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24 ヴィッキー騙される / 楽しい文化祭
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※ヴィッキー視点
私はボナデアお姉様に負けないゴージャスな自分を演出するために、メイド達に多くのドレスと宝石をトランクに詰めるよう指示した。トランクには美しいシルクのドレス、エレガントなイブニングドレス等が次々と収められていく。
宝石ポーチには思いっきり豪華なネックレスを入れた。とにかくお姉様には負けたくない。これは女の戦いなのよ! ソフィは必ず取り返してみせる。
だいたい、人の娘を誘拐するなんて許せない。ソフィは私がお腹を痛めて生んだ子よ。あの子をこの世に誕生させたのは私なのだから、あの子の人生は私が決める。それが親の義務であり、権利だと思っている。
「奥様。私はメドフォード国の出身なので近道を教えてさしあげますわ」
ソフィの修道院行きが決まったあたりから雇った優秀な侍女リゼが、サラサラと簡単な地図を書いてくれた。リゼはとても気が利くうえに、手先も器用で知識も豊富だった。
侍女を見れば、主人の性格や身分がわかるというもので、私が有能だからこのような侍女が、ラバジェ伯爵家に来たのだろうと自負していた。
最初は、夫のチャドと私、そして妹夫婦のバークレー男爵夫妻が行くことになっていたが、最終的にはココも同行することに決まり、ココが行くのならと息子のスカイラーも同行することになった。
「きっと、メドフォード国で寂しい思いをしているに違いありません。幼なじみの私が行けば、ソフィは嬉しがります。なんと言っても従姉妹なのですし、私達は姉妹のように育ったのですもの」
ココの気持ちが嬉しい。なんて優しい思いやりのある子なの!
☆彡 ★彡
リゼの地図通りに、馬車を進ませた。御者には私たちの安眠を妨げないよう厳しく伝え、馬車の中で眠りについた。昨夜の私達は、ボナデアお姉様に対する憤りでなかなか眠りにつけなかったから、馬車の中でのお昼寝は必要なことだった。
快適なお昼寝から目覚めて窓の外を見ると、ラバジェ伯爵家の馬車は深い森の中をゆっくりと進んでいた。繁茂した木々が道の両側を覆い、太陽の光が僅かな木漏れ日となり差し込んでいる。
馬車の車輪が枯葉を踏みしめ、ゆったりと進んでいくなか、鳥のさえずりや風のざわめきが耳に心地よく響いた。時折、遠くで野生の鹿が飛び跳ねる様子を見かけることもあり、景色を愛でながらの旅はなかなか心地良いものだった。
ところが、森を抜けた瞬間、目の前には牧場が広がっていたのよ。放牧された牛が数百頭はいる、と思われる大牧場だった。
大牧場にはネイルスミス侯爵家の紋章が描かれた家紋旗が、風に吹かれてゆらゆらと揺れていた。ネイルスミス侯爵家とは昔から犬猿の仲なのに、とんでもない場所に出てしまった。
しかも、牛達はいきなり侵入してきた私達の馬車を執拗に追いかけてきた。平穏に草を食べているところを邪魔されたので、すっかり怒っている。
「ひゃぁーー! こいつら、逃げても逃げても、追いかけてきますぅーー。おくさまぁー、わっしは何度も引き返した方が良いとお声をかけたでしょうがぁーー!」
「そんな声なんて聞こえなかったわよ。私達は寝ていたのよ!」
先ほどの森での愉快な気分は一瞬にして台無しになり、私達はお互いを責め合った。御者に責任を押し付けたり、私や夫の迂闊さを指摘し合ったりするなかで、私たちの口論はますます激しさを増していった。
その最中、牧場主が放牧夫たちと共に現れた。牛を宥めてくれたのは良いけれど、不穏な空気が漂う。
「馬車に刻まれた紋章はラバジェ伯爵家の物ですね? ネイルスミス侯爵家の領地に、無断で足を踏み入れてもらっては困りますなぁ」
「ネイルスミス侯爵家の領地を通るつもりではありませんでした。でも、こちらを突っ切っていけば、メドフォード国に近道できるのかしら?」
「はぁ? この道からメドフォード国に行くつもりですか? 通常の街道を通る方がずっと早いですよ。遠回りですね。しかも、高額な領地通行料金を幾重にも取られます」
「領地通行料金ですって? すぐに引き返しますわ」
「どうぞ。あの暗い森に戻る勇気があるならね。そろそろ日も暮れる頃だし、夜はオオカミがたくさん群れをなしています」
私達は引き返すこともできず高額な通行料金を取られて、馬車で夜を明かす羽目になったのだった。
☆彡 ★彡
※ヒロインに視点変わります。
冬至祭りの後、エレガントローズ学院に戻ると、早速マリエッタ様から責められた。
「ライオネル殿下と婚約していたことを内緒にしていたなんて酷いですーー」
