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ほどなくして、アデラインは姉から奪ったレオン王太子の妻になった。だが王太子妃になったというのに少しも嬉しくはない。レオンはアデラインを愛してくれた。しかし……


彼の愛はとてものである。彼の愛はメイドや侍女達、社交界で親しくしている未亡人達の個人的な悩みの相談に熱心に乗るほど広い範囲に及んだ。

「なぜ、使用人や未亡人達の相談にそれほど親身になるのですか? しかもプライベートな事柄で女性の綺麗な人ばかりにみえます!」

「僕の愛は広いからね! だって君の姉と婚約していながら妹の君の相談にも幾度となく乗っていただろう?」

言われてみれば姉からアデラインに簡単に乗り換えたレオン王太子なのだから、アデラインを妃に迎えてもその性質は変わらない。侍女やメイドと深い仲になりそれを相談と言う。社交界では若い未亡人達と浮気をしそれも相談と言った。

そうして毎日王宮に訪れるヒューストン公爵夫妻はジギタリスの葉の煎じクスリをアデラインに飲ませるのだった。
「私たちの娘はアデラインだけになったわ。あなたは私たちの宝なのよ。だからこれを毎日飲んで長生きしてちょうだいね」
母親であるヒューストン公爵夫人が善意100パーセントの微笑みでアデラインの口元にクスリを差し出すのである。

アデラインはそのジギタリスの葉の煎じクスリを毎日、確実に飲み干さなければならない。それはアデラインが心臓を病んでいるからこそ必要な強心剤と思われていたからである。しかし実は全く健康なアデラインが飲み続けた場合、果たしてどのような副作用がおとずれるのかは不明である。

(私はとても健康で、本当はこのようなクスリなどいらないのよ!)
心の中で叫ぶけれど、姉を死に追いやったアデラインに言えるはずもなかった。

そうして、今日も明日もこの先ずっと侍女や未亡人達と愛を囁く夫を眺め、自分の命を縮めるであろうクスリを毎食飲まされるのであった。

それから半年も経たないというのにアデラインの容姿は激変していた。体重も減り髪も抜け肌はカサカサに乾ききり、老婆のように腰が曲がる。バーバラが処刑された場面が繰り返し脳裏に浮かび、姉が悲しげに泣く夢を毎日のように見るのだ。

神様、ごめんなさい!
神様、助けて!

毎日、毎日、神に祈るけれど……アデラインの祈りに応える神はいない。






次第に衰弱していくアデラインが向かった先は姉の死体が晒され続けた処刑場の広場だった。今もむごたらしく晒され続けている姉の髑髏どくろをそっと抱え最後に呟いた言葉は姉への謝罪と願いであった。

「ごめんなさい。お姉様。私が間違っていました。お姉様の言うことが全て正しかったのに……私がこのまま死ぬのは自業自得だけれど……私に魔女の力があるのならお姉様だけは生き返らせてあげたいわ。ごめんね、お姉様……神様、お姉様をどうか生き返らせてください……お願い」

アデラインはその処刑場にうずくまり子供のように激しく泣きじゃくったのである。







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