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60 欲しがりっ子ミシェルはビニ公爵家のアイドル

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「おにいしゃま。そのあおいはねペンをあたちにちょうだい!」

 ビニ公爵家に四歳の可愛い女の子の声が響き渡る。

「良いよ。大切に使うんだぞ」

 兄のラザフォードはねだられるままに、新品の羽根ペンをミシェルに渡した。

「おとうしゃま。あたち、その首にまいているのがほしい」

「ん? クラバットのことかい? いいとも。ちょっと待っていなさい」

 ライオネル様までミシェルのおねだりを注意することなく、クラバットを首からとって渡そうとした。確かにミシェルは、どんなお願いごとでも叶えてあげたくなるような愛らしい子なのだけれど、ここは母親である私がしっかり叱らないといけないと思う。

「ミシェル。人の物を欲しがってはいけません。前にも注意されたことを忘れたの? 羽根ペンはお兄様に返しなさい」

「はい。でも、おとうさまのは返さなくてよいでしょう? だって、これはやわらかくてお父さまのよい香りがするもの。あと、おかあさまのしているかみ飾りもちょうだい。すごくきらきらしていてきれいーー」

 艶やかな黒髪は私から、青く澄んだ瞳はライオネル様から受け継いだミシェルは、最高に愛らしく綺麗な女の子よ。きっと成長したら傾国の美女になると誰もが噂した。

 素晴らしく綺麗なことは嬉しい。ライオネル様の繊細な顔だちを受け継ぎ、芸術の才能もあるようだ。けれど、傾国の美女なんて困るわ。このまま人の物を欲しがるばかりだと、本当にそうなってしまいそうで、笑えない冗談だ。

「ミシェル。よく聞いてちょうだい。人の物をなんでも欲しがると、最後にはとても不幸になるのよ」

「え! あたちはおかあしゃまみたいになりたいだけだもん。あとね、おばあしゃまみたいになりたいの」

 ボナデアお母様はミシェルを抱き寄せて「可愛すぎて胸が痛いわ」とおっしゃった。

「まさか、胸の病気とかではないですわよね? グレイトニッキーを呼びましょうか? ポーションを作ってもらわないといけませんか?」

 ボナデアお母様にはずっと元気でいて欲しいから、私は思わず涙ぐんでいた。ラザフォードもミシェルも、驚いた表情で心配そうにボナデアお母様を見つめた。


「あら、その必要はありませんよ。もちろん、この痛みは尊いものを見てしまったときに起こる、感動の痛みですわ」

 私はホッとして軽く頷く。

「ミシェルが使用人も含めてキュンキュンさせすぎなのですが、やはりちゃんと躾をしないと、この子がいずれ困ります。エルバートお父様、ライオネル様、ラザフォードが過度に溺愛しているため、ミシェルはなんでも手に入ると思い込んでしまっていますもの」

 そうして、私はかつての私の従姉妹ココの話をミシェルに語り始めた。この子がどこまで理解できるかわからないけれど、過ぎた物欲や辛抱ができない我が儘さは、破滅に繋がることを知ってもらいたかった。

「あのね、ミシェル。むかし、むかし・・・・・・
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