46 / 67
45 悩むソフィ
しおりを挟む
「お前の知っていることを全て話せ!」
「私は何も言わない。私の口からは何も聞けない」
グレイトニッキーに命じられた男性は堅固な決意を心に秘め、表情にはその決意がはっきりと現れていた。彼の眉間には深いしわが刻まれ眼差しは鋭く、自分の信念を持ちグレイトニッキーに対する抵抗を示していたのよ。
唇は閉じられ固い線を描いていた。彼は言葉を一つも口にせず、沈黙を武器として使うつもりのようだった。その静寂は、彼の決意と不屈の意志を物語っていた。
この男性の表情と態度からは、どんなに圧力がかかろうとも、彼が自分の信念を曲げないことが明確に伝わってきた。これではきっと証言は得られない、そう思った。
「お前に黙秘権などないのだよ。拷問してでも、吐いてもらおうか?」
グレイトニッキーの脅しに反応した男性は、呪文のような言葉を唱えだす。その瞬間、彼は苦痛で顔を歪め大粒の汗を噴き出した。
いったい、なにが起こっているの?
「その拘束具は錬金術師が魔法を使用しようとする瞬間に、微弱な魔法エネルギーを感知するんだよ。すると、拘束具内部で反魔法シールドが生成されるのさ。わかるよな? お前はなにもできない。それどころか・・・・・・」
グレイトニッキーの説明では、反魔法シールドは錬金術師の心に向かって働きかけ、彼の過去の罪や過ちに対する深い罪悪感を増幅させるそうだ。過去の行いや罪に対する後悔や自責の念が錬金術師の心に広がり、自白への圧力となるという。
この仕組みにより、拘束された錬金術師は自己の罪悪感と魔法の封印に苦しむこととなり、罪を自白せざるを得ない状況が生み出されるという仕組みらしい。グレイトニッキーは、罪を犯した錬金術師用にこれを開発した、と胸を反らせた。
やがて、捕らえられた男が自分の名前を語り、罪を自白しだした。彼が作成したエリクサーは3種類。ここ最近の記憶を消すものと、記憶を差し替えるもの、強力に好感度を上げるもの、それらをカロライナ国王とカメーリア殿下に依頼されたことを白状したのだ。
それらの詳細な効果なども説明されていくと、ライオネル殿下は平静を装いながらも、その手が震えだしていた。
自分が飲まされた恐ろしいエリクサーの効果に、きっと戸惑いと動揺を感じているのだろう。
可哀想に・・・・・・彼に罪はない。なにも悪いことはしていない。彼の記憶がないのは彼のせいではなく、カメーリア殿下と親しそうに見えたのも、あの錬金術師の作成したエリクサーのせい。
けれど、カメーリア殿下と仲良く寄り添うように歩く場面を目撃し、その衝撃と混乱に襲われた私には、大きなわだかまりが残った。ライオネル殿下への愛と信頼が一瞬揺らぎ、心が深い痛みで押しつぶされそうになったのだから、なかったことには到底できなかった。
ライオネル殿下とカメーリア殿下がソファに並んで座った時も、彼との未来を明るく描いていた私にとっては衝撃だった。私の名前を聞いてもわからず、それは誰かと聞かれた時の無力感と絶望は、言葉では表現できない。
思わず私を思い出してくださるように懇願したときも、彼はカメーリア殿下の横に座り続け、彼女の私を貶める言葉を注意することもなかった。エリクサーのせいだとわかった今も、その光景はあまりにも鮮明に私の頭に焼き付いてしまったのだった。
☆彡 ★彡
私はエレガントローズ学院で、辛い気持ちから逃れるように勉学に励んだ。週末ごとに帰っていたビニ公爵邸にも自然と足が遠のいていた。ビニ公爵邸にはライオネル殿下との思い出がありすぎるのよ。私は彼との思い出を持て余し、途方に暮れていた。
ぼんやりとしていても、ライオネル殿下のことを考えてしまう。思い出したくないのに、カメーリア殿下と寄り添っている姿が、何度も何度も脳内で再生された。
私は思い出したくない。彼のことを考えたくない。
私はエレガントローズ学院の庭園で、ひとり物思いにふけることが多くなった。そこは色とりどりのバラで埋め尽くされ、淡いピンクから真紅まで、さまざまな色の花が咲き誇り、甘い香りが漂っていた。バラの間にはフレンチリリーが植えられており、その優雅な紫色の花が庭園に彩りを加えていた。
アジュガという青紫色の花弁もバラの色と調和し、庭園の美しさを引き立てている。ライオネル殿下のことがなければ、気候も暖かく花々が溢れる今の季節は最高だと思う。
庭園の中央には噴水があり、水しぶきが太陽の光で輝いていた。私は噴水の周りに設置されたベンチに座り、ぼんやりとその美しい光景を眺めている。
そんなときであっても、不意にライオネル殿下とカメーリア殿下が微笑み合う場面がよみがえり、自分でも情けないと思うほど心が沈み込む。
