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前編

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「レティシア、君を愛することはできない」
 ゴンザレス侯爵家に嫁いですぐに、イーサン様に言われた言葉は私の心を引き裂いた。

「では、なぜ私と結婚することを承諾されたのですか?」

「それは君が母上のお気に入りだからだよ。母上はレティシアを実の娘のように思っているからね。お飾りの妻にはちょうど良い。それに君は孤児で後ろ盾がないから、どんな扱いをしても文句を言ってくる親戚はいない」

 イーサン様は私を蔑んだように見つめて冷たく笑った。






 私は孤児。教会で育てられた。ある寒い冬の夜、教会の呼び鈴を鳴らす音にシスターが扉を開けると、毛布にくるまり籠に入れられた赤ちゃんが泣いていたという。それが私。

 私は教会でシスター達に可愛がられて過ごした。この教会はゴンザレス侯爵家が毎年多額の寄付をくださり、女侯爵のボニー様は私の誕生日ごとにプレゼントをくださった。
 なぜ誕生日がわかったかと言えば、私の籠の中に小さな紙があり、そこに名前と誕生日が記されていたからだ。そこには小さなペンダントもあり、私はそれをずっと肌身離さずつけている。


 誕生日ごとのプレゼントは、他の孤児達も平等にもらえるものだったけれど、私は特に気に入られ度々ゴンザレス侯爵家に招かれるようになった。

「レティシアはとっても可愛くて賢いわね。そうだ、ここに毎日お勉強に来なさい。同じ年の息子のイーサンと家庭教師について、一緒にお勉強をなさい」

「え! いいのですか? 私のような者が・・・・・・」

「もちろん構わないわ。だってあなたはとても優秀なのだから、お勉強しなければもったいないわ」



 私はこのゴンザレス侯爵家に毎日のように通うようになった。イーサン様はあまりお勉強が得意でないようで、抜け出しては屋敷にいないことも度々あったが、私はお勉強が楽しく必ず毎日講義を受けていた。

 18歳になったある日、
「ねぇ、レティシア! このゴンザレス侯爵家にお嫁に来ない?」
 と、ボニー様は私に思いがけない申し出をしてきた。

「まさか、そんなことができるはずはないです。だって私は孤児だから・・・・・・」

「レティシアが望めば大丈夫。縁戚のブルーノ伯爵家の養女になって、こちらに嫁げばいいわ。イーサンもそれを望んでいるわ」

「そんなことができるのですか? 私はボニー様が義理のお母様になるのがとても嬉しいです!!」

「それなら決まりね」



 私はこのようにして、ゴンザレス侯爵家に嫁いできたのだった。それまでのイーサン様は優しく、思いやりのある男性だったのでうまくやっていけると、そう思っていた。



 ところが初夜の日。あの冒頭の言葉を吐かれた。

「レティシア、君を愛することはできない」と。
 

 私はお飾りの妻で孤児で後ろ盾がないから、どんな扱いをしても文句を言ってくる親戚はいない、と言われた私はなにも言い返すことはできなかった。
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