしょうね。どうやら、純白には専門家でも戻せなかったようですね。薄くしみ抜きしたところを、淡い藤色で染め直したのでしょう。高価な貴重な生地ですねぇ。このお色なら普段でもお召しになれますね?湯浴みをなさってからお着せいたしましょうね。
 
 それと、新しいお名前を賜りおめでとうございます。スプレンディダはカルロス王国語では最上級に美しい貴重なものという意味ですよ。その言葉から由来するディダのお名前は素敵ですね」

 私は、淡い藤色のドレスと同じように、ディダとして生まれ変わりこの地に根を下ろして生きていくことを新たに決意するのだった。




 
 
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