「ソフィ様。ライオネル殿下の記憶が戻るエリクサーを開発しているところですので、どうかもう少しお待ちください」
グレイトニッキーはエレガントローズ学院でシェフ長を続けている。このように私が庭園でひとりでいると、慰めるように声をかけてくれる。私は彼に忘れたい場面を消し去ることはできるのかを聞きたくなった。
「私の頭からライオネル殿下の思い出だけを消し去ることは可能ですか?」
私は自分でもとんでもないことを口にしていると思った。彼の長い沈黙が私を後悔させた。
いくらなんでも言ってはいけない言葉だったかも。そう、反省しかけたところに彼の答えが返ってきた。
「可能ですよ。しかし、私が作るエリクサーで記憶を失ったら、もう二度とそれを取り戻すことはできません。それでもよろしいですか?」
私が忘れたいのはライオネル殿下が帰国した日の出来事や瞬間だ。でも、楽しかった思い出だけ残してもなんになるのだろう? ライオネル殿下が覚えていない二人の思い出に価値はあるのだろうか?
「私は何も言わない。私の口からは何も聞けない」
グレイトニッキーに命じられた男性は堅固な決意を心に秘め、表情にはその決意がはっきりと現れていた。彼の眉間には深いしわが刻まれ眼差しは鋭く、自分の信念を持ちグレイトニッキーに対する抵抗を示していたのよ。
唇は閉じられ固い線を描いていた。彼は言葉を一つも口にせず、沈黙を武器として使うつもりのようだった。その静寂は、彼の決意と不屈の意志を物語っていた。
この男性の表情と態度からは、どんなに圧力がかかろうとも、彼が自分の信念を曲げないことが明確に伝わってきた。これではきっと証言は得られない、そう思った。
「お前に黙秘権などないのだよ。拷問してでも、吐いてもらおうか?」
グレイトニッキーの脅しに反応した男性は、呪文のような言葉を唱えだす。その瞬間、彼は苦痛で顔を歪め大粒の汗を噴き出した。
いったい、なにが起こっているの?
「その拘束具は錬金術師が魔法を使用しようとする瞬間に、微弱な魔法エネルギーを感知するんだよ。すると、拘束具内部で反魔法シールドが生成されるのさ。わかるよな? お前はなにもできない。それどころか・・・・・・」
グレイトニッキーの説明では、反魔法シールドは錬金術師の心に向かって働きかけ、彼の過去の罪や過ちに対する深い罪悪感を増幅させるそうだ。過去の行いや罪に対する後悔や自責の念が錬金術師の心に広がり、自白への圧力となるという。
この仕組みにより、拘束された錬金術師は自己の罪悪感と魔法の封印に苦しむこととなり、罪を自白せざるを得ない状況が生み出されるという仕組みらしい。グレイトニッキーは、罪を犯した錬金術師用にこれを開発した、と胸を反らせた。
やがて、捕らえられた男が自分の名前を語り、罪を自白しだした。彼が作成したエリクサーは3種類。ここ最近の記憶を消すものと、記憶を差し替えるもの、強力に好感度を上げるもの、それらをカロライナ国王とカメーリア殿下に依頼されたことを白状したのだ。
それらの詳細な効果なども説明されていくと、ライオネル殿下は平静を装いながらも、その手が震えだしていた。
自分が飲まされた恐ろしいエリクサーの効果に、きっと戸惑いと動揺を感じているのだろう。
可哀想に・・・・・・彼に罪はない。なにも悪いことはしていない。彼の記憶がないのは彼のせいではなく、カメーリア殿下と親しそうに見えたのも、あの錬金術師の作成したエリクサーのせい。
けれど、カメーリア殿下と仲良く寄り添うように歩く場面を目撃し、その衝撃と混乱に襲われた私には、大きなわだかまりが残った。ライオネル殿下への愛と信頼が一瞬揺らぎ、心が深い痛みで押しつぶされそうになったのだから、なかったことには到底できなかった。
ライオネル殿下とカメーリア殿下がソファに並んで座った時も、彼との未来を明るく描いていた私にとっては衝撃だった。私の名前を聞いてもわからず、それは誰かと聞かれた時の無力感と絶望は、言葉では表現できない。
思わず私を思い出してくださるように懇願したときも、彼はカメーリア殿下の横に座り続け、彼女の私を貶める言葉を注意することもなかった。エリクサーのせいだとわかった今も、その光景はあまりにも鮮明に私の頭に焼き付いてしまったのだった。
☆彡 ★彡
私はエレガントローズ学院で、辛い気持ちから逃れるように勉学に励んだ。週末ごとに帰っていたビニ公爵邸にも自然と足が遠のいていた。ビニ公爵邸にはライオネル殿下との思い出がありすぎるのよ。私は彼との思い出を持て余し、途方に暮れていた。
