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4 罪をきせられた私(アイラ視点)
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「さっきのお店のオムライスは最高だったわねぇーー」
「でしょう? デザートも生クリームたっぷりで、食後のコーヒーも芳醇で……」
お昼休みも1時間以上過ぎたところで、やっと3人は戻ってきました。とてもランチを堪能されたようで、結構なことです。
「そのまま、帰って来なくて良かったのに」
近くにいた従業員がブツブツとつぶやきました。確かにいないほうが、よっぽど仕事がはかどります。
午前中と同じようにウェンディはベッド売り場でお客様に言いたい放題、カーラ様はソファで眠りこけています。
私はベッド売り場でニコニコしながら、お客様に失礼なことを言うウェンディに声をかけました。
「ウェンディ様は、とても愛らしくお化粧もお上手ですね? そのような美しいウェンディ様には、鏡台や鏡売り場が似合っていますわ。鏡って女性にとっては大切なものでしょう? 鏡の前で美がつくられるのですもの! ほら、照明付の鏡台のメリットとか、顔色が綺麗に見えてお顔も細く見える『うぬぼれ鏡』の説明とか、ウェンディ様にしかできないですわ!」
「えぇ? まぁ、可愛いこの私が説明すれば、この鏡台でお化粧すると、私のようになれると勘違いするわね? 確かに、鏡は可愛い子しか売っちゃいけないわ! 私、鏡台売り場に行くわっ!」
私の言葉に気を良くしたウェンディを待っていたのは、このヴィセンテ家具店に最近入社したばかりの麗しい男性でした。エリアンはこのような家具店にはそぐわない気品があり、女性ウケが良さそうなので鏡台売り場を担当してもらうようにしたのです。ついでに、面食いのウェンディのお守りもしてくれれば助かります。
思った通り、ウェンディはイケメンさんの前では態度がコロリと変ります。お客様に暴言を吐くことはなくなりました。ソファで居眠りしているカーラ様はそのまま放置でいいでしょう。寝ていてくれたほうがマシですから。ただ、売り物のソファでなく休憩室あたりで寝ていてほしいものです。
「イアン! カーラ様を休憩室のソファベッドで寝かせたらどうかしら? そこより、絶対寝心地がいいし、このタオルケットも掛けてあげると風邪もひかないわよ?」
イアンはその言葉にうなづき、カーラ様を抱きかかえて休憩室に移動していきました。
「えぇーー? アイラ様! 旦那様に他の女性をお姫様抱っこさせて……いいんですか?」
すでに今月末で辞めることを決心したイヤナさんが、私にあきれ顔をしてきました。
「うん。だって、イアンは私の旦那様じゃない気がするから、大丈夫よ」
私は、乾いた声をだして微笑みました。旦那様の定義を『私が愛して信頼している男性』だとしたら、全く違うから。イアンは『私と籍が一緒になっただけの男性』です。だって、そもそも……私達の寝室は別ですからね。
☆彡★彡☆彡
その日の就業時間に事件が起きました。
「アイラさん! レジのお金があわないです。5万アデン足りません」
「アイラさん! 敷物の売り場から、高級絨毯が一枚なくなっています」
私はレジのお金を数えて、売り上げと照らし合わせ……確かに5万アデンも足りないのです。おかしいです……10アデンぐらいまでなら珍しくないことです。お釣りを渡すのは人間ですから、うっかり1アデンや2アデンぐらいは多く渡すこともあり得るからです。
ですが5万アデンもお金が足りないなんて、いまだかつてないことでした。しかも、なくなった高級絨毯が私の愛用している馬車から見つかったというのです。
「レジを頻繁に触っていたのはアイラよねぇ? 今日は何度、触ったのよ?」
カーラ様が、人差し指で私を差しながら底意地悪くニヤリと笑いました。
「アイラ専用のぼろい馬車から、こぉーーんなものが出てきたけどぉーー? これって、一枚100万アデンはする高級絨毯じゃない! こんなところに隠していたなんて。これ、横流ししようとしていたに決まっているわ! アイラ、仕事終わりに病院に行くって言っていたわよねぇ? 病気になんて見えないから、病院に行くのは嘘よね? 闇市場の商人にこの絨毯を売ろうとしたんでしょう?」
「そんなことするはずないでしょう? そんな絨毯がなぜ馬車にあったのかは知りませんが、私の仕業でないことは確かです。それに、病院には定期的に行っていますよ」
「ふーーん、じゃぁ、病名はなによぉ? 言ってみなさいよ」
「……」
私はここで働くようになってから生理不順なのでした。月のものが、ふた月もこなかったりひと月に2回もきたりで、その為に婦人科に通っていたのです。
「ストレスによるホルモンバランスの崩れだと思うよ」
お医者様はそのように診断し、私はお薬を処方されていました。いわゆる、漢方薬のようなものですが。この大勢の前で、それを説明するのは抵抗がありました。
この場には男性の従業員もおりますし、自分の生理事情など誰が公にしたいと思います? 言葉に詰まって押し黙る私にウェンディは勝ち誇ったような、高笑いをしたのでした。
