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3 私の底力を見せてやる! / 衝撃の『ひつまぶし』(ある女性客視点)
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「チャムリー侯爵様、ひとつ提案がありますわ! この私に融資してくださいませんか? 私は貧乏伯爵家の三女、頼りにできる両親はすでにおりません。離婚の際に渡されたのはわずかな生活費だけ。それでも私の頭の中にはたくさんのアイディアという財産が詰まっております。必ず損はさせませんわ!」
「ほぉ! 流石、あの事業をここまで成長させた女傑ですな。いいでしょう」
「では利益が上がったら融資していただいたお金を利息をつけてお返しするという条件でお願いしますわ。半永久的に売り上げの何パーセント取られるのは遠慮したいですわね。それと契約書と念の為に弁護士の立会人と公証役場での証書保管をお願いします」
「ふふふ。しっかりしている。感服しましたぞ! 元侯爵夫人というよりは、やり手の商人ですなぁ。頼もしい限りだ」
チャムリー侯爵様は私のお父様のようなご年齢で、私を娘のような眼差しで見るのだった。
☆彡★彡☆彡
さぁて! 鰻はただのうな重だけじゃない楽しみ方があるのよねぇ~~。それは言わずと知れた日本人なら誰でも知っている食べ方だわ。これを夫の事業で導入しなくて良かったわ
私は早速、鰻をさばく。幼い頃から父の仕事を見てきた私はもちろん父の一番弟子だった。
まずは大暴れする鰻ちゃんを大量の氷に沈めて仮死状態にしておくのよ。そうしないと暴れてとても調理できないからね。頭の付け根あたりに包丁を入れて締めたら目打ち、まな板に固定よ。・・・・・・さっさといつもの手順通りにさばいて串打ち。夫のお店では秘伝のタレのうな重しか出していなかったから、あえてこちらは白焼きとひつまぶしも加えて対抗してやるわ!
白焼きはあっさりとポン酢や塩、わさびなど乗せてもイケる。ポン酢なんて異世界ではないけれど醤油に似た調味料も酢に似た液体もあるから、エリザベート風ポン酢はすぐに作れちゃった。
ひつまぶしは、食べやすい大きさに切った鰻ちゃんに焦がしネギ(ネギもあるのがご愛敬よね)をかけて薬味は小口切りのネギや柚胡椒、もちろん鰻の上にかけるお出汁も用意する。これって女性がよく好んで食べるものよ。上品に食べられるし味変できて一度で二度も三度も美味しいの!
柚胡椒もこの世界にある食材で作り出したわ。山椒も同じく似たような調味料が存在していた。きっとここは日本人が考え出した異世界。考えれば考えるほど不思議な世界だった。
それでも、朝になれば目覚めるしこれが夢でないのは確か・・・・・・ならば今できることをやるしかないでしょう? なぜ、この世界に来たのかもわからないし、転生者だと気がついたのは結婚後からのことだった。
――ふふふ、見ていなさいよ! この私の底力を~~。良かったわぁ、前世が鰻屋の娘で!日本よ、父さんよ、ありがとぉおおぉおおお~~
ꕤ୭*エリザベートの新規展開した店に訪れた客視点
私はこのところ大人気の鰻屋というものにハマっているわ。ウィンザー侯爵家の奥方が考案したという鰻の蒲焼き。そのおいしいことったら! カリッとした香ばしい風味の皮の歯ごたえと、ふっくらした身のあっさりしたなかにも確実に感じられる魚の上品な旨味。まさにお口の中は、お魚パラダイス! 全然、生臭くないのよ!
あんな不気味な形とは裏腹にその味わいは人々を魅了してやまない。素晴らしい食べ物なのよねぇ。しかもスタミナがついて美容にもいいんですって。これは食べない手はないわ。
ところが最近、その鰻屋のお味が落ちたともっぱらの悪評だった。確かに私もそう思うのよね。店舗数が増えるに従って焼き方が雑になっているような気がするし、タレの味も最初の頃のものと微妙に違うのよ。魚そのものも、小骨が多いような気がするわ。
そうしたら案の定、お家騒動があって奥方が追い出されたっていうじゃない! そしてすぐにウィンザー侯爵は別の女と再婚。派手に披露宴をやったけれど私達女性の鰻屋ファンとしては到底祝福できるものではないわ!