ぼんやりとしていても、ライオネル殿下のことを考えてしまう。思い出したくないのに、カメーリア殿下と寄り添っている姿が、何度も何度も脳内で再生された。
私は思い出したくない。彼のことを考えたくない。
私はエレガントローズ学院の庭園で、ひとり物思いにふけることが多くなった。そこは色とりどりのバラで埋め尽くされ、淡いピンクから真紅まで、さまざまな色の花が咲き誇り、甘い香りが漂っていた。バラの間にはフレンチリリーが植えられており、その優雅な紫色の花が庭園に彩りを加えていた。
アジュガという青紫色の花弁もバラの色と調和し、庭園の美しさを引き立てている。ライオネル殿下のことがなければ、気候も暖かく花々が溢れる今の季節は最高だと思う。
庭園の中央には噴水があり、水しぶきが太陽の光で輝いていた。私は噴水の周りに設置されたベンチに座り、ぼんやりとその美しい光景を眺めている。
そんなときであっても、不意にライオネル殿下とカメーリア殿下が微笑み合う場面がよみがえり、自分でも情けないと思うほど心が沈み込む。
「ソフィ様。ライオネル殿下の記憶が戻るエリクサーを開発しているところですので、どうかもう少しお待ちください」
グレイトニッキーはエレガントローズ学院でシェフ長を続けている。このように私が庭園でひとりでいると、慰めるように声をかけてくれる。私は彼に忘れたい場面を消し去ることはできるのかを聞きたくなった。
「私の頭からライオネル殿下の思い出だけを消し去ることは可能ですか?」
私は自分でもとんでもないことを口にしていると思った。彼の長い沈黙が私を後悔させた。
いくらなんでも言ってはいけない言葉だったかも。そう、反省しかけたところに彼の答えが返ってきた。
「可能ですよ。しかし、私が作るエリクサーで記憶を失ったら、もう二度とそれを取り戻すことはできません。それでもよろしいですか?」
私が忘れたいのはライオネル殿下が帰国した日の出来事や瞬間だ。でも、楽しかった思い出だけ残してもなんになるのだろう? ライオネル殿下が覚えていない二人の思い出に価値はあるのだろうか?
54
お気に入りに追加
4,624
あなたにおすすめの小説
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
拝啓、婚約者様。婚約破棄していただきありがとうございます〜破棄を破棄?ご冗談は顔だけにしてください〜
みおな
恋愛
子爵令嬢のミリム・アデラインは、ある日婚約者の侯爵令息のランドル・デルモンドから婚約破棄をされた。
この婚約の意味も理解せずに、地味で陰気で身分も低いミリムを馬鹿にする婚約者にうんざりしていたミリムは、大喜びで婚約破棄を受け入れる。

【完結】もう結構ですわ!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始

婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。
久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」
煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。
その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。
だったら良いでしょう。
私が綺麗に断罪して魅せますわ!
令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました
八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」
子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。
失意のどん底に突き落とされたソフィ。
しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに!
一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。
エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。
なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。
焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる