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後編
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(ロベール(アンセル)視点)
あの新規開店した店は、わたしのマッサージ店と同じ普通のマッサージ店だ。しかし、高給娼婦の極上美女からマッサージされるなど男からしたら天国だ。通常料金の2倍とっても来る客はいそうだが、それがわたしの店より安いなどあり得ない。そんなんで利益は出るのか? もう、わたしの店はお終いだ。
案の定、客は皆そちらに流れていく。
焦ったわたしは店の女達に、「隣店と張り合う為にサービスを強化しろ」と、命令した。しかし、それがいけなかった。
「皆そこを動くな。風俗営業法4649条違反ですので牢屋に拘留します。娼館のようなサービスをするなら衛生局と性病蔓延防止委員会に届けて、毎月女性は検査を受けさせる義務があることは知っていますね? 客からそのようなサービスを受けたと複数通報が入りました。明らかに違法営業です。オーナーの罰金は500万ダラ(1円=1ダラ)ね。女性達は罰金5万ダラ。営業停止処分になりますよ。不服があるなら30日以内に審査請求してください」
ぞろぞろとやって来たのは風俗取り締まり委員会の人間達だ。
「サービス強化しろ、とは女達には言ったがそこまでしろなんて言ってないです。女達が勝手にやったんだ」
「指示したかどうかは関係ないです。あなたの店なんだから、そこで起きた違反行為の責任を取るのは当たり前ですよね?」
わたしの店は潰れて、収入がなくなったわたしは途方にくれる。しかしまだ貯金はあったはずだし、しばらくはなんとかなりそうだと思っていたら・・・・・・妻が有り金全部持ち、さらには借用書の束をテーブルに残し失踪した。
全ての書類の借主はわたしになっており、印も押されて債権者が押し寄せる。
「わたしが借りたお金じゃないです。妻が借りたお金ですからわたしに支払い義務などない」
「そんな言い訳は通用しませんよ。書類の借主は夫のあなたになっている。10日で5割の利息だぞ」
そのような高い利息で貸すところは、闇の者達が経営するプロの金貸し屋だ。理屈が通用する相手ではない。
(妻を探すしかないのか? 酷いよ。わたしに借金を押しつけて逃走しやがった)
毎晩どんどんと叩かれる扉に安眠妨害され、返さなければ海に沈めるなどと脅された。
(待てよ? ロベールからアンセルに戻れば借金から免れられないか? そうだよ、ミリアンに会いにいけばいい。記憶喪失とか適当なことを言って、たった今、記憶が蘇ったことにすればいい)
わたしはラスディラス伯爵家の門を叩き、ミリアンを呼んでくれるように門番に頼み込む。
「ミリアンさんは浮浪者には会いませんよ」
「そこをなんとか。ここに連れて来てくれるだけでいいんだ。わたしは彼女の夫だ」
土下座して頼み込み、アランと一緒に現れたミリアン。捨てた頃より格段に綺麗になっていた。輝く金髪に淡い水色の瞳。侍女服を着ているのに爪も手入れされており、どうみても侍女には見えない。
「ごめんよ。盗賊に襲われて記憶をなくしており、公園でずっと路上生活をしていたんだ」
ボロボロの服を着て髪もボサボサ、ヨレヨレなわたしはどう見ても浮浪者だ。
「え? アンセルさんなの? 生きていたなんて凄いわ。早速、こちらのラスディラス伯爵にお金を返してもらえます? 立て替えてもらっただけで、私の労働で返す約束になっていたから」
「労働で返す?」
「そうだ。たった今からお前はアンセルだ。裁判所に失踪宣告の取り消しを申請しなさい。アンセル君には労働といっても、人助けの皆から感謝する仕事をしてもらうだけだよ」
私は以前、このアランに喧嘩を売ったことも忘れて、その優しい言葉をうのみにした。
私は失踪宣告の取り消しを願い出て、アンセルに戻り楽な仕事をこなしていくつもりだった。
私は”よろず困り事請負商会”の従業員になった。これはアランが新しく立ち上げた商会の名前だ。文字通り、なんでも困ったことを助ける仕事で従業員はわたしだけ。
(簡単な困りごとを解決する仕事か。リンゴの収穫を手伝ってくれとか、草むしりとか、きっとそんな日常のお手伝い程度だよな。ミリアンの従兄弟だけあってお人好しだ)
わたしはアランに呼び出され最初の仕事内容を聞く。
「さて、アンセル君。今日の仕事は熊退治だ。農民がすでに5人も食われている凶悪な人食い熊らしいよ。はい、これが武器ね。大丈夫、この複合弓はすごい威力なのだよ。これはわたしが最近開発させたもので、かなり自信のある試作品なんだ。熊が仕留められたらいい宣伝になる。頼んだよ」
「く、熊?」
「そうさ。皆困っているのだ。人助けをしてあげなさい。ちなみに、明日はスズメバチ駆除だ。では、頑張りたまえ」
(くっそ、嵌められた。助けて・・・・・・まだ死にたくないよぉ)
わたしはアランの横にいるミリアンに助けを求める。
「ミリアン、ラスディラス伯爵になんとか言ってくれよ。こんな仕事なんてできないよ。死んでしまう」
「わたしにとって、アンセルさんは1年半前にすでに死んでいます。それと呼び捨てにするのはやめていただけません?」
「そんな・・・・・・冷たいなぁ。わたしはミリアンの夫だよね?」
「私の夫は死にました」
おしまい
あの新規開店した店は、わたしのマッサージ店と同じ普通のマッサージ店だ。しかし、高給娼婦の極上美女からマッサージされるなど男からしたら天国だ。通常料金の2倍とっても来る客はいそうだが、それがわたしの店より安いなどあり得ない。そんなんで利益は出るのか? もう、わたしの店はお終いだ。
案の定、客は皆そちらに流れていく。
焦ったわたしは店の女達に、「隣店と張り合う為にサービスを強化しろ」と、命令した。しかし、それがいけなかった。
「皆そこを動くな。風俗営業法4649条違反ですので牢屋に拘留します。娼館のようなサービスをするなら衛生局と性病蔓延防止委員会に届けて、毎月女性は検査を受けさせる義務があることは知っていますね? 客からそのようなサービスを受けたと複数通報が入りました。明らかに違法営業です。オーナーの罰金は500万ダラ(1円=1ダラ)ね。女性達は罰金5万ダラ。営業停止処分になりますよ。不服があるなら30日以内に審査請求してください」
ぞろぞろとやって来たのは風俗取り締まり委員会の人間達だ。
「サービス強化しろ、とは女達には言ったがそこまでしろなんて言ってないです。女達が勝手にやったんだ」
「指示したかどうかは関係ないです。あなたの店なんだから、そこで起きた違反行為の責任を取るのは当たり前ですよね?」
わたしの店は潰れて、収入がなくなったわたしは途方にくれる。しかしまだ貯金はあったはずだし、しばらくはなんとかなりそうだと思っていたら・・・・・・妻が有り金全部持ち、さらには借用書の束をテーブルに残し失踪した。
全ての書類の借主はわたしになっており、印も押されて債権者が押し寄せる。
「わたしが借りたお金じゃないです。妻が借りたお金ですからわたしに支払い義務などない」
「そんな言い訳は通用しませんよ。書類の借主は夫のあなたになっている。10日で5割の利息だぞ」
そのような高い利息で貸すところは、闇の者達が経営するプロの金貸し屋だ。理屈が通用する相手ではない。
(妻を探すしかないのか? 酷いよ。わたしに借金を押しつけて逃走しやがった)
毎晩どんどんと叩かれる扉に安眠妨害され、返さなければ海に沈めるなどと脅された。
(待てよ? ロベールからアンセルに戻れば借金から免れられないか? そうだよ、ミリアンに会いにいけばいい。記憶喪失とか適当なことを言って、たった今、記憶が蘇ったことにすればいい)
わたしはラスディラス伯爵家の門を叩き、ミリアンを呼んでくれるように門番に頼み込む。
「ミリアンさんは浮浪者には会いませんよ」
「そこをなんとか。ここに連れて来てくれるだけでいいんだ。わたしは彼女の夫だ」
土下座して頼み込み、アランと一緒に現れたミリアン。捨てた頃より格段に綺麗になっていた。輝く金髪に淡い水色の瞳。侍女服を着ているのに爪も手入れされており、どうみても侍女には見えない。
「ごめんよ。盗賊に襲われて記憶をなくしており、公園でずっと路上生活をしていたんだ」
ボロボロの服を着て髪もボサボサ、ヨレヨレなわたしはどう見ても浮浪者だ。
「え? アンセルさんなの? 生きていたなんて凄いわ。早速、こちらのラスディラス伯爵にお金を返してもらえます? 立て替えてもらっただけで、私の労働で返す約束になっていたから」
「労働で返す?」
「そうだ。たった今からお前はアンセルだ。裁判所に失踪宣告の取り消しを申請しなさい。アンセル君には労働といっても、人助けの皆から感謝する仕事をしてもらうだけだよ」
私は以前、このアランに喧嘩を売ったことも忘れて、その優しい言葉をうのみにした。
私は失踪宣告の取り消しを願い出て、アンセルに戻り楽な仕事をこなしていくつもりだった。
私は”よろず困り事請負商会”の従業員になった。これはアランが新しく立ち上げた商会の名前だ。文字通り、なんでも困ったことを助ける仕事で従業員はわたしだけ。
(簡単な困りごとを解決する仕事か。リンゴの収穫を手伝ってくれとか、草むしりとか、きっとそんな日常のお手伝い程度だよな。ミリアンの従兄弟だけあってお人好しだ)
わたしはアランに呼び出され最初の仕事内容を聞く。
「さて、アンセル君。今日の仕事は熊退治だ。農民がすでに5人も食われている凶悪な人食い熊らしいよ。はい、これが武器ね。大丈夫、この複合弓はすごい威力なのだよ。これはわたしが最近開発させたもので、かなり自信のある試作品なんだ。熊が仕留められたらいい宣伝になる。頼んだよ」
「く、熊?」
「そうさ。皆困っているのだ。人助けをしてあげなさい。ちなみに、明日はスズメバチ駆除だ。では、頑張りたまえ」
(くっそ、嵌められた。助けて・・・・・・まだ死にたくないよぉ)
わたしはアランの横にいるミリアンに助けを求める。
「ミリアン、ラスディラス伯爵になんとか言ってくれよ。こんな仕事なんてできないよ。死んでしまう」
「わたしにとって、アンセルさんは1年半前にすでに死んでいます。それと呼び捨てにするのはやめていただけません?」
「そんな・・・・・・冷たいなぁ。わたしはミリアンの夫だよね?」
「私の夫は死にました」
おしまい
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闇金はどこまでも追いかけて来ますよね
法律なんてないよーーなものです
ざまぁ、こちら多分控えめだったかも💦
結構なざまぁ感((*´艸`))
そうです
一部の方には作者名で避けられているらしいです(¯∇¯٥)
残酷R18は拷問場面まで描写しますので
ありがとうございます
ざまぁ多め希望ですね
次ちょっと書いてみます
(*-∀-*)ゞエヘヘ
|
🔴
/´!`\。・
(⭐・.🔹・.)゚
ヾ🔸__〆.・。
 ̄∥ ̄・゚.・✨
✨ | ̄8!゚・
!*夏・|・ チリ~ン
・.:・ノ ノ・.ノ
゚。:゚・∠∠_〆 チリリ~ン
。゚・:゚✨感想ありがとうございます🎶🌈
一気読みしたくて待ってました、回り回ってですよね!当たり前ですよ!
いつも面白い作品読ませていただきありがとうございます😊
🎀∧
| ・ω・) あ
|⊂ノ
|🎀∧
| ・ω・) り
|⊂ノ
|🎀∧
| ・ω・) が
|⊂ノ
|🎀∧
| ・ω・) と
|⊂ノ
|🎀∧
| ・ω・) ❤️
|⊂ノお読みくださりありがとうございます🙇🏻♀️🌈
感想ありがとぅ*.+゚嬉(๓´͈ ˘ `͈๓)嬉.*♡デス🍧✨
ありがとうございます
=͟͟͞͞💐ヽ(・o・ヽ)
そうなんですーー
かなり時間がかかりそうな2人ですが
ちょっとずつでも仲良くなっていけるといいんじゃないかな
と、思います😙☝🎶
。゚゚・。・゚゚,
゚, 。゚
゚・。・゚
/)/) (\(\
( . .) (. . )
( づ♡ ⊂ )
感想ありがとうございます😆