(本編完結)家族にも婚約者にも愛されなかった私は・・・・・・従姉妹がそんなに大事ですか?

青空一夏

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41 記憶を失ったライオネル殿下 ライオネル殿下視点

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 私が目を覚ましたとき、まず最初に感じたのは深刻な混乱と戸惑いだった。この部屋が私に全く馴染みがなかったからだ。

 部屋の中央には大きなベッドがあり、私はそのベッドに横たわっていた。大理石でできた暖炉はかなり存在感があり、ここが寒さの厳しい地域であることを物語っている。起き上がろうとすると後頭部にズキリと痛みが走った。

「あぁ、良かった! すぐに、暖かい飲み物を持って来ますわ。宮廷医も呼んできますね。二日も目を覚まさないので心配しておりました」

「ここはどこですか? メドフォード国ではないですよね? なぜ、私はここにいるのだろうか?」

「まぁ、記憶がないのですか? きっと落馬した際に頭を打ったせいだと思います」

 その女性の艶やかな赤い髪とルビーのような瞳は、メドフォード国では見かけないもので、ここが異国であることを確信した。その女性はベッドの横にある椅子に座っていた。綺麗な女性だったが、疲れた様子でくまのような影が目の下に広がっている。顔には疲労の痕跡も見られた。

「まさか、私の看病をずっとしてくださっていたのですか?」

「いいえ。看病というほどではありません。心配でしたので、ベッドの側で美しい寝顔を見守らせていただいておりました。それだけのことです」

 謙虚な女性だと思った。私を心配しているという瞳に嘘は無いようだ。心から感謝の意を表すと、彼女は頬を赤らめ、照れくさいような仕草をしながら、急いで部屋を出て行った。

 やがて、暖かいスープを手に持って現れ、それを飲み終わるまでじっと私の様子を見ていた。すぐに宮廷医が来るとも教えてくれた。

「私の顔になにかついていますか? それほど見つめられたら顔に穴があきますよ」

 少しおどけてその女性に言うと、彼女は驚いたことに涙を浮かべた。

「私はライオネル殿下の描いた絵画や、お弾きになるヴァイオリンの音色の大ファンなのです。大好きな憧れの方がこれほど身近におられて、こうしてお話までできることに感動しております。どんなお手伝いが必要でも、私はあなた様の側にいて、元気を取り戻すまでお世話をさせていただきたいです」

 私はこのカロライナ王国に音楽文化交流会のために訪れたそうだ。しかし、夜明けの鷹狩りの際に落馬し、そのまま気を失ったという。

 やがて、宮廷医が現れ、慎重に私の頭部の傷を検査し、微笑みながら言った。

「幸いなことにこの傷は深くないようです。すぐに治ると思います」

 宮廷医の声には安心感が漂い、私はほっと胸をなでおろしたが、ここになぜいるのか、その辺りの記憶がないことを告げた。

 自分が「メドフォード国の第二王子」であるということはわかっていた。この情報は不思議なことに、私の記憶の中にしっかりと刻まれている。私はメドフォード国の王室に生まれ、父上や母上、そして兄上という家族がいることも覚えていた。兄上との絆や、父上と母上から受けた優しさと愛も、心の中に鮮明に残っていた。

 また、尊敬する叔父上のビニ公爵やその夫人の顔も思いだせた。幼い頃からの友人や側近、部下に護衛騎士達の顔も次々に頭に浮かぶ。しかし、異国を訪問した目的は覚えておらず、自分がどのようにしてここにたどり着いたのかさえも思い出せなかった。

「おそらく一時的な記憶喪失でしょう。きっと、しばらくすればなにもかも思い出せるはずです」

 宮廷医の言葉に安心していると、扉を叩く音と共に贅沢な衣装を纏った男性が、涙ながらに入室してきて、いきなり両手を床につけ身をかがめた。

「ライオネル殿下。大変申し訳ありませんでした。私が鷹狩りなどに誘ったばかりに、このような事故になり、なんとお詫びしていいやら。既に、メドフォード王国には、この事故をお伝えするために使者を向かわせております。どうぞ、ライオネル殿下の体調が回復するまで、こちらで療養なさってください」

 彼は自分の選択や行動に対する、深い後悔を口にしながら涙を流していた。彼の表情には悔恨の色が滲んでいて、こちらが気の毒になるほどだった。多分、この方がこの国の国王か。

「いや、落馬したのなら私の不注意が原因でしょう。きっと、なにかに気を取られていたのかもしれない。その時のことはなにも覚えておりませんが、カロライナ国王だけの責任ではありません」

「なんとお優しい。こちらは私の妹のカメーリアと申します。ライオネル殿下のお世話は妹に任せてください。なにしろカメーリアはライオネル殿下の大ファンでして」

 拒む理由もないので素直に頷いた。ただ、鷹狩りに行ったという自分の行動が不思議だった。私は元来、狩りはそれほど好きではない。

 常々、森は獣たちが住まう場所であり、彼らが平和に生きる権利を尊重したいと思っていたからだ。なぜ、カロライナ国王の誘いに乗ったのか、それだけが腑に落ちなかったのだった。



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