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7 交換された名前・・・・・・声がでない・・・・・・助けて
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ラベンダーさんが来てから私の生活は変わりました。あのメイド専用の部屋から、もとの部屋に戻れたのはラベンダーさんのお陰です。
「このようなメイドの部屋で生活させていては、エイヴリー様が価値のないどうでもいい娘のようにうつりますね。私の雇い主は、価値のないものに大金は払いませんよ」
ラベンダーさんが言ったその言葉は、驚くほどの効果がありました。取り上げられたドレスも戻されて、ぶたれることもなくなりました。
ラベンダーさんの雇い主が老人だということに不安はありましたが、このままここにいるよりは、ずっとましな生活がおくれるはずだと思いました。ラベンダーさんの雇い主ならきっと優しいでしょう。
そう思うと、自然と明るめの色彩で絵が描きたくなりました。綺麗な水色で空を塗り、幻想的なペガサスを描きます。馬は大好きなので、日頃からよく観察しています。躍動感のある純白の馬にうっすらと虹色を帯びた翼をつけると、まるで生きているように見えました。
我ながらすごくよく描けたと思い、執事のエマーソンとラベンダーさんに見せました。
「あぁ、エイヴリー様の絵の才能はアーソリン様から引き継いだのでしょう。ちょうど王家主催のコンテストがありましたから、早速そこに出品しましょう」
「まぁ、それは良い考えね! エイヴリーお嬢様の絵なら、きっと入賞しますね」
私達はその様子をヴァネッサに、こっそり覗かれていたことに少しも気がつかなかったのでした。
私はエマーソンにその絵画をコンテストに出してもらい、わくわくしながら結果を待っておりました。
しかし、2週間待っても私宛の通知は来ずになぜかヴァネッサが『最優秀賞』に選ばれたと、はしゃいでいました。
☆彡★彡☆彡
賞の授与日に参加して帰ってきた3人は、私を呼び出し口々に自慢しました。
「さすが、エイヴリーーね。可愛いだけでなく絵の才能もあるなんて! 誰かさんとは大違い!」
「全くだ! それでこそ、オマリ女伯爵になるのに相応しいと思えるのだ。ヴァネッサもくだらない絵を出品したらしいな? お前の下手くそな絵は返されてきたから受け取ってきてやった。ほら、これは馬か牛かわからんな」
私に差し出された絵は、牧場にいる馬や牛を描いた平凡なものでした。確かにその絵の馬と牛は、お世辞にも上手とは言えませんでした。
私は名前を間違えて呼ばれていることに、気が動転し言葉もありません。
「エイヴリーが描いた絵はペガサスよ? とても素晴らしいと国王陛下がおっしゃってくださり、隣国の芸術学園に留学のお話もいただいたのよ?」
継母が得意気に自慢し、今日の展覧会の様子を事細かく話し出します。
「ほら、エイヴリーの絵を見てよ?」
大事そうに継母が持ってきた絵は・・・・・・私の描いた絵でした・・・・・・
「これは、芸術的にすばらしく高い評価を得たのよ? でもね、エイヴリーは芸術学園には興味がないって、断ってしまったわ。才能がある子に限って欲がなくて困るわぁ」
「あっははっは。ヴァネッサは、幼い頃から、あんな下手くそな絵しか描けないくせに、芸術学園に行きたがっていたなぁーー。自分の実力もわからない愚か者が! お前など、なんの取り柄もない役立たずだ!」
私に向かってヴァネッサと呼び続ける父親。
「そうよ! 三日後には老人が迎えに来るらしいわよ? ずいぶん早まったのね? ラベンダー? 三ヶ月後と言っていなかった?」
継母は、私を追い出せるのが嬉しくて上機嫌でおりました。
「そうですねぇ。まぁ、雇い主様も我慢の限界だったのでしょうね」
ラベンダーさんは、無表情で答えました。その手は私の手をしっかり握りしめてくれていました。
「そろそろ、名前を改めた方が良いと思ってね。二人の名前は交換された。お互い別の人生を生きることになる」
お父様は、私に冷たくおっしゃいました。
私は、先ほどからヴァネッサと呼ばれてヴァネッサはエイヴリーと呼ばれています。私は名前を奪われ、絵も奪われて追い出されるのです。
私の夢が崩れていきます・・・・・・憧れていたクラーク様と同じ隣国に留学したかった・・・・・・絵をずっと描いていきたかったのに・・・・・・
「それは私の絵です! それを描いたのは私です! 私がエイヴリーです」
