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番外編ざまぁそのに ココの場合
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ソフィを連れ戻しにメドフォード王国に行ったけれど、ソフィを連れ戻すどころか私たちは不敬罪やら、いろいろな罪を着せられて不当に罰せられたわ。
まずは連れていかれたのが王城の地下牢だった。そこは湿気が多く空気もよどみ、むき出しの床や壁にはカビらしきものがはびこっていた。照明も暗く、卵や野菜の腐ったようなニオイも充満している。
狭い牢屋にはお父様もお母様もいない。ここは独房になっていてひとりぼっちよ。いいえ、ひとりぼっちならまだましだわ。気持ちの悪い虫とネズミが隅のほうにいて、いつこちらにやってくるのかと思うと、とても寛いでなんかいられない。カサカサと床を這いずり回る黒い虫は見たこともないわ。こんな不潔なところに閉じ込めるなんて酷すぎる。
「出してよ、お願いだから出して! 私はソフィの従姉妹なのよ。もう一度だけ、ソフィと話させてよ」
「ソフィ様とはビニ公爵夫人のお嬢様だろう? 無礼者め! ソフィ様はお前などが呼び捨てにして良い方ではない。身の程しらずめっ」
看守が私を睨み付けた。
ソフィはメドフォード王国では、それほど高貴な存在になっているの? 私だって男爵令嬢でビニ公爵夫人の姪なのに。ソフィばかりが得をしてずるい。
翌日は不敬罪の実刑として、革製の鞭で叩かれた。鞭で叩かれるなんて初めてのことよ。一回目の鞭では皮膚が赤くなり、二回目の鞭では皮膚が裂け、三回目の鞭では鮮血が飛ぶ。四回目、五回目ともなれば、肉がえぐられ深い傷が背中に刻まれることになる。
私の刑は鞭打ち五回だった。たかが五回なんて思わないでよ。どれだけ辛いか想像できる? 焼け付くような痛みで、背中の皮膚が腫れ上がるのよ。
「ぎゃぁあぁああーー!」
悲鳴が出たのは最初だけよ。後は脂汗を垂らしながら必死で歯を食いしばった。本当に痛い時は人間って声もでないらしいわ。
誰か助けて! これは何かの間違いよ。私がこんな目に遭うなんておかしい。
その後、鞭を打った執行人が恐ろしいほどしみる軟膏をくれた。化膿止めが入っているから、一日三回必ず塗るように言われる。
「自分で背中になんて塗れるわけがないじゃない」
文句を言ったらメイドがその都度やってきて、たっぷりと背中に軟膏を塗られた。
痛すぎる! こんなに痛い軟膏なんて初めてよ。
「わざと傷口にしみる成分を入れてあるのでしょう? 故意よね? なんて酷いの」
「あなたは罪人ですから文句を言えた立場ではありませんよ。こちらは錬金術師グレイトニッキー様が処方したものです。お仕置きの意味を含めて、わざとしみる成分が入っているかもしれませんが、効果は絶大のはずです。お嫌なら塗るのをやめますが、化膿してそこから菌が入って亡くなる方もおります」
私は慌てて塗るように頼んだ。確かに治りは早いように思ったけれど・・・・・・軟膏を塗られるたびに、ぞっとするくらいの痛さが襲ってくるのよ。まるで傷口に唐辛子をすり込んだようで、すごく痛かった。
私は何ヶ月も地下牢に閉じ込められた。そして、毎日のようにシスターが訪れた。牢の鉄格子の前で、シスターは薄暗い狭い空間に微かな光をもたらす蝋燭を灯して、私に穏やかな声で語りかけた。
「貴方がここにいるのは、過ちを犯した結果です。しかし、神の許しは限りなく広く、悔い改める心には常に赦しの光が差し込むものなのです」