「きっと、恥ずかしくおっしゃることができなかったのですね?」
ジョディ様がキラキラとした瞳で尋ねてきたし、
「あぁ、美男美女で素敵でした。あの挿絵、全部切り抜いて宝物にしましたわ」
アーリン様は胸の前で手を組み、うっとりとした表情を浮かべた。たくさんの情報が出回り、婚約の噂を否定するのが難しかった。クラスメイト達は、私が何度否定しても信じてくれなかった。
冬至祭りが終わると、エレガントローズ学院では文化祭の準備が本格的に始まった。私はハープを演奏し、また、歴史上の人物に扮してマリエッタ様たちと劇を演じることになっていた。
さらに、その日はメドフォード国で行われた、大規模な絵画コンテストの結果発表も行われる予定だったから、私にとっては特別ドキドキする大事な日だった。
文化祭の日が近づくにつれ、学園内はわくわくとした興奮に包まれていく。特に今回は王族の来訪もあるとの知らせが広まり、期待が高まっていた。
文化祭当日、学園の庭園には華やかなテントや出し物のブースが並び、生徒たちが自分達の作品や日頃の努力の成果を披露した。私とマリエッタ様にジョディ様とアーリン様は歴史愛好者として知られ、その情熱は学園中に広まっていた。
私達は学園内の演劇部と協力して、歴史上の重要な人物の劇を熱演した。それは多くの生徒達と父兄をも魅了し、私達の演技は非常に評価され称賛を受けた。
また、絵画のコンテストでも私が優勝したことが発表され、さらに喜びが広がった。観客の中には国王陛下夫妻やカーマイン王太子殿下にライオネル殿下、ミラ王女殿下もいらっしゃって、盛大な拍手をいただいのよ。もちろん、そこにはビニ公爵様とボナデア伯母様もいらっしゃった。
学院の大ホールでは、私は優雅なドレスに身を包み、ハープを弾いた。指先は軽やかに弦をなぞり、静かな音色が広がっていく。ハープの音は空間に優しく響き、その美しさが静かな感動を呼び起こした。
そんな中、ライオネル殿下が飛び入りでフルートを手にし、私の演奏に合わせて優雅な旋律を奏で始めた。彼の音楽はハープと調和し、二重奏のような美しい調べが空間に満ちた。
私達の美しい思い出がまたひとつ増えていく。にっこりと微笑みあえば、言葉がいらないほど心が通じ合っていると信じられたのよ。
その日は週末前日だったので、私達は王家の紋章の入った馬車を連ねてビニ公爵邸に帰った。今日はアルフォンソ国王陛下を始め、王族方は皆ビニ公爵邸に泊まることになった。
夕食前のひととき、私とミラ王女殿下はカードゲームに興じ、カーマイン王太子殿下達はチェスを楽しみ、アルフォンソ国王陛下とビニ公爵様は政治の話をし、ボナデア伯母様とカサンドラ王妃殿下は、私とライオネル殿下の演奏について、いかに素晴らしかったかと語り合っていた。
時折どっと笑い声が起こるのは、皆が共通の話題で盛り上がっている証拠で、私達はとても仲が良いと実感できたわ。
ここは私が存在していても良い場所だ。いいえ、ここが私のいるべき場所なんだ。そう、信じられた。
けれどその平和なひとときは、私のお母様達によって破られた。
「旦那様、奥様。ラバジェ伯爵家の方々が門の外で騒いでおります」
家令の言葉にぞっとした私なのだった。
私はボナデアお姉様に負けないゴージャスな自分を演出するために、メイド達に多くのドレスと宝石をトランクに詰めるよう指示した。トランクには美しいシルクのドレス、エレガントなイブニングドレス等が次々と収められていく。
宝石ポーチには思いっきり豪華なネックレスを入れた。とにかくお姉様には負けたくない。これは女の戦いなのよ! ソフィは必ず取り返してみせる。
だいたい、人の娘を誘拐するなんて許せない。ソフィは私がお腹を痛めて生んだ子よ。あの子をこの世に誕生させたのは私なのだから、あの子の人生は私が決める。それが親の義務であり、権利だと思っている。
「奥様。私はメドフォード国の出身なので近道を教えてさしあげますわ」
ソフィの修道院行きが決まったあたりから雇った優秀な侍女リゼが、サラサラと簡単な地図を書いてくれた。リゼはとても気が利くうえに、手先も器用で知識も豊富だった。
侍女を見れば、主人の性格や身分がわかるというもので、私が有能だからこのような侍女が、ラバジェ伯爵家に来たのだろうと自負していた。
最初は、夫のチャドと私、そして妹夫婦のバークレー男爵夫妻が行くことになっていたが、最終的にはココも同行することに決まり、ココが行くのならと息子のスカイラーも同行することになった。
「きっと、メドフォード国で寂しい思いをしているに違いありません。幼なじみの私が行けば、ソフィは嬉しがります。なんと言っても従姉妹なのですし、私達は姉妹のように育ったのですもの」
ココの気持ちが嬉しい。なんて優しい思いやりのある子なの!
☆彡 ★彡
リゼの地図通りに、馬車を進ませた。御者には私たちの安眠を妨げないよう厳しく伝え、馬車の中で眠りについた。昨夜の私達は、ボナデアお姉様に対する憤りでなかなか眠りにつけなかったから、馬車の中でのお昼寝は必要なことだった。
快適なお昼寝から目覚めて窓の外を見ると、ラバジェ伯爵家の馬車は深い森の中をゆっくりと進んでいた。繁茂した木々が道の両側を覆い、太陽の光が僅かな木漏れ日となり差し込んでいる。
馬車の車輪が枯葉を踏みしめ、ゆったりと進んでいくなか、鳥のさえずりや風のざわめきが耳に心地よく響いた。時折、遠くで野生の鹿が飛び跳ねる様子を見かけることもあり、景色を愛でながらの旅はなかなか心地良いものだった。
ところが、森を抜けた瞬間、目の前には牧場が広がっていたのよ。放牧された牛が数百頭はいる、と思われる大牧場だった。
大牧場にはネイルスミス侯爵家の紋章が描かれた家紋旗が、風に吹かれてゆらゆらと揺れていた。ネイルスミス侯爵家とは昔から犬猿の仲なのに、とんでもない場所に出てしまった。
しかも、牛達はいきなり侵入してきた私達の馬車を執拗に追いかけてきた。平穏に草を食べているところを邪魔されたので、すっかり怒っている。
「ひゃぁーー! こいつら、逃げても逃げても、追いかけてきますぅーー。おくさまぁー、わっしは何度も引き返した方が良いとお声をかけたでしょうがぁーー!」
「そんな声なんて聞こえなかったわよ。私達は寝ていたのよ!」
先ほどの森での愉快な気分は一瞬にして台無しになり、私達はお互いを責め合った。御者に責任を押し付けたり、私や夫の迂闊さを指摘し合ったりするなかで、私たちの口論はますます激しさを増していった。
その最中、牧場主が放牧夫たちと共に現れた。牛を宥めてくれたのは良いけれど、不穏な空気が漂う。
「馬車に刻まれた紋章はラバジェ伯爵家の物ですね? ネイルスミス侯爵家の領地に、無断で足を踏み入れてもらっては困りますなぁ」
「ネイルスミス侯爵家の領地を通るつもりではありませんでした。でも、こちらを突っ切っていけば、メドフォード国に近道できるのかしら?」
「はぁ? この道からメドフォード国に行くつもりですか? 通常の街道を通る方がずっと早いですよ。遠回りですね。しかも、高額な領地通行料金を幾重にも取られます」
「領地通行料金ですって? すぐに引き返しますわ」
「どうぞ。あの暗い森に戻る勇気があるならね。そろそろ日も暮れる頃だし、夜はオオカミがたくさん群れをなしています」
私達は引き返すこともできず高額な通行料金を取られて、馬車で夜を明かす羽目になったのだった。
☆彡 ★彡
※ヒロインに視点変わります。
冬至祭りの後、エレガントローズ学院に戻ると、早速マリエッタ様から責められた。
「ライオネル殿下と婚約していたことを内緒にしていたなんて酷いですーー」
「きっと、恥ずかしくおっしゃることができなかったのですね?」
ジョディ様がキラキラとした瞳で尋ねてきたし、
「あぁ、美男美女で素敵でした。あの挿絵、全部切り抜いて宝物にしましたわ」
アーリン様は胸の前で手を組み、うっとりとした表情を浮かべた。たくさんの情報が出回り、婚約の噂を否定するのが難しかった。クラスメイト達は、私が何度否定しても信じてくれなかった。
冬至祭りが終わると、エレガントローズ学院では文化祭の準備が本格的に始まった。私はハープを演奏し、また、歴史上の人物に扮してマリエッタ様たちと劇を演じることになっていた。
さらに、その日はメドフォード国で行われた、大規模な絵画コンテストの結果発表も行われる予定だったから、私にとっては特別ドキドキする大事な日だった。
文化祭の日が近づくにつれ、学園内はわくわくとした興奮に包まれていく。特に今回は王族の来訪もあるとの知らせが広まり、期待が高まっていた。
文化祭当日、学園の庭園には華やかなテントや出し物のブースが並び、生徒たちが自分達の作品や日頃の努力の成果を披露した。私とマリエッタ様にジョディ様とアーリン様は歴史愛好者として知られ、その情熱は学園中に広まっていた。
私達は学園内の演劇部と協力して、歴史上の重要な人物の劇を熱演した。それは多くの生徒達と父兄をも魅了し、私達の演技は非常に評価され称賛を受けた。
また、絵画のコンテストでも私が優勝したことが発表され、さらに喜びが広がった。観客の中には国王陛下夫妻やカーマイン王太子殿下にライオネル殿下、ミラ王女殿下もいