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5 女狐の尻尾を掴んでやる(アレキサンダー視点)
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(アレキサンダー視点)
「アレキサンダー、よう無事に戻ってきたな! 余は嬉しいぞ! ところでなぁ、ジョセフ(ローラの父親)にはある疑いがかかっておる。これはコスタ伯爵家からも意見があったのだが、ローズ・スエソン伯爵夫人の死に不審な点がある。健康だった夫人が病に伏してからあまりに早い死。おかしな点が多数あるが、証拠がないので罰することができぬ。だが当主から退けさせることはできる。王命によりこの瞬間から爵位を上げて、スエンソン侯爵家の当主はアレキサンダーだとする。後日、正式に陞爵式は行う」
「ありがたき幸せ!・・・・・・母上をあの父上が・・・・・・なんとしても証拠は手に入れます」
私は国王陛下に思いがけぬ話をされて、陞爵の喜びよりも怒りが湧き上がっていた。
屋敷に着き執務室にずかずかと歩を進めながら、使用人達の顔ぶれを見れば、皆見たこともない新しい者ばかりだ。執事でさえも変わっており、ローラは痩せ細り傍らにはふてぶてしい女が二人。
かつての父上はすっかり太り、怠慢さがにじみ出ていた。この男は本当にかつて私が父と呼んだ男なのか? あまりにも変わリ果てた姿だった。
母上が亡くなったことも、この女達が誰なのかも知っていたが、わざととぼけて父上を質問攻めにする。この女達の表情は醜悪で性格の悪さが滲みでている。
ローラのすり切れたドレスや痛々しいほど痩せた身体を、思わず抱きしめたい衝動にかられたが、今はその時ではない。全てのことが済んだなら、ローラにプロポーズをするつもりだ。
ローラと私は血が繋がっていないのだ。ここに養子に来たのは私が5歳、ローラがまだ生まれてまもなくの頃だった。母上(ローズのこと)は、ローラを産んだ時、大変な難産だったと聞いている。
二度目の出産は命取りだと宣告され、モーガン侯爵家の三男の私が養子に迎えられた。モーガン侯爵家はコスタ伯爵家の縁戚。コスタ伯爵家はあらゆる事業を多角経営する大金持ちで母上の実家でもある。傾きかけていたスエソン伯爵家を援助したのはコスタ伯爵家だ。つまり、スエンソン家はローズ母上の持参金で立て直したようなものなのだ。
専属侍女だったマーガレットが母上の宝石を付け、私がローラにプレゼントした宝石をマーガレットの娘マリアが身につけていた。
怒りがこみ上げて怒鳴り散らしたい思いを飲み込む。母上の仇を討たなければ! こいつらの尻尾を掴むために、このマリアの言葉に不本意にも乗ることにした。
ローラにはもとの部屋に戻させ、温かい食事と快適な環境に戻してやった。
(ローラ! ちょっとだけ我慢しておくれ! このマリアという女を手名付けて真相を吐かせてやる!)
ある夜、マリアに迫られて抱きしめるふりをして、自白作用のある香りを鼻元でかがせた。
「・・・・・・あっははは! うふふふ。私がこれからスエソン侯爵夫人になるのよ。お母様の作戦は大成功よ」
「ふーーん、作戦かい? きっと素敵な作戦だよね?」
「ええ! ローズ様の食事にね、お母様が毎日毒を混ぜたのよ。それからあのお父様にもね、お母様が媚薬を飲ませ続けて・・・・・・ほとんどお母様の言いなりになっておもしろかったわ・・・・・・あっははは! お母様は言ったわ。私達はこんなに美しく生まれたのだから高位貴族の夫人になるべきなんだって。侍女なんて似合わないのよ」
「そうか、ありがとう。今のを聞いたな?」
王家の影が闇の中から答えた。
「はい、はっきりと。陛下にお伝えします」
「頼む。極刑にしてほしい!」
低く笑う声とともに男達の声は消えた。
そして・・・・・・ローラの姿も消えてしまった。
(どこに行ったんだ? なぜ、この屋敷を出て行ったんだ?)