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
※1アデン=1円
「でしょう? デザートも生クリームたっぷりで、食後のコーヒーも芳醇で……」
お昼休みも1時間以上過ぎたところで、やっと3人は戻ってきました。とてもランチを堪能されたようで、結構なことです。
「そのまま、帰って来なくて良かったのに」
近くにいた従業員がブツブツとつぶやきました。確かにいないほうが、よっぽど仕事がはかどります。
午前中と同じようにウェンディはベッド売り場でお客様に言いたい放題、カーラ様はソファで眠りこけています。
私はベッド売り場でニコニコしながら、お客様に失礼なことを言うウェンディに声をかけました。
「ウェンディ様は、とても愛らしくお化粧もお上手ですね? そのような美しいウェンディ様には、鏡台や鏡売り場が似合っていますわ。鏡って女性にとっては大切なものでしょう? 鏡の前で美がつくられるのですもの! ほら、照明付の鏡台のメリットとか、顔色が綺麗に見えてお顔も細く見える『うぬぼれ鏡』の説明とか、ウェンディ様にしかできないですわ!」
「えぇ? まぁ、可愛いこの私が説明すれば、この鏡台でお化粧すると、私のようになれると勘違いするわね? 確かに、鏡は可愛い子しか売っちゃいけないわ! 私、鏡台売り場に行くわっ!」
私の言葉に気を良くしたウェンディを待っていたのは、このヴィセンテ家具店に最近入社したばかりの麗しい男性でした。エリアンはこのような家具店にはそぐわない気品があり、女性ウケが良さそうなので鏡台売り場を担当してもらうようにしたのです。ついでに、面食いのウェンディのお守りもしてくれれば助かります。
思った通り、ウェンディはイケメンさんの前では態度がコロリと変ります。お客様に暴言を吐くことはなくなりました。ソファで居眠りしているカーラ様はそのまま放置でいいでしょう。寝ていてくれたほうがマシですから。ただ、売り物のソファでなく休憩室あたりで寝ていてほしいものです。
「イアン! カーラ様を休憩室のソファベッドで寝かせたらどうかしら? そこより、絶対寝心地がいいし、このタオルケットも掛けてあげると風邪もひかないわよ?」
イアンはその言葉にうなづき、カーラ様を抱きかかえて休憩室に移動していきました。
「えぇーー? アイラ様! 旦那様に他の女性をお姫様抱っこさせて……いいんですか?」
すでに今月末で辞めることを決心したイヤナさんが、私にあきれ顔をしてきました。
「うん。だって、イアンは私の旦那様じゃない気がするから、大丈夫よ」
私は、乾いた声をだして微笑みました。旦那様の定義を『私が愛して信頼している男性』だとしたら、全く違うから。イアンは『私と籍が一緒になっただけの男性』です。だって、そもそも……私達の寝室は別ですからね。
☆彡★彡☆彡
その日の就業時間に事件が起きました。
「アイラさん! レジのお金があわないです。5万アデン足りません」
「アイラさん! 敷物の売り場から、高級絨毯が一枚なくなっています」
私はレジのお金を数えて、売り上げと照らし合わせ……確かに5万アデンも足りないのです。おかしいです……10アデンぐらいまでなら珍しくないことです。お釣りを渡すのは人間ですから、うっかり1アデンや2アデンぐらいは多く渡すこともあり得るからです。
ですが5万アデンもお金が足りないなんて、いまだかつてないことでした。しかも、なくなった高級絨毯が私の愛用している馬車から見つかったというのです。
「レジを頻繁に触っていたのはアイラよねぇ? 今日は何度、触ったのよ?」
カーラ様が、人差し指で私を差しながら底意地悪くニヤリと笑いました。
「アイラ専用のぼろい馬車から、こぉーーんなものが出てきたけどぉーー? これって、一枚100万アデンはする高級絨毯じゃない! こんなところに隠していたなんて。これ、横流ししようとしていたに決まっているわ! アイラ、仕事終わりに病院に行くって言っていたわよねぇ? 病気になんて見えないから、病院に行くのは嘘よね? 闇市場の商人にこの絨毯を売ろうとしたんでしょう?」
「そんなことするはずないでしょう? そんな絨毯がなぜ馬車にあったのかは知りませんが、私の仕業でないことは確かです。それに、病院には定期的に行っていますよ」
「ふーーん、じゃぁ、病名はなによぉ? 言ってみなさいよ」
「……」
私はここで働くようになってから生理不順なのでした。月のものが、ふた月もこなかったりひと月に2回もきたりで、その為に婦人科に通っていたのです。
「ストレスによるホルモンバランスの崩れだと思うよ」
お医者様はそのように診断し、私はお薬を処方されていました。いわゆる、漢方薬のようなものですが。この大勢の前で、それを説明するのは抵抗がありました。
この場には男性の従業員もおりますし、自分の生理事情など誰が公にしたいと思います? 言葉に詰まって押し黙る私にウェンディは勝ち誇ったような、高笑いをしたのでした。
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※1アデン=1円
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