(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏

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8-1 if. もしもチャーリー王子殿下が改心していたら海編(チャーリー王子殿下視点)

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俺はカートレッド大公に、
「海がいいなぁ」
と答えた。

ーー旅行気分で答えた俺は甘かった……

今俺は氷に囲まれた世界で漁をしている。
ここは凄まじく寒い。
気温は常に氷点下で風速40メートルの強烈な風が吹きつける。
体感温度はおそらく氷点下マイナス30度にもなりそう。

波の高さは高いときには15から18メートル。
それはとてつもなく大きな高波だ。
天候が荒れる日は何日も続き10メートルの高波なんか日常茶飯事だ。

ここで捕獲するのはカニ。
カニはこの世界では高級品で
それがここでは最高品種がたくさん取れる。
つまりここは宝の山なんだ。

しかしこれは過酷な作業だった。
ここでは寝ることもままならない。

仮眠、これはほんの30分ほどしか取れないこともあり
2、3日眠れないこともざらにある。
カニを取る大きな籠を船底に一つ一つ沈めていき
それを引き上げる作業が延々と続く。
その重い籠は引き上げるときにも事故につながり
まさに命がけだった。

船には氷が張り付くこともあってそのまま放っておくと転覆してしまう。
なので船についた大量の氷をハンマーで何時間もかけて叩き落とす作業もしなければならない。

そんな中俺は必死で生きるために黙々と作業に打ち込んだ。
言葉通りの生きるか死ぬかの瀬戸際の中で
俺は自分の人生が今までどんなに恵まれていたかを思い知った。

当たり前のようにご馳走を食べ
側近にちやほやされ
自分の行いにも責任を持たず
威張り散らすだけの人生だった。

世の中にはこのようなことまでして
お金を稼がなければならない者がいることを知らなかった。
この漁ではかなりのお金が手に入るけれど
王子として生まれた俺にとってはそんな金額ははした金だった。

つまり俺はこれによって教えられたんだ。
お金を稼ぐことがいかに大変か。
生きていくことがどんなに辛く過酷なものかを初めて思い知ったのだ。

「よぉ、俺はハンスって言うんだ。お前の名前は? そっか、そっか。チャーリーって言うんだな、仲良くしようぜ。俺はさぁ、実は長くは生きられないんだ。あと5年も生きられれば上等だって感じの病気なんだよ。だからどうせ死ぬなら一攫千金を狙いたくてな。それでここに来たんだよ。大金を手に入れたら残りの人生を派手に楽しく暮らしてやろうっていう怠け者の発想なんだけどな」
おしゃべりな人懐っこいその男はたびたび俺に話しかけてきた。

正直馬鹿だなと思っていた。もうすぐ死ぬなら何もこんな大変な船に乗り込むことなんてないのに。変わってるな、そんなふうに俺は思っていた。


ある日、大きな高波が来て荒れ狂う海に放り出されそうになった俺。それを助けてくれたのがその男だった。代わりにそいつが海に落ちた瞬間、俺は叫んでいた。
「なんでお前は俺を助けたんだよ! そんなこと頼んでないじゃないか!」
主従関係にあるわけでもないのに俺を命をかけて救ってくれた男に戸惑いを隠せない。初めて人に対して申し訳ないという気持ちが起こった。

幸い高波にさらわれ海に落ちた男は甲板に繋ぎとめられた命綱のおかげで助かったがかなりの怪我を負っていた。正直このような事故で助かったのは奇跡的だった。

「俺はさぁ、長く生きられないからお前が助かったほうがいいなと思ったんだ。でもお互い助かったのはラッキーだったよな。これも神の思し召しだ」
男の言葉で俺は神に感謝し生まれ変わることを誓ったのだった。


続く
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