(完)私を捨てるですって? ウィンザー候爵家を立て直したのは私ですよ?

青空一夏

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5 出しゃばり女の愚かな発言(ウィンザー侯爵家の鰻屋本店の板前さん視点)

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俺はウィンザー侯爵家の鰻屋の従業員で、エリザベート様にさばき方を教わり一生懸命ここで働いていた。エリザベート様は仕事がとても丁寧で鰻への愛が溢れていた。

焼き方も宝物を扱うようにじっくりと火の上で何度も返しながら焼く。骨がたくさんある魚だけれど丁寧にさばき適切に焼けば、骨が柔らかくなり喉に刺さるようなことはないと教えてくれたんだ。

だから、厨房では皆教わった通りに丁寧な仕事を心がけていた。ところが、その師匠であるエリザベート様がウィンザー侯爵家を追い出されたと聞かされ、俺達はウィンザー侯爵家への不満を募らせていた。

「あんなに素晴らしい鰻職人を追い出すなんて! あの方がいたからこうして繁盛したのになぁ」

「新しくウィンザー侯爵が連れてきた奥方は鰻屋の女将を気取っているだけで、鰻の焼き方なんて知りもしない。早く調理してお客様に出せって言うだけだろう? 嫌になるよぉ」

「子供の世話だけしていればいいのになんであんな人が店に来るんだ? いいかげんやめてほしいよなぁ。偉そうに指図してさぁ~~」

「んだよぉ。肝心のウィンザー侯爵は来ないけどな。エリザベート様を出しゃばる女って悪く言ってたウィンザー侯爵は馬鹿だよなぁ。エリザベート様はしっかり活躍していたのに。あの新しい奥様こそ出しゃばりだよな。鰻のことなんてなんにも知らないのにさぁ~~」
そんな愚痴をこぼしつつも厨房でやる気も薄れながら働く俺達。


そうして、従業員は半分ほど辞めていき俺もそろそろ辞めたくなっていた。
「調理の時間が長すぎなのよ。もっとさっさと効率的にやってよ! そうすればお客の回転率があがってもっと稼げるわ!」
香水をプンプンさせた若い奥方は着飾って指図をしやがるんだ。もうどうにでもなれ! とばかりに雑にさばいて、どんどん焼いて行く俺さ。

そうしたら店内で5人も喉に骨が刺さったと騒ぎ出して・・・・・・それが子供と老人だったから奥様は言ってはいけないことを言ってしまった。

「鰻は老人と子供の食べ物じゃないのよ! 意地汚くかっこむから喉に骨が刺さるのよ! 当店のせいではございません!」


この発言は地元の新聞もとりあげ、鰻ファンの反感を買った。鰻は高級品、家族で来ても会計は祖父母が払う特別な食べ物だった。そして、ファミリーで来る以上は子供だって鰻を食べるわけで、老人と子供を敵に回すなんて愚かなことだった。

しかも病院に運ばれた老人の一人はかなり喉に深く刺さっていたらしく、ウィンザー侯爵家は訴えられることになった。

これがいわゆる『小骨事件』。
これにより、ウィンザー侯爵家の鰻店は閉店に追い込まれるのだった。

なぜなら老人達がウィンザー侯爵家の鰻屋廃除運動をはじめたからだった。そして代わりにエリザベート様特製ひつまぶしが、有名グルメ雑誌で特集を組まれて、鰻ファンは全てそちらに流れていったのだった。
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