やっぱり、ほら、経営者の人間性って従業員にも反映するのかしらね? あの店では従業員がかなり入れ替えられていて新しい店員の無愛想なことったら!
それで今回、私達女性ファンは待望の元奥方の店が開店したと聞き早速訪れたってわけよ。新しいお店は鰻屋というよりおしゃれなカフェのような店構え。
私は女友達7人を引き連れて店内に入ったの。綺麗な店内は女性向きの可愛い小物で飾られてとても寛げるかんじ。これは女性同士で来るのにぴったりだわ!
客層も若い子が多くて、皆がにこにこと頬張っているのは・・・・・・なんてことかしら? なぁに? 小ぶりのポットに入ったお湯をうな重にかけている? えぇ~~!!
私達は早速、その『ひつまぶし』というのを頼んだわよっ! 待つ時間もとてもわくわくしたの。鰻ってこうして待つこともおつなものよねぇ。これから来る大ご馳走に思いをはせ、私達はウィンザー侯爵の悪口に花を咲かせた。
「ウィンザー侯爵はずいぶん若い子と再婚したそうじゃない? おまけにお腹にはすでに子供がいるとか・・・・・・人でなしよねぇ。奥方が立て直した事業を自分の手柄にしてさぁ」
「そんな男にはきっと天罰がくだるわよぉ~~。神様はきっといつでも見ていらっしゃるわ」
「うっふふ。確かに天罰が用意されていそうねぇ。現にさっきお茶を持って来た店員を見た? ウィンザー侯爵家の鰻屋の本店にいた従業員じゃない? ほら、あそこの子も!」
「まぁ~~、本当ねぇ。そっか、従業員もあの人でなし無能男に愛想を尽かしたのね? これは潰れるのも時間の問題ね」
そして、私達は待望の『ひつまぶし』を目の前にし、感動にむせび泣いたわ! 世の中にこんな美味しいものがあったなんてぇえええええ~~
そのお味は・・・・・・
「ほぉ! 流石、あの事業をここまで成長させた女傑ですな。いいでしょう」
「では利益が上がったら融資していただいたお金を利息をつけてお返しするという条件でお願いしますわ。半永久的に売り上げの何パーセント取られるのは遠慮したいですわね。それと契約書と念の為に弁護士の立会人と公証役場での証書保管をお願いします」
「ふふふ。しっかりしている。感服しましたぞ! 元侯爵夫人というよりは、やり手の商人ですなぁ。頼もしい限りだ」
チャムリー侯爵様は私のお父様のようなご年齢で、私を娘のような眼差しで見るのだった。
☆彡★彡☆彡
さぁて! 鰻はただのうな重だけじゃない楽しみ方があるのよねぇ~~。それは言わずと知れた日本人なら誰でも知っている食べ方だわ。これを夫の事業で導入しなくて良かったわ
私は早速、鰻をさばく。幼い頃から父の仕事を見てきた私はもちろん父の一番弟子だった。
まずは大暴れする鰻ちゃんを大量の氷に沈めて仮死状態にしておくのよ。そうしないと暴れてとても調理できないからね。頭の付け根あたりに包丁を入れて締めたら目打ち、まな板に固定よ。・・・・・・さっさといつもの手順通りにさばいて串打ち。夫のお店では秘伝のタレのうな重しか出していなかったから、あえてこちらは白焼きとひつまぶしも加えて対抗してやるわ!
白焼きはあっさりとポン酢や塩、わさびなど乗せてもイケる。ポン酢なんて異世界ではないけれど醤油に似た調味料も酢に似た液体もあるから、エリザベート風ポン酢はすぐに作れちゃった。
ひつまぶしは、食べやすい大きさに切った鰻ちゃんに焦がしネギ(ネギもあるのがご愛敬よね)をかけて薬味は小口切りのネギや柚胡椒、もちろん鰻の上にかけるお出汁も用意する。これって女性がよく好んで食べるものよ。上品に食べられるし味変できて一度で二度も三度も美味しいの!
