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20 カーク・キナンは……(カーク視点)
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エイヴリーの代わりにヴァネッサが跡継ぎ娘になると言われた時は、正直不思議な気はしたけれど深くは考えなかった。私はエイヴリーの婚約者というより、オマリ伯爵家の跡継ぎ娘の婚約者なのでどの娘が継ごうとも変わらない。
それより問題なのはオマリ伯爵家の跡を継ぐ者の資質だと思う。領民を労る優しい心がなければいけないはずだ。
その点エイヴリーは落第点だと断言できたのだ。なぜなら、 エイヴリーがヴァネッサやその母親を蔑むとも聞いており、それは本当かと尋ねたらあっさり認めたからだ。
私は兄上のように優秀ではないが人の心は大事にしたいと思っている。だからエイヴリーのように弱い者虐めをする人間は大嫌いだ。だから、エイヴリーに当然の意見をしたし、彼女を悪だと決めつけた。
今になって考えると、不審な点はいくつもあったのに見て見ぬふりをして過ごしているうちに、エイヴリーが忽然と消えヴァネッサがエイヴリーと名乗りだした。流石に私はオクタビア様に尋ねたよ。
「エイヴリーはどこに行ったのですか?」
「あぁ、好きな男ができたとかで家出してしまったよ。だから、ヴァネッサをエイヴリーにする」
愚かなエイヴリーならしそうなことだよ。それから兄上から連絡があり、今までのことを説明したら凄まじい勢いでなじられた。
「お前はバカか? エイヴリーはアーソリン女伯爵の娘だ。ということは、エイヴリーしか伯爵家は継げない! 婿が浮気して作った子供など一滴たりともオマリ伯爵家の血を継いでないではないか! なぜ、それを鵜呑みにしたのだ? 愚か者が! ヴァネッサ側について、エイヴリーをなじるとは! お前はいったいなにを勉強してきたのだ?」
「は? お言葉ですが勉強は兄上には遠く及びませんが人の心は持っているつもりです。エイヴリーはヴァネッサをいつも虐めて平民だったことをバカにしていたと聞いています。こんなのが女伯爵になったら領民が可哀想だと思ったのです」
「人の心? お前からその言葉を聞くとは! 幼い頃より婚約者だったエイヴリーに情けもかけず、ヴァネッサ側の言葉だけを信じたお前が……」
「エイヴリーにも尋ねましたが、あいつはすべてを肯定していた。私になにができたと言うんですか? 私はキナン伯爵家の次男でしかない。兄上と違って私には婿養子になるしか貴族でいられる方法はないんだ!」
兄上は生まれた時からキナン伯爵家を継ぐことが決まっていたし、国王陛下から目をかけられている秀才だ。あの場にもし兄上がいたのなら、即座にエイヴリーを庇うこともオクタビア様と対峙することもできるだろう。だけど、私にそんなことができるわけないだろう!
