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「バカな子ね。今ならまだ間に合うのに……」
バーバラの言葉にアデラインは爆笑する。

「ばっかみたい! これが魅了の魔法ならもっと、もっと使うべき力だわよ。なんでも思いのままじゃない?」
高笑いを浮かべたアデラインにバーバラは哀れむような視線を向けた。
その視線がアデラインにとってはとても鬱陶しい。

(お姉様も、もう少し静かにしてくれればいいのに……そうだわ……私が王太子妃になればお姉様の悔しがる顔が見られて、きっとあのお節介なお説教もなくなるわ)


アデラインは姉バーバラの婚約者レオン王太子に近づき……目の前で倒れて見せる。レオン王太子は慌ててアデラインに寄り添い、お姫様抱っこで優しく囁いた。

「大丈夫? そんなに頻繁に倒れるのはただの病気ではなく心臓の病なのかな? 隣国ではジギタリスが強心剤として有効だと聞いているよ。最近疲れやすかったりおかしな咳が出るかい?」

「えぇ、最近とても疲れます……私、それで困っていたのです……お姉様は私を仮病扱いして虐めるし……レオン様相談に乗っていただけますか?」

「もちろんだよ。なんでも相談に乗るからいつでも僕を頼っておくれ」

そのような言葉をもらったアデラインは毎日のように潤んだ瞳をレオンに向けて、体調の異変を訴え続けた。


「最近お散歩をするだけで疲れてしまいますの。息切れが酷くてはぁはぁしてしまったり、おかしな咳まででてしまって……そうするとお姉様はわざと私にいろいろ用事を言いつけるのですわ。侍女のようにこき使って……」

「それならきっとジギタリスの煎じ薬が効くと思うよ。隣国から手に入らないか手配してみるから待っていて。そのままにしておくと命の危険もあるから急がせるね…… それからバーバラのことは許せないなぁ。懲らしめてあげるから大丈夫だよ」

アデラインの両親もそれを信じバーバラを責め、アデラインの病気の回復だけを願うようになった。アデラインはレオン王太子と密会を重ね、両親に涙ながらに訴える。
「私がレオン殿下の婚約者になりたいです! お姉様は王太子妃に相応しくありませんわ……」
両親とレオンにいかに姉バーバラに虐められていたかを力説、そのような話を簡単に信じ込むことに笑いがとまらない。







そうして王家主催の舞踏会の日、バーバラに一方的に告げられた婚約破棄の宣言。
「バーバラ・ヒューストン公爵令嬢! レオン・ミカスキーは君との婚約破棄を宣言する。病におかされた妹アデラインを虐待してきた罪は重い。君は人でなしだよ! 病弱な妹を虐めるなど人としてあるまじき行為だ! 死刑に処すから覚悟しておけ!」
その横で途中まで得意気に微笑んだアデラインが最後の言葉に驚愕の叫びをあげた。


「え! なぜ死刑なのです? それは重すぎですわ! 謹慎ぐらいでいいですからっ!」
アデラインは心の底からバーバラを庇う。確かにアデラインは姉が嫌いだけれど、死んで欲しいほどではない。お説教をしなくなって少しだけ謙虚におとなしくなってほしい、そんなくらいにしか考えていなかったのだ。

(嘘よ! こんなことぐらいで死刑になんてなるわけないわ……どうしたらいい?)
 
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