(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏

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トリスタン王の企み(トリスタン王視点)

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  私の愛した女性が一年前に急な病で亡くなった。その昔、お互いが恋に落ち、将来を誓い合った仲だった。彼女は、私の元に正妃として嫁ぐはずだった。しかし、彼女の姉が不幸な事故で亡くなり女王にならなければならなくなった。泣く泣く、諦め、それでも、将来はお互いの孫を添い遂げさせようと誓った。

 その日から、一日も欠かさず文通をし、恋は愛に変わり親友としての確かな絆が生まれた。女王は、息子のできの悪さを嘆き、孫のバイオレット王女を自慢していた。毎年、送りあった家族の肖像画は、今も大事に鍵のかけた部屋にしまってある。女王に瓜二つのバイオレット王女は、きっと素晴らしい女王様になるだろうと思ったのに・・・・・・

 病に倒れた女王の最後の手紙は、悲しいものだった。



 愚かな息子と嫁と、下の孫がきっとブロンディ王国を滅ぼすでしょう。バイオレット王女が女王になるまで、私はきっと生きていられないでしょうから。お願いがあります。バイオレット王女を貴方の息子と結婚させてほしい。
 私が亡くなったら、貴方の側妃としてアリッサに婚姻を申し込んでください。必ずや、アリッサではなく、バイオレットが嫁いで来ます。それは、あの邪悪な者達を見てきた私が予言できることです。
 かわいそうな私のバイオレットは、満足な体裁も整えてもらえないに違いない。


 さて、女王の言うようにバイオレット王女が来たようだ。わずか数人の騎士だけを連れて、王女らしからぬ格好で来るに違いないと、女王の手紙にかきそえらていた通りだ。
 また、潜ませていた者の報告にも、実は本物のバイオレット王女だとあったのだが・・・・・・。

 宰相と私は、ここで一芝居打つことにした。それは、息子のノーランの性格を考えてのことだった。『私が愛した女性の孫だから正妃にしろ』などと言えば、必ずや反発するに違いない。けれど、賭けてもいい、バイオレット王女はノーランの好みのタイプだ。

「王女ではなく、卑しい者が王女に化けていると思わせてはいかがでしょうか?」

「なんだと?ディビット。お前は、あまりにもバイオレット王女に酷いことを提案するな!」

「妙案と思います。王子は、弱い者や傷ついた者には大層、優しく愛情を注ぎます」

「ふん!あの世に行ったら、女王に怒られるだろうよ。孫を侮辱したと、泣かれるだろうな」

 私はため息をついた。やれ、やれ。どうしたものかな。思いながらも、一芝居をしてノーランを行かせたのだった。





「ただいま、戻りました。父上」

「あぁ、ご苦労。それで、王女のふりをした女はどこだ?」

「あぁ、もう襲われた後でした。その馬車に乗っていた女は殺され、馬車も御者も騎士も行方はわかりません」

「なんだと?ノーラン、いい加減なことを・・・・・・ん? 馬の側にいる女はなんだ?」

「あぁ、あれは途中で奴隷が売っていたので、買いました。私の愛妾にします。」

 あり得ない言い訳を澄まして言う息子に、思わず苦笑いが漏れた。
 
 私は、その女にゆっくりと近づき、女王そっくりの顔を見て満面の笑みを浮かべたのだった。

「ふむ。美しいな。ノーラン、この娘は私に譲れ。新しく建てた南の宮殿を全部やろう」
 
 私は、わざと意地悪な提案をしてみた。

「だめです。なにを交換条件にされても無駄です。この女は私のものです。誰にも譲れない」

 この言葉を聞いて、私は笑いたくなるのを必死で我慢した。ノーランとこの王女との恋が見事に花開いたときに私はこの女性がバイオレット王女だということを、ノーランに明かそう。

 私は、宰相のディビットに目配せをすると、王女につける専属侍女達5人と専属護衛騎士5人を執務室に呼んだのだった。

「よいか?あの女性は間違いなくブロンディ王国のバイオレット王女である。無礼な態度をとることは許さん。心から忠誠を誓い、お守りするように。これは宰相と私とお前達だけの秘密だ」

 私と今は亡きブロンディ王国のカミラ女王との悲恋が報われる。ここで世代を超えて息子と孫が結ばれる予感に私は宰相とその夜、旨い酒を交わしたのだった。

 そして、カミラ女王が最も愛したバイオレット王女にした数々の酷い仕打ちは、潜ませた者によって全て私の耳に入っていた。ブロンディ王国の邪悪な者どもよ。このカルロス王国を敵にまわして、無事に済むと思うなよ。 

 さて、どんな方法で追い詰めてやろうか・・・・・・

 


 

 
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