私は静かに頭を垂れ、その言葉を聞き入れる様子を見せた。シスターは続けた。
「罪を悔い改めることは、新しい人生の始まりです。神は慈悲深く、罪人でも悔い改める者には赦しを与えてくださいます」
シスターは手元に置いていた小さな聖書から一節を読み上げ始めた。
「神の愛は深く広く、我々が犯す罪もその大いなる慈悲によって贖われます。悔い改め、神の教えに従うことで、新たな人生が始まるのです」
ソフィを連れ戻しにメドフォード王国に来たのが間違いだったことはわかる。でも、私がそれほど重い罪を犯したのかと言えば、そこは甚だ疑問だった。
従姉妹のソフィの物を少しばかりもらったり借りたりすることがそれほど重い罪なの? ソフィの婚約者と仲良くなったけれど、貴族の世界ではそんな色恋沙汰なんていくらでもあるじゃない? 王族の前での不敬な態度も反省するように言われたけれど、そもそも王族の方々にそれほど失礼なことを言った自覚もなかった。
「私は悪くないわよ。神様は心が狭すぎるわ。あの場にいたのが王族の方たちだと、最初にソフィが教えてくれなかったのが悪いわよ。私たちはソフィに嵌められたのよ」
シスターは顔を引きつらせて帰っていく。少しも私に共感してくれず、毎日のようにやってきては悔い改めるように指導された。
ばっかみたい! なにを言われても私の心には響かなかった。
シップトン国に帰国してからも災難は続いて、お父様は爵位と財産を失い平民にされてしまった。おまけに同じく平民に堕とされたクランシー様と結婚を強要され、あり得ないほどの貧乏生活が始まった。
汚い長屋に住み、運び手になったクランシー様の安い給料で生活する。欲しいものなんてなんにも買えないわよ。値引きになった痛んだ野菜や、売り物にならない果物に腐りかけた肉。そんな物を食べるしかなくて、新しい服を買う余裕もない。
生きているけれど死んでいるみたいだわ。夢も希望もない生活に逃げ出したい気持ちでいた。そんな時に声をかけてきたのがフランクで、『夢幻亭』という酒場で働いている男性だった。フランクは私が好きみたいで、夢幻亭の前を通る度に店から出てきて私に話しかける。
「ねぇ、君、とても可愛いね。夢幻亭に飲みにおいでよ。初回は安くしておくから。可愛い子には特別さ」
彼に会いに行くには、その酒場に通わないといけない。でも、酒場に行くにはお金が必要よ。どうにかしてお金が手に入らないかしら? そう思っていたら、ちょうどクランシー様が大怪我をして死にそうになってしまう。
仕事中の事故なら絶対お金が遺族に入るはずだわ。
死に損ないのクランシー様なんかに用はない。この人は侯爵家の人間だから価値があっただけだもの。もっと言えばソフィの婚約者だったから、私の興味を引きどうしても欲しくなっただけで、ここまで落ちぶれてしまった男性と結婚なんかしたくなかった。
クランシー様が亡くなって手にしたお金で夢幻亭に行った。そこは変わった酒場で男性だけが働いており、お客は女性ばかりだった。高価なお酒をバンバン注文する客は『姫』と呼ばれていた。
連日、通い続けてそろそろお金が尽きる頃だった。
「君は本当に特別だよ。こんなに素敵な笑顔を見ることができるなんて、僕は幸せ者だね。だけど、もっと僕のために頑張れるよね?」
「頑張るってなにを?」
首を傾げながら聞き返すと、彼の仕事あがりに娼館に連れていかれた。
「ここで僕のために働いてよ。普通の仕事じゃ給料が安すぎて、高い酒が注文できないだろう? 僕の夢を応援してほしいんだ。君との明るい未来のためにも必要なことさ」
明るい未来って? 私と結婚してくれるということよね?