私の悲痛な叫びは、大声で笑われて否定されました。
「どこにそんな証拠があるのよ? あるなら出してよ?」
ヴァネッサはクスクスと笑いだし、継母は真っ赤な口紅で塗った唇を大きく歪めて口汚く罵りました。
「この嘘つき! エイヴリーの手柄を横取りしようっていうの! お前なんか、早く老人のもとにもらわれて行けばいいのよ。老人の慰み者になって、最後は娼館に売られて病気で死ぬのよ」
「あぁ、もっと厳しくてもいいぐらいだ! 私は、お前の母親が大嫌いだったよ!アーソリンはクソ真面目で、なんの面白みもないつまらない女だった。ただ、あいつは絵の天才だった。女公爵の仕事もこなす一方、王家お抱えの高名な絵描きでもあった。だから、この娘がこの絵を描いたことにしてアーソリンの娘として生きる」
お父様はヴァネッサの頭を撫でて、そう私におっしゃいました。
私は、その言葉に耐えられず意識を失いました。それから、何日か経った今、ショックのあまり私は声がでなくなっていました。
ーー★オクタビア視点ーー
その日ヴァネッサからエイヴリーが、王家主催の絵画のコンテストに作品を出すようだと聞いた。ちょうどいいから、侍女頭にいつものように金を渡しエマーソンがその作品を持って行くときに小細工をしてもらった。
エマーソンは用事が多いので、自分でその絵画を運送する馬車の荷物引受人には渡さない。任された侍女に返信用の宛先を私の名前に書き換えさせた。これで、この絵が入賞したら私宛の通知がくるようになるわけだ。
案の定、『最優秀賞』の通知がきたので、ヴァネッサをエイヴリーとして連れて行き受賞させた。
まだ、社交界デビューもしていないし、母親が寝込んでいた間の友人は一人もいないエイヴリーのようだった。
それなら、入れ替わっても問題はないはずだ。カークという婚約者も、爵位のある貴族に養子に行きたいだけの愚か者だ。とにかく、さっさとエイヴリーをヴァネッサとして嫁に出せばなんとかなるさ。
エイヴリーがもとから社交的な子じゃなくて幸いした。なぁに、こんなことはよくあることだ。ばれやしない。エイヴリーを嫁にだしたら、執事のエマーソンには生きていてもらっては困るけれど・・・・・・
オマリ家の他の侍女達は、すっかり買収済みだしな・・・・・・知らないのはエマーソンだけだ・・・・・・そろそろ、エマーソンのお茶に弱い毒を仕込むよう侍女に言うかな・・・・・・ふふふ。
「このようなメイドの部屋で生活させていては、エイヴリー様が価値のないどうでもいい娘のようにうつりますね。私の雇い主は、価値のないものに大金は払いませんよ」
ラベンダーさんが言ったその言葉は、驚くほどの効果がありました。取り上げられたドレスも戻されて、ぶたれることもなくなりました。
ラベンダーさんの雇い主が老人だということに不安はありましたが、このままここにいるよりは、ずっとましな生活がおくれるはずだと思いました。ラベンダーさんの雇い主ならきっと優しいでしょう。
そう思うと、自然と明るめの色彩で絵が描きたくなりました。綺麗な水色で空を塗り、幻想的なペガサスを描きます。馬は大好きなので、日頃からよく観察しています。躍動感のある純白の馬にうっすらと虹色を帯びた翼をつけると、まるで生きているように見えました。
我ながらすごくよく描けたと思い、執事のエマーソンとラベンダーさんに見せました。
「あぁ、エイヴリー様の絵の才能はアーソリン様から引き継いだのでしょう。ちょうど王家主催のコンテストがありましたから、早速そこに出品しましょう」
「まぁ、それは良い考えね! エイヴリーお嬢様の絵なら、きっと入賞しますね」
私達はその様子をヴァネッサに、こっそり覗かれていたことに少しも気がつかなかったのでした。
私はエマーソンにその絵画をコンテストに出してもらい、わくわくしながら結果を待っておりました。
しかし、2週間待っても私宛の通知は来ずになぜかヴァネッサが『最優秀賞』に選ばれたと、はしゃいでいました。
☆彡★彡☆彡
賞の授与日に参加して帰ってきた3人は、私を呼び出し口々に自慢しました。
「さすが、エイヴリーーね。可愛いだけでなく絵の才能もあるなんて! 誰かさんとは大違い!」
「全くだ! それでこそ、オマリ女伯爵になるのに相応しいと思えるのだ。ヴァネッサもくだらない絵を出品したらしいな? お前の下手くそな絵は返されてきたから受け取ってきてやった。ほら、これは馬か牛かわからんな」