柚胡椒もこの世界にある食材で作り出したわ。山椒も同じく似たような調味料が存在していた。きっとここは日本人が考え出した異世界。考えれば考えるほど不思議な世界だった。
それでも、朝になれば目覚めるしこれが夢でないのは確か・・・・・・ならば今できることをやるしかないでしょう? なぜ、この世界に来たのかもわからないし、転生者だと気がついたのは結婚後からのことだった。
――ふふふ、見ていなさいよ! この私の底力を~~。良かったわぁ、前世が鰻屋の娘で!日本よ、父さんよ、ありがとぉおおぉおおお~~
ꕤ୭*エリザベートの新規展開した店に訪れた客視点
私はこのところ大人気の鰻屋というものにハマっているわ。ウィンザー侯爵家の奥方が考案したという鰻の蒲焼き。そのおいしいことったら! カリッとした香ばしい風味の皮の歯ごたえと、ふっくらした身のあっさりしたなかにも確実に感じられる魚の上品な旨味。まさにお口の中は、お魚パラダイス! 全然、生臭くないのよ!
あんな不気味な形とは裏腹にその味わいは人々を魅了してやまない。素晴らしい食べ物なのよねぇ。しかもスタミナがついて美容にもいいんですって。これは食べない手はないわ。
ところが最近、その鰻屋のお味が落ちたともっぱらの悪評だった。確かに私もそう思うのよね。店舗数が増えるに従って焼き方が雑になっているような気がするし、タレの味も最初の頃のものと微妙に違うのよ。魚そのものも、小骨が多いような気がするわ。
そうしたら案の定、お家騒動があって奥方が追い出されたっていうじゃない! そしてすぐにウィンザー侯爵は別の女と再婚。派手に披露宴をやったけれど私達女性の鰻屋ファンとしては到底祝福できるものではないわ!
やっぱり、ほら、経営者の人間性って従業員にも反映するのかしらね? あの店では従業員がかなり入れ替えられていて新しい店員の無愛想なことったら!
それで今回、私達女性ファンは待望の元奥方の店が開店したと聞き早速訪れたってわけよ。新しいお店は鰻屋というよりおしゃれなカフェのような店構え。
私は女友達7人を引き連れて店内に入ったの。綺麗な店内は女性向きの可愛い小物で飾られてとても寛げるかんじ。これは女性同士で来るのにぴったりだわ!
客層も若い子が多くて、皆がにこにこと頬張っているのは・・・・・・なんてことかしら? なぁに? 小ぶりのポットに入ったお湯をうな重にかけている? えぇ~~!!
私達は早速、その『ひつまぶし』というのを頼んだわよっ! 待つ時間もとてもわくわくしたの。鰻ってこうして待つこともおつなものよねぇ。これから来る大ご馳走に思いをはせ、私達はウィンザー侯爵の悪口に花を咲かせた。
「ウィンザー侯爵はずいぶん若い子と再婚したそうじゃない? おまけにお腹にはすでに子供がいるとか・・・・・・人でなしよねぇ。奥方が立て直した事業を自分の手柄にしてさぁ」
「そんな男にはきっと天罰がくだるわよぉ~~。神様はきっといつでも見ていらっしゃるわ」
「うっふふ。確かに天罰が用意されていそうねぇ。現にさっきお茶を持って来た店員を見た? ウィンザー侯爵家の鰻屋の本店にいた従業員じゃない? ほら、あそこの子も!」
「まぁ~~、本当ねぇ。そっか、従業員もあの人でなし無能男に愛想を尽かしたのね? これは潰れるのも時間の問題ね」
そして、私達は待望の『ひつまぶし』を目の前にし、感動にむせび泣いたわ! 世の中にこんな美味しいものがあったなんてぇえええええ~~
そのお味は・・・・・・
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