「アレキサンダー、よう無事に戻ってきたな! 余は嬉しいぞ! ところでなぁ、ジョセフ(ローラの父親)にはある疑いがかかっておる。これはコスタ伯爵家からも意見があったのだが、ローズ・スエソン伯爵夫人の死に不審な点がある。健康だった夫人が病に伏してからあまりに早い死。おかしな点が多数あるが、証拠がないので罰することができぬ。だが当主から退けさせることはできる。王命によりこの瞬間から爵位を上げて、スエンソン侯爵家の当主はアレキサンダーだとする。後日、正式に陞爵式は行う」
「ありがたき幸せ!・・・・・・母上をあの父上が・・・・・・なんとしても証拠は手に入れます」
私は国王陛下に思いがけぬ話をされて、陞爵の喜びよりも怒りが湧き上がっていた。
屋敷に着き執務室にずかずかと歩を進めながら、使用人達の顔ぶれを見れば、皆見たこともない新しい者ばかりだ。執事でさえも変わっており、ローラは痩せ細り傍らにはふてぶてしい女が二人。
かつての父上はすっかり太り、怠慢さがにじみ出ていた。この男は本当にかつて私が父と呼んだ男なのか? あまりにも変わリ果てた姿だった。
母上が亡くなったことも、この女達が誰なのかも知っていたが、わざととぼけて父上を質問攻めにする。この女達の表情は醜悪で性格の悪さが滲みでている。
ローラのすり切れたドレスや痛々しいほど痩せた身体を、思わず抱きしめたい衝動にかられたが、今はその時ではない。全てのことが済んだなら、ローラにプロポーズをするつもりだ。
ローラと私は血が繋がっていないのだ。ここに養子に来たのは私が5歳、ローラがまだ生まれてまもなくの頃だった。母上(ローズのこと)は、ローラを産んだ時、大変な難産だったと聞いている。
二度目の出産は命取りだと宣告され、モーガン侯爵家の三男の私が養子に迎えられた。モーガン侯爵家はコスタ伯爵家の縁戚。コスタ伯爵家はあらゆる事業を多角経営する大金持ちで母上の実家でもある。傾きかけていたスエソン伯爵家を援助したのはコスタ伯爵家だ。つまり、スエンソン家はローズ母上の持参金で立て直したようなものなのだ。
専属侍女だったマーガレットが母上の宝石を付け、私がローラにプレゼントした宝石をマーガレットの娘マリアが身につけていた。
怒りがこみ上げて怒鳴り散らしたい思いを飲み込む。母上の仇を討たなければ! こいつらの尻尾を掴むために、このマリアの言葉に不本意にも乗ることにした。
ローラにはもとの部屋に戻させ、温かい食事と快適な環境に戻してやった。
(ローラ! ちょっとだけ我慢しておくれ! このマリアという女を手名付けて真相を吐かせてやる!)
ある夜、マリアに迫られて抱きしめるふりをして、自白作用のある香りを鼻元でかがせた。
「・・・・・・あっははは! うふふふ。私がこれからスエソン侯爵夫人になるのよ。お母様の作戦は大成功よ」
「ふーーん、作戦かい? きっと素敵な作戦だよね?」
「ええ! ローズ様の食事にね、お母様が毎日毒を混ぜたのよ。それからあのお父様にもね、お母様が媚薬を飲ませ続けて・・・・・・ほとんどお母様の言いなりになっておもしろかったわ・・・・・・あっははは! お母様は言ったわ。私達はこんなに美しく生まれたのだから高位貴族の夫人になるべきなんだって。侍女なんて似合わないのよ」
「そうか、ありがとう。今のを聞いたな?」
王家の影が闇の中から答えた。
「はい、はっきりと。陛下にお伝えします」
「頼む。極刑にしてほしい!」
低く笑う声とともに男達の声は消えた。
そして・・・・・・ローラの姿も消えてしまった。
(どこに行ったんだ? なぜ、この屋敷を出て行ったんだ?)
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