「お前はもうオマリ伯爵家の跡継ぎ娘の婚約者ではない。エイヴリーは、私の婚約者になる」
「え? 伯爵同士で結婚してもよいのですか? エイヴリーは女伯爵になるのですよね? だったら今まで通り私の婚約者ですよね! これは幼い頃から決まっていたことだ!」
私が疑問をぶつけても兄上は国王陛下の許可がおりたので問題ない、と冷たく言うばかりだった。
「そ、そんな……私はどこに婿入りすればよいのですか? 今から婿養子にしてくれる貴族なんて見つからないです……」
どこかの貴族に婿入りできなければ、私は平民になってしまう。
「そんなことは知らん。自分でせっせと夜会にでも出て養子に迎えてくれるご令嬢を探すのだな」
☆彡★彡☆彡
オマリ家での『乗っ取り事件』は詳細に内容を貴族達に伝えられ、あの3人の末路も公表された。3人とも毒を押し付け合い、争い、いがみ合いながら、毒死したとのことだった。
毒の成分と効き目まで公表され、今後このような『乗っ取り事件』が起きた際には犯人の家族達で連帯責任とするとの御触れもだされた。
私は、必死で夜会や舞踏会に顔をだし跡継ぎ娘のご令嬢に近づくも、少しも相手にされずに『勘違いの無能男』と呼ばれているようだ。
「あのオマリ家の事件で婚約者のカーク様は、少しもエイヴリー様を庇わなかったのでしょう?」
「えぇ、聞きましたわ。ヴァネッサの肩を持ち正当な跡継ぎのエイヴリー様に居候と罵ったとか……そんな男を婿養子になどできませんわ! 貴族の常識もないなんて!」
公表された事実や噂話が広まりすぎて誰も婚約などしてくれなかった。兄上に泣きついても『愚か者はいらない』と言われ……
どこにも行くところがなくなって……途方に暮れていると30歳も年上の某女男爵未亡人が結婚してもいいわよ、と言ってくれた。
そして……私の名前はなくなった……
『ペット君』と呼ばれ社交界でもそのあだ名が広まると、恥ずかしくて外にも出かけられなくなった。なんでこうなったのかな……こんなはずじゃなかったのに……
それより問題なのはオマリ伯爵家の跡を継ぐ者の資質だと思う。領民を労る優しい心がなければいけないはずだ。
その点エイヴリーは落第点だと断言できたのだ。なぜなら、 エイヴリーがヴァネッサやその母親を蔑むとも聞いており、それは本当かと尋ねたらあっさり認めたからだ。
私は兄上のように優秀ではないが人の心は大事にしたいと思っている。だからエイヴリーのように弱い者虐めをする人間は大嫌いだ。だから、エイヴリーに当然の意見をしたし、彼女を悪だと決めつけた。
今になって考えると、不審な点はいくつもあったのに見て見ぬふりをして過ごしているうちに、エイヴリーが忽然と消えヴァネッサがエイヴリーと名乗りだした。流石に私はオクタビア様に尋ねたよ。
「エイヴリーはどこに行ったのですか?」
「あぁ、好きな男ができたとかで家出してしまったよ。だから、ヴァネッサをエイヴリーにする」
愚かなエイヴリーならしそうなことだよ。それから兄上から連絡があり、今までのことを説明したら凄まじい勢いでなじられた。
「お前はバカか? エイヴリーはアーソリン女伯爵の娘だ。ということは、エイヴリーしか伯爵家は継げない! 婿が浮気して作った子供など一滴たりともオマリ伯爵家の血を継いでないではないか! なぜ、それを鵜呑みにしたのだ? 愚か者が! ヴァネッサ側について、エイヴリーをなじるとは! お前はいったいなにを勉強してきたのだ?」
「は? お言葉ですが勉強は兄上には遠く及びませんが人の心は持っているつもりです。エイヴリーはヴァネッサをいつも虐めて平民だったことをバカにしていたと聞いています。こんなのが女伯爵になったら領民が可哀想だと思ったのです」
「人の心? お前からその言葉を聞くとは! 幼い頃より婚約者だったエイヴリーに情けもかけず、ヴァネッサ側の言葉だけを信じたお前が……」
「エイヴリーにも尋ねましたが、あいつはすべてを肯定していた。私になにができたと言うんですか? 私はキナン伯爵家の次男でしかない。兄上と違って私には婿養子になるしか貴族でいられる方法はないんだ!」
兄上は生まれた時からキナン伯爵家を継ぐことが決まっていたし、国王陛下から目をかけられている秀才だ。あの場にもし兄上がいたのなら、即座にエイヴリーを庇うこともオクタビア様と対峙することもできるだろう。だけど、私にそんなことができるわけないだろう!
「お前はもうオマリ伯爵家の跡継ぎ娘の婚約者ではない。エイヴリーは、私の婚約者になる」
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「そ、そんな……私はどこに婿入りすればよいのですか? 今から婿養子にしてくれる貴族なんて見つからないです……」
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