(完)妹が全てを奪う時、私は声を失った。

青空一夏

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16  夜会で子豚は木に登る(ヴァネッサ視点)

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 あの醜いお爺さんに会ってから、私には良いことばかり続く。公爵家などの上位貴族の令嬢たちから、お茶会に誘われるようになったのだ。

 お茶会では皆が私の容姿の可愛さとともに、絵の才能をたっぷりと褒めてくれた。

「国王陛下はエイヴリー様の描いた絵を王宮に飾りたいとおっしゃっているそうですわ。素晴らしい絵ですもの、当然ですわね? やはり、宮廷お抱えの画家様におなりになるのでしょう?」

「エイヴリー様のお母様は女伯爵でいらして領地の経営もしっかりなさる才女、加えて色を操る天才とたたえられる画家様でいらしたでしょう? あのペガサスの写実的な絵は生きているみたいで、お母様の得意分野ですものね?   やはり絵の才能は遺伝しますのね」

「私達の肖像画をお願いしたいわぁ」

 公爵・侯爵令嬢の名門貴族で上品な令嬢達が、私を憧れの眼差しで見つめてくるなんて夢みたいだ!

「今から、サインをもらっておきたいわぁーー」

「うん、そうよね! 世界的に有名になりすぎたら、そうそうサインもいただけないわ」

 その令嬢達が色紙を差し出し、簡単なデッサンもお願いしてくるので、薔薇の花を一輪描いてみた。

 それはお世辞にも上手とは言えない薔薇の花なのだが、彼女達はとんでもなく喜んでくれた。

「この微妙な線のタッチ! さすがですわ。少し、抽象絵画的にもなってますのね?」

「うーーん! 素晴らしい芸術ですわぁ。私達のような凡人にはわかりかねますが、これは心の葛藤を描いているのでしょう? この正体のよくわからないクチャっとした物体のなかに・・・・・・」

 クチャっとした物体?・・・・・・それは薔薇の花なんだけど・・・・・・

「やはり天才とは、このようなものをさっとお書きになれるものなのですね?」

「え? えぇ、まぁ、そういうことですわ! 私は、そう、天才だと思いますわ」

 そうよ、これだけ皆が褒めてくれるのだから私は天才よ! ただ、抽象画のつもりじゃないけど・・・・・・まぁ、いいわよね・・・・・・きっと私の溢れる才能が暴走してしまうのだわ。

 

☆彡★彡☆彡



 どこに行っても絵画の天才と言われて、夜会でも高位貴族のウィリー様から好意をもたれてお付き合いするようになった。アドニス公爵家の三男のウィリー様は、緑の髪と瞳の美しい男性で優しい方だ。

 このように、王家主催の夜会までは私は天国にいたのだった。

 その夜会に私はウィリー様のエスコートのもと参加した。まさに全てを手に入れたかのような気分は、さらに驚きのお言葉をいただき絶頂の瞬間を迎えた。

「エイヴリーの絵の才能は神が与えたものである。エイヴリーを女伯爵として認めると共に、栄誉ある宮廷画家とする」

 皆が私に祝福の言葉を投げかける。私の両親も満面の笑みで、目にはうっすらと喜びの涙を浮かべていた。

「今日はとっても、おめでたい日ですわね! せっかくですから、ここにある果物を写生してくださらない? 私の姪もちょうどおりますから・・・・・・競い合ってごらんなさい」

 予想外のことが起こった! こんな夜会の席で王妃様が素晴らしい微笑を向けて、私に提案してきたのだ。

 写生・・・・・・なんでそんなことさせるのか、一瞬たじろいだ私だが、私は才能があるから大丈夫よね・・・・・・

 こんな林檎やバナナなんて簡単よ・・・・・・競い合うですって? 笑わせないでよ! 私の絵の方が優秀なのに決まっているのに・・・・・・

「やめた方がよくないですか? 王妃様の姪様が恥をかくことになったら申し訳ないです!」

 日頃から、思ったことはすぐに口にしてしまう私なのだった。 
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