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1 新婚旅行に置いて行かれる花嫁(アイラ視点)
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幼い頃に父を事故で亡くし、母は女手ひとつで働いて私をここまで育ててくれました。平民の学校ですが、優秀な成績で卒業した私は、ヴィセンテ家具屋に就職することができたのでした。これからは親孝行ができると思っていたのに、母は過労がたたってその後すぐに亡くなり、私はその悲しさを紛らわせるように必死で働き、家具の販売においてすばらしい業績をあげることができました。
そこを見込まれて『平民だけど優秀だし美人』という理由で、ヴィセンテ男爵家の長男と結婚させられました。社長に言われたら逆らえないのが社員ですし、平民の私にとって拒絶は社会的抹殺を意味します。
ヴィセンテ一族はこのあたりの事業を一手に仕切っていて、逆らえば次の仕事をみつけることすら困難ですから。
そんなわけで、私は愛されて嫁に来たわけではなく『便利な家政婦兼従業員』としてお嫁に来たようなものでした。
☆彡★彡☆彡
「新婚旅行はまだ、どこにも行ってなかったよね? どこに行きたい?」
夫のイアンは、私に優しく訊いてくれました。
「え? 旅行に連れていってくださるんですか?」
私が驚いて聞き返した途端、義理の妹・ウェンディが会話に滑り込んできます。
「ずるぅいぃーー! 私もお兄様と旅行に行きたいですぅ。そういえば、家族旅行に、もう何年も行っていませんでしたよねぇ?」
「あらぁーー、家族旅行はいいわねぇ。確かに、貴方達が大きくなってからは行く機会がなかったわね! これを機会に皆で行ったらどうかしら?」
義理のお母様・エスメラルダ様はとても良いことを思いついたとばかりに、満面の笑みを浮かべて提案してきました。
「賛成! 大賛成よ! お父様に早速、言ってくるわね!」
この結婚を機に息子に爵位を譲ったオーランド・ヴィセンテ前男爵は、愛妻家の子煩悩で有名でした。
「おぉーー! それはいい案だなぁ。もう、何年も行っていない家族旅行は、こんな機会がなければ行けないだろう。早速、ホテルに予約の申し込みをしてみようじゃないか?」
「素敵ぃーー。あ、従姉妹のカーラも誘っていいわよね? だって、新婚旅行でしょう? おめでたいことは、皆で参加しなきゃ!」
「あぁ、全くだ! いいとも、誘いなさい」
そんなわけで、夫と夫の父、夫の母、夫の妹、夫の従姉妹が参加する新婚旅行になったのでした。ただ、ホテルの返答は5人までしか空きがない、と言う答えでした。
「あらぁ、ちょうどいいじゃない? 私達の家族は5人でしょう?」
「え? 違うだろう? 全部で6人だよね? あぁ、じゃぁ、カーラは諦めてもらおうか」
イアンが指折り数をかぞえだしてそう言い出すと、ウェンディは涙を溜めはじめました。
「お兄様! 酷いわ! カーラを仲間外れにするなんて! 私とカーラはとても仲良しだし、家族みたいなものじゃない!」
大げさに泣きわめくウェンディは、私を恨めしそうに睨んでいました。さらに、エスメラルダ様の鋭い意地悪な視線も感じて……
「あ、あのぅーー、今回は私が遠慮しましょうか? 新婚旅行はまた別の機会に行けばいいのですし……」
私は、エスメラルダ様とウェンディの視線の圧力に苦しくなって、そう提案しました。
「まぁ、気が利くわね! そうよ、次回になさいよ! 私達夫妻はもう歳だし、子供達とあと何回旅行に行けるかわからないわ。だから、こういう時は譲るってもんよ。聞き分けのいい嫁で良かったわぁーー。アイラはワンコ(犬)のマルタンのお世話と、従業員の監督をお願いね! 経理の最終チェックも任せるわ。平民の学園だけれど、あれだけ優秀な成績で卒業しただけあるわよね? 家具は売るし、数字にも強いから経理も任せられるし、おまけに従業員のおばさん達にもウケはいいから、とても便利! おーっほほほほ! 良い嫁を拾ったわぁーー!」
エスメラルダ様は愉快そうにお笑いになり、オーランド様もウェンディも満足気にうなづき、夫のイアンは黙って下を向いていたのでした。
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
宣伝です。不愉快な方は飛ばしてください。
ライト文芸大賞エントリー作品を投稿しております。慣れないライト文芸というジャンルで、どこまで書けるかわかりませんが😅、頑張って長編に挑戦したいと思います。基本、毎日投稿で1話が3,000文字程度となっております。
「愛を教えてくれた人」
多動性発達障害のヒロインが、頑張って生きる物語です。ざまぁ要素もあり。毒親も出てきます。よろしければ、チラッとでも、覗いていただければ嬉しいです。(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾💐
そこを見込まれて『平民だけど優秀だし美人』という理由で、ヴィセンテ男爵家の長男と結婚させられました。社長に言われたら逆らえないのが社員ですし、平民の私にとって拒絶は社会的抹殺を意味します。
ヴィセンテ一族はこのあたりの事業を一手に仕切っていて、逆らえば次の仕事をみつけることすら困難ですから。
そんなわけで、私は愛されて嫁に来たわけではなく『便利な家政婦兼従業員』としてお嫁に来たようなものでした。
☆彡★彡☆彡
「新婚旅行はまだ、どこにも行ってなかったよね? どこに行きたい?」
夫のイアンは、私に優しく訊いてくれました。
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「あらぁーー、家族旅行はいいわねぇ。確かに、貴方達が大きくなってからは行く機会がなかったわね! これを機会に皆で行ったらどうかしら?」
義理のお母様・エスメラルダ様はとても良いことを思いついたとばかりに、満面の笑みを浮かべて提案してきました。
「賛成! 大賛成よ! お父様に早速、言ってくるわね!」
この結婚を機に息子に爵位を譲ったオーランド・ヴィセンテ前男爵は、愛妻家の子煩悩で有名でした。
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