私に差し出された絵は、牧場にいる馬や牛を描いた平凡なものでした。確かにその絵の馬と牛は、お世辞にも上手とは言えませんでした。
私は名前を間違えて呼ばれていることに、気が動転し言葉もありません。
「エイヴリーが描いた絵はペガサスよ? とても素晴らしいと国王陛下がおっしゃってくださり、隣国の芸術学園に留学のお話もいただいたのよ?」
継母が得意気に自慢し、今日の展覧会の様子を事細かく話し出します。
「ほら、エイヴリーの絵を見てよ?」
大事そうに継母が持ってきた絵は・・・・・・私の描いた絵でした・・・・・・
「これは、芸術的にすばらしく高い評価を得たのよ? でもね、エイヴリーは芸術学園には興味がないって、断ってしまったわ。才能がある子に限って欲がなくて困るわぁ」
「あっははっは。ヴァネッサは、幼い頃から、あんな下手くそな絵しか描けないくせに、芸術学園に行きたがっていたなぁーー。自分の実力もわからない愚か者が! お前など、なんの取り柄もない役立たずだ!」
私に向かってヴァネッサと呼び続ける父親。
「そうよ! 三日後には老人が迎えに来るらしいわよ? ずいぶん早まったのね? ラベンダー? 三ヶ月後と言っていなかった?」
継母は、私を追い出せるのが嬉しくて上機嫌でおりました。
「そうですねぇ。まぁ、雇い主様も我慢の限界だったのでしょうね」
ラベンダーさんは、無表情で答えました。その手は私の手をしっかり握りしめてくれていました。
「そろそろ、名前を改めた方が良いと思ってね。二人の名前は交換された。お互い別の人生を生きることになる」
お父様は、私に冷たくおっしゃいました。
私は、先ほどからヴァネッサと呼ばれてヴァネッサはエイヴリーと呼ばれています。私は名前を奪われ、絵も奪われて追い出されるのです。
私の夢が崩れていきます・・・・・・憧れていたクラーク様と同じ隣国に留学したかった・・・・・・絵をずっと描いていきたかったのに・・・・・・
「それは私の絵です! それを描いたのは私です! 私がエイヴリーです」
私の悲痛な叫びは、大声で笑われて否定されました。
「どこにそんな証拠があるのよ? あるなら出してよ?」
ヴァネッサはクスクスと笑いだし、継母は真っ赤な口紅で塗った唇を大きく歪めて口汚く罵りました。
「この嘘つき! エイヴリーの手柄を横取りしようっていうの! お前なんか、早く老人のもとにもらわれて行けばいいのよ。老人の慰み者になって、最後は娼館に売られて病気で死ぬのよ」
「あぁ、もっと厳しくてもいいぐらいだ! 私は、お前の母親が大嫌いだったよ!アーソリンはクソ真面目で、なんの面白みもないつまらない女だった。ただ、あいつは絵の天才だった。女公爵の仕事もこなす一方、王家お抱えの高名な絵描きでもあった。だから、この娘がこの絵を描いたことにしてアーソリンの娘として生きる」
お父様はヴァネッサの頭を撫でて、そう私におっしゃいました。
私は、その言葉に耐えられず意識を失いました。それから、何日か経った今、ショックのあまり私は声がでなくなっていました。
ーー★オクタビア視点ーー
その日ヴァネッサからエイヴリーが、王家主催の絵画のコンテストに作品を出すようだと聞いた。ちょうどいいから、侍女頭にいつものように金を渡しエマーソンがその作品を持って行くときに小細工をしてもらった。
エマーソンは用事が多いので、自分でその絵画を運送する馬車の荷物引受人には渡さない。任された侍女に返信用の宛先を私の名前に書き換えさせた。これで、この絵が入賞したら私宛の通知がくるようになるわけだ。
案の定、『最優秀賞』の通知がきたので、ヴァネッサをエイヴリーとして連れて行き受賞させた。
まだ、社交界デビューもしていないし、母親が寝込んでいた間の友人は一人もいないエイヴリーのようだった。
それなら、入れ替わっても問題はないはずだ。カークという婚約者も、爵位のある貴族に養子に行きたいだけの愚か者だ。とにかく、さっさとエイヴリーをヴァネッサとして嫁に出せばなんとかなるさ。
エイヴリーがもとから社交的な子じゃなくて幸いした。なぁに、こんなことはよくあることだ。ばれやしない。エイヴリーを嫁にだしたら、執事のエマーソンには生きていてもらっては困るけれど・・・・・・
オマリ家の他の侍女達は、すっかり買収済みだしな・・・・・・知らないのはエマーソンだけだ・・・・・・そろそろ、エマーソンのお茶に弱い毒を仕込むよう侍女に言うかな・・・・・・ふふふ。
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