「わかった。ここで働けば私のものになってくれるのね?」
「あぁ、そうさ。僕は君のものだよ。夢幻亭で過ごす時間はね」
私は夢幻亭で過ごす時間以外でもフランクを独占したい。でも、それにはもっともっと、お金を使わなければならないんですって。フランクにはそれだけの価値がある。彼と私は同じ夢を見ているのよ。でも、彼は他の女性にも愛想を振りまいて、なかなか私だけのものにはなってくれなかった。
彼の家をつきとめて一緒に住もうと提案しよう。こんな場合は待ってばかりいても埒が明かないわよ。
だから、私はフランクの後をつけて家をつきとめた。時間は早朝だけれど、出迎えた女は嬉しそうにフランクに身を寄せた。おまけに腕には赤ちゃんを抱いている。
「ちょっと、これってどういうことよ? 私と結婚してくれるんじゃなかったの?」
「うわっ! なんでお前がこんなところにいるんだよ? ちっ。お前はさぁ、ただの金づるなんだよ。そんなこともわかんねーの?」
おかしい。だって、私は一緒に夢を見ていたはずだ。フランクがナンバーワンになって、私と暖かい家庭を築くという夢よ。なのに、金づるって。酷すぎる。
咄嗟にフランクに殴りかかったけれど、男の力にはかなわない。ねじ伏せられて、唾を吐きかけられてあざ笑われた。
「夢幻亭みたいな男遊館で働く俺らは、客となんか結婚しねーよ。恋愛と仕事は別なのさ。だいたい、本当に好きな女を娼館で働かせるかよ? 脳みそ足りないんじゃねーの? もう、お前はいらない。夢幻亭には二度と来るんじゃねーぞ」
私はボコボコに殴られて、自慢の可愛い顔は腫れ上がり、前歯が何本か欠けた。
神様、おかしい。なんで、私がこんな目にあうの? 私は男爵令嬢だったはず。もっと素晴らしい輝かしい未来があって、贅沢三昧する生活を送るはずだったのよ。私は道ばたにうずくまり、クソのような男に騙されていたことを激しく後悔するのだった。
それから五年後、私の身体はボロボロになっていた。娼館で特有の病にかかり地下牢のような部屋に隔離され、ただ死ぬのを待っている。治療法なんてないし、ここには錬金術士のような不思議な魔法を使える人間はいない。
始めは発疹やイボができたけれど、痛くもかゆくもなかったから放っておいた。でも、だんだん皮膚にしこりができて腫れてきて、鼻までもげた。今の私は化け物のようになっている。かつての美しさはどこにもない。
どうしてこうなっちゃったの? ソフィが憎い。あいつのせいで私がこんなことになったのよ。悔しい、悔しい・・・・・・やがて、私はソフィやフランクを恨みながら、誰にも看取られずに・・・・・・
୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧
※ココのざまぁ、はここまでです。最期まで反省することはありませんでした。この病気は今でいう梅毒です。とても恐ろしい病気で、最初は気がつかないことも多いそうですし、途中で症状が消えることもあるそうですが、潜伏期間でより恐ろしいことになっていくようです。現代の日本でも流行っているようで、去年の患者数は一万人を超えたそうです。怖いですね💦
まずは連れていかれたのが王城の地下牢だった。そこは湿気が多く空気もよどみ、むき出しの床や壁にはカビらしきものがはびこっていた。照明も暗く、卵や野菜の腐ったようなニオイも充満している。
狭い牢屋にはお父様もお母様もいない。ここは独房になっていてひとりぼっちよ。いいえ、ひとりぼっちならまだましだわ。気持ちの悪い虫とネズミが隅のほうにいて、いつこちらにやってくるのかと思うと、とても寛いでなんかいられない。カサカサと床を這いずり回る黒い虫は見たこともないわ。こんな不潔なところに閉じ込めるなんて酷すぎる。
「出してよ、お願いだから出して! 私はソフィの従姉妹なのよ。もう一度だけ、ソフィと話させてよ」
「ソフィ様とはビニ公爵夫人のお嬢様だろう? 無礼者め! ソフィ様はお前などが呼び捨てにして良い方ではない。身の程しらずめっ」
看守が私を睨み付けた。
ソフィはメドフォード王国では、それほど高貴な存在になっているの? 私だって男爵令嬢でビニ公爵夫人の姪なのに。ソフィばかりが得をしてずるい。
翌日は不敬罪の実刑として、革製の鞭で叩かれた。鞭で叩かれるなんて初めてのことよ。一回目の鞭では皮膚が赤くなり、二回目の鞭では皮膚が裂け、三回目の鞭では鮮血が飛ぶ。四回目、五回目ともなれば、肉がえぐられ深い傷が背中に刻まれることになる。
私の刑は鞭打ち五回だった。たかが五回なんて思わないでよ。どれだけ辛いか想像できる? 焼け付くような痛みで、背中の皮膚が腫れ上がるのよ。
「ぎゃぁあぁああーー!」
悲鳴が出たのは最初だけよ。後は脂汗を垂らしながら必死で歯を食いしばった。本当に痛い時は人間って声もでないらしいわ。
誰か助けて! これは何かの間違いよ。私がこんな目に遭うなんておかしい。
その後、鞭を打った執行人が恐ろしいほどしみる軟膏をくれた。化膿止めが入っているから、一日三回必ず塗るように言われる。
「自分で背中になんて塗れるわけがないじゃない」
文句を言ったらメイドがその都度やってきて、たっぷりと背中に軟膏を塗られた。
痛すぎる! こんなに痛い軟膏なんて初めてよ。
「わざと傷口にしみる成分を入れてあるのでしょう? 故意よね? なんて酷いの」
「あなたは罪人ですから文句を言えた立場ではありませんよ。こちらは錬金術師グレイトニッキー様が処方したものです。お仕置きの意味を含めて、わざとしみる成分が入っているかもしれませんが、効果は絶大のはずです。お嫌なら塗るのをやめますが、化膿してそこから菌が入って亡くなる方もおります」
私は慌てて塗るように頼んだ。確かに治りは早いように思ったけれど・・・・・・軟膏を塗られるたびに、ぞっとするくらいの痛さが襲ってくるのよ。まるで傷口に唐辛子をすり込んだようで、すごく痛かった。
私は何ヶ月も地下牢に閉じ込められた。そして、毎日のようにシスターが訪れた。牢の鉄格子の前で、シスターは薄暗い狭い空間に微かな光をもたらす蝋燭を灯して、私に穏やかな声で語りかけた。
「貴方がここにいるのは、過ちを犯した結果です。しかし、神の許しは限りなく広く、悔い改める心には常に赦しの光が差し込むものなのです」
私は静かに頭を垂れ、その言葉を聞き入れる様子を見せた。シスターは続けた。
「罪を悔い改めることは、新しい人生の始まりです。神は慈悲深く、罪人でも悔い改める者には赦しを与えてくださいます」
シスターは手元に置いていた小さな聖書から一節を読み上げ始めた。
「神の愛は深く広く、我々が犯す罪もその大いなる慈悲によって贖われます。悔い改め、神の教えに従うことで、新たな人生が始まるのです」
ソフィを連れ戻しにメドフォード王国に来たのが間違いだったことはわかる。でも、私がそれほど重い罪を犯したのかと言えば、そこは甚だ疑問だった。
従姉妹のソフィの物を少しばかりもらったり借りたりすることがそれほど重い罪なの? ソフィの婚約者と仲良くなったけれど、貴族の世界ではそんな色恋沙汰なんていくらでもあるじゃない? 王族の前での不敬な態度も反省するように言われたけれど、そもそも王族の方々にそれほど失礼なことを言った自覚もなかった。
「私は悪くないわよ。神様は心が狭すぎるわ。あの場にいたのが王族の方たちだと、最初にソフィが教えてくれなかったのが悪いわよ。私たちはソフィに嵌められたのよ」
シスターは顔を引きつらせて帰っていく。少しも私に共感してくれず、毎日のようにやってきては悔い改めるように指導された。
ばっかみたい! なにを言われても私の心には響かなかった。
シップトン国に帰国してからも災難は続いて、お父様は爵位と財産を失い平民にされてしまった。おまけに同じく平民に堕とされたクランシー様と結婚を強要され、あり得ないほどの貧乏生活が始まった。
汚い長屋に住み、運び手になったクランシー様の安い給料で生活する。欲しいものなんてなんにも買えないわよ。値引きになった痛んだ野菜や、売り物にならない果物に腐りかけた肉。そんな物を食べるしかなくて、新しい服を買う余裕もない。
生きているけれど死んでいるみたいだわ。夢も希望もない生活に逃げ出したい気持ちでいた。そんな時に声をかけてきたのがフランクで、『夢幻亭』という酒場で働いている男性だった。フランクは私が好きみたいで、夢幻亭の前を通る度に店から出てきて私に話しかける。
「ねぇ、君、とても可愛いね。夢幻亭に飲みにおいでよ。初回は安くしておくから。可愛い子には特別さ」
彼に会いに行くには、その酒場に通わないといけない。でも、酒場に行くにはお金が必要よ。どうにかしてお金が手に入らないかしら? そう思っていたら、ちょうどクランシー様が大怪我をして死にそうになってしまう。
仕事中の事故なら絶対お金が遺族に入るはずだわ。
死に損ないのクランシー様なんかに用はない。この人は侯爵家の人間だから価値があっただけだもの。もっと言えばソフィの婚約者だったから、私の興味を引きどうしても欲しくなっただけで、ここまで落ちぶれてしまった男性と結婚なんかしたくなかった。
クランシー様が亡くなって手にしたお金で夢幻亭に行った。そこは変わった酒場で男性だけが働いており、お客は女性ばかりだった。高価なお酒をバンバン注文する客は『姫』と呼ばれていた。
連日、通い続けてそろそろお金が尽きる頃だった。
「君は本当に特別だよ。こんなに素敵な笑顔を見ることができるなんて、僕は幸せ者だね。だけど、もっと僕のために頑張れるよね?」
「頑張るってなにを?」
首を傾げながら聞き返すと、彼の仕事あがりに娼館に連れていかれた。
「ここで僕のために働いてよ。普通の仕事じゃ給料が安すぎて、高い酒が注文できないだろう? 僕の夢を応援してほしいんだ。君との明るい未来のためにも必要なことさ」
明るい未来って? 私と結婚してくれるということよね?
「わかった。ここで働けば私のものになってくれるのね?」
「あぁ、そうさ。僕は君のものだよ。夢幻亭で過ごす時間はね」
私は夢幻亭で過ごす時間以外でもフランクを独占したい。でも、それにはもっともっと、お金を使わなければならないんですって。フランクにはそれだけの価値がある。彼と私は同じ夢を見ているのよ。でも、彼は他の女性にも愛想を振りまいて、なかなか私だけのものにはなってくれなかった。
彼の家をつきとめて一緒に住もうと提案しよう。こんな場合は待ってばかりいても埒が明かないわよ。
だから、私はフランクの後をつけて家をつきとめた。時間は早朝だけれど、出迎えた女は嬉しそうにフランクに身を寄せた。おまけに腕には赤ちゃんを抱いている。
「ちょっと、これってどういうことよ? 私と結婚してくれるんじゃなかったの?」
「うわっ! なんでお前がこんなところにいるんだよ? ちっ。お前はさぁ、ただの金づるなんだよ。そんなこともわかんねーの?」
おかしい。だって、私は一緒に夢を見ていたはずだ。フランクがナンバーワンになって、私と暖かい家庭を築くという夢よ。なのに、金づるって。酷すぎる。
咄嗟にフランクに殴りかかったけれど、男の力にはかなわない。ねじ伏せられて、唾を吐きかけられてあざ笑われた。
「夢幻亭みたいな男遊館で働く俺らは、客となんか結婚しねーよ。恋愛と仕事は別なのさ。だいたい、本当に好きな女を娼館で働かせるかよ? 脳みそ足りないんじゃねーの? もう、お前はいらない。夢幻亭には二度と来るんじゃねーぞ」
私はボコボコに殴られて、自慢の可愛い顔は腫れ上がり、前歯が何本か欠けた。
神様、おかしい。なんで、私がこんな目にあうの? 私は男爵令嬢だったはず。もっと素晴らしい輝かしい未来があって、贅沢三昧する生活を送るはずだったのよ。私は道ばたにうずくまり、クソのような男に騙されていたことを激しく後悔するのだった。
それから五年後、私の身体はボロボロになっていた。娼館で特有の病にかかり地下牢のような部屋に隔離され、ただ死ぬのを待っている。治療法なんてないし、ここには錬金術士のような不思議な魔法を使える人間はいない。
始めは発疹やイボができたけれど、痛くもかゆくもなかったから放っておいた。でも、だんだん皮膚にしこりができて腫れてきて、鼻までもげた。今の私は化け物のようになっている。かつての美しさはどこにもない。
どうしてこうなっちゃったの? ソフィが憎い。あいつのせいで私がこんなことになったのよ。悔しい、悔しい・・・・・・やがて、私はソフィやフランクを恨みながら、誰にも看取られずに・・・・・・
୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧
※ココのざまぁ、はここまでです。最期まで反省することはありませんでした。この病気は今でいう梅毒です。とても恐ろしい病気で、最初は気がつかないことも多いそうですし、途中で症状が消えることもあるそうですが、潜伏期間でより恐ろしいことになっていくようです。現代の日本でも流行っているようで、去年の患者数は一万人を超えたそうです。怖いですね💦
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