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予定より早い花嫁の到着(ノーラン・カルロス視点)
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カルロス王国では、会議が行われていた。半年も早く、ブロンディ王国から花嫁が来るという異例の事態が起ったからだ。
「三日後には、こちらにお着きになるようです。あちらの王室に潜ませている者に探らせたところ、馬車は一台で護衛の騎士はたった数人だということです」
カルロス王国の宰相ディビットが父上のトリスタン王に報告する。父王は、呆れて即座に私に命令した。
「ノーラン! すぐに騎士を集めて迎えに行け。全く、ブロンディ王国はどういうつもりだ? このような場合であれば護衛騎士は通常、50人は下らない人数をつけるのが常識だ。その際には他の随行者としても50人。合計100人ほどの随行者に40台を超える馬車が妥当な数であろう。王女の輿入れとは、そういうものだ。なのに、馬車が一台で、騎士が数人だと? それは、本当に王女なのか? 身代わりかもしれぬ。カルロス王国も舐められたものだ!」
「全くですな! 多分、王女ではなく、身分の卑しい者と思われます。忌々しいことです」
宰相のディビットは、苦虫を潰したような表情になる。私は、大きくため息をつくと騎士達を即座にまとめて、国境を目指して馬を走らせた。
王女が来るのではないなら、何者なのだ? 侍女か、低位貴族の娘か? いや、貴族ですらないだろう。隣国に渡るのに数人の騎士しかつけないなど・・・・・・途中で死ねというようなものだ。なぜなら、国境近くには、荒くれ者がたくさんたむろしているからだ。
ほとんど休憩もとらずに、ひたすら馬を走らせた。すると、本当に一台だけの、ブロンディ王国の刻印がはいった馬車が見えてきた。騎士は、3人しかいない。あり得ない。これは、なんの冗談だ?
その馬車を止らせて、中を覗きこむと、女性が一人しか乗っていなかった。この女は奴隷に違いない。途中で殺されるように、わざと護衛が3人なのだろう。
「おい、女。侍女の一人も連れず、荷物もトランク一個か?呆れたな。王女のふりもしないのか?」
私は、質素なドレスをまとった女に声をかけた。その女は、まっすぐに私を見た。私は、恥ずかしながら、その澄んだアメジスト色の瞳と極上の絹糸のような銀の髪の女に胸が高鳴った。その気品ある顔立ちはとても美しかった。奴隷にも、こんな美しい女がいるなど意外だった。
「奴隷にしては美しいな。荷物はトランクひとつだが、一体なにが入っているんだ?」
その女は傷ついた顔をしたが、なにも言わない。奴隷じゃないならスパイか刺客かもしれない。凄腕の刺客なら、護衛が少ないのも頷ける。そう思い直しそのトランクを開けて中を確認した。着古したようなドレスが3着、赤紫のシミだらけのドレスが一着、それだけしか入っていなかった。
「平民の女性が旅行に行くときでさえ、もっとましな支度をするぞ! 一体、君は何者なんだ?」
その女は、泣きそうになりながらも必死で耐えているように見えた。そして、深呼吸をすると、美しい上品な声で完璧なカルロス王国語を話したのだった。
「私の名前を聞く前に、貴方こそ名乗るべきではありませんか?」
その流暢な話し方に、私は驚いた。なんらかの理由で奴隷に落ちたが、元は教養のある令嬢だったのかもしれないし、スパイか刺客?けれど、これだけは言える。王女であるはずはないと。
「私は、カルロス王国の唯一の王子ノーラン・カルロスだ。このような異例の出で立ちで来たあなたを王女と認めることはできない。王女であれば、100人を下らない随行者がつくのが当然だからだ。お前もそう思うだろう?」
「・・・・・・おっしゃる通りだと思います。通常ならあり得ません・・・・・・」
形のいい、薄紅色の唇を噛みしめ長い睫を震わせている女は、消え入りそうな声でそれだけを言って俯いた。この女が何者かは、そのうちわかるだろう。私の側に置いて、ずっと監視してやろう。私は、この極上の綺麗な花を父王の側妃にさせるつもりはない。
「お前は、私の愛妾となれ! 私の側にいつもいるのだ。決して離れてはいけない」
私は、この女に言い渡すと、女の腰を抱き上げて自分の馬に乗せた。
「馬車は、そのまま引き返せ。乗っていた者は死んだ。そう伝えるのだ。または、その馬車を闇で売りさばき全員で金を分け合い、姿をくらませてもよい。いいか?この馬車に乗っていた王女は荒くれ者に殺された。噂を流せ。そうすれば、お前達をここで殺さなくて済む」
私が言うと、同行していたブロンディ王国の騎士達はあっさりと頷いた。御者までもが、下卑た笑いを浮かべ、『この馬車なら高く売れる』と、にんまりしたのだった。
「お待ちください。トランクを持って行かなければいけません」
女は必死の形相で訴えた。私は、あのような粗末なドレスなど、着せるつもりはない。
「捨てておけばよい。もっと、いいものをいくらでも用意しよう」
「だめです。あの紫のドレスだけは、持って行きたいのです。あれだけは、お願い」
とうとう、我慢できずに涙をこぼした女の声に、私はそのシミだらけのドレスを拾い上げて女の手に握らせた。
「ありがとう」
呟いた女の髪を思わず撫でると、馬にひらりとまたがり、女を抱きかかえながらカルロス王国に戻る道を急いだのだった。
-・-・-・-・-・-・-・-・
(※ノーラン・カルロスには、王太子妃も側室もいません)
「三日後には、こちらにお着きになるようです。あちらの王室に潜ませている者に探らせたところ、馬車は一台で護衛の騎士はたった数人だということです」
カルロス王国の宰相ディビットが父上のトリスタン王に報告する。父王は、呆れて即座に私に命令した。
「ノーラン! すぐに騎士を集めて迎えに行け。全く、ブロンディ王国はどういうつもりだ? このような場合であれば護衛騎士は通常、50人は下らない人数をつけるのが常識だ。その際には他の随行者としても50人。合計100人ほどの随行者に40台を超える馬車が妥当な数であろう。王女の輿入れとは、そういうものだ。なのに、馬車が一台で、騎士が数人だと? それは、本当に王女なのか? 身代わりかもしれぬ。カルロス王国も舐められたものだ!」
「全くですな! 多分、王女ではなく、身分の卑しい者と思われます。忌々しいことです」
宰相のディビットは、苦虫を潰したような表情になる。私は、大きくため息をつくと騎士達を即座にまとめて、国境を目指して馬を走らせた。
王女が来るのではないなら、何者なのだ? 侍女か、低位貴族の娘か? いや、貴族ですらないだろう。隣国に渡るのに数人の騎士しかつけないなど・・・・・・途中で死ねというようなものだ。なぜなら、国境近くには、荒くれ者がたくさんたむろしているからだ。
ほとんど休憩もとらずに、ひたすら馬を走らせた。すると、本当に一台だけの、ブロンディ王国の刻印がはいった馬車が見えてきた。騎士は、3人しかいない。あり得ない。これは、なんの冗談だ?
その馬車を止らせて、中を覗きこむと、女性が一人しか乗っていなかった。この女は奴隷に違いない。途中で殺されるように、わざと護衛が3人なのだろう。
「おい、女。侍女の一人も連れず、荷物もトランク一個か?呆れたな。王女のふりもしないのか?」
私は、質素なドレスをまとった女に声をかけた。その女は、まっすぐに私を見た。私は、恥ずかしながら、その澄んだアメジスト色の瞳と極上の絹糸のような銀の髪の女に胸が高鳴った。その気品ある顔立ちはとても美しかった。奴隷にも、こんな美しい女がいるなど意外だった。
「奴隷にしては美しいな。荷物はトランクひとつだが、一体なにが入っているんだ?」
その女は傷ついた顔をしたが、なにも言わない。奴隷じゃないならスパイか刺客かもしれない。凄腕の刺客なら、護衛が少ないのも頷ける。そう思い直しそのトランクを開けて中を確認した。着古したようなドレスが3着、赤紫のシミだらけのドレスが一着、それだけしか入っていなかった。
「平民の女性が旅行に行くときでさえ、もっとましな支度をするぞ! 一体、君は何者なんだ?」
その女は、泣きそうになりながらも必死で耐えているように見えた。そして、深呼吸をすると、美しい上品な声で完璧なカルロス王国語を話したのだった。
「私の名前を聞く前に、貴方こそ名乗るべきではありませんか?」
その流暢な話し方に、私は驚いた。なんらかの理由で奴隷に落ちたが、元は教養のある令嬢だったのかもしれないし、スパイか刺客?けれど、これだけは言える。王女であるはずはないと。
「私は、カルロス王国の唯一の王子ノーラン・カルロスだ。このような異例の出で立ちで来たあなたを王女と認めることはできない。王女であれば、100人を下らない随行者がつくのが当然だからだ。お前もそう思うだろう?」
「・・・・・・おっしゃる通りだと思います。通常ならあり得ません・・・・・・」
形のいい、薄紅色の唇を噛みしめ長い睫を震わせている女は、消え入りそうな声でそれだけを言って俯いた。この女が何者かは、そのうちわかるだろう。私の側に置いて、ずっと監視してやろう。私は、この極上の綺麗な花を父王の側妃にさせるつもりはない。
「お前は、私の愛妾となれ! 私の側にいつもいるのだ。決して離れてはいけない」
私は、この女に言い渡すと、女の腰を抱き上げて自分の馬に乗せた。
「馬車は、そのまま引き返せ。乗っていた者は死んだ。そう伝えるのだ。または、その馬車を闇で売りさばき全員で金を分け合い、姿をくらませてもよい。いいか?この馬車に乗っていた王女は荒くれ者に殺された。噂を流せ。そうすれば、お前達をここで殺さなくて済む」
私が言うと、同行していたブロンディ王国の騎士達はあっさりと頷いた。御者までもが、下卑た笑いを浮かべ、『この馬車なら高く売れる』と、にんまりしたのだった。
「お待ちください。トランクを持って行かなければいけません」
女は必死の形相で訴えた。私は、あのような粗末なドレスなど、着せるつもりはない。
「捨てておけばよい。もっと、いいものをいくらでも用意しよう」
「だめです。あの紫のドレスだけは、持って行きたいのです。あれだけは、お願い」
とうとう、我慢できずに涙をこぼした女の声に、私はそのシミだらけのドレスを拾い上げて女の手に握らせた。
「ありがとう」
呟いた女の髪を思わず撫でると、馬にひらりとまたがり、女を抱きかかえながらカルロス王国に戻る道を急いだのだった。
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(※ノーラン・カルロスには、王太子妃も側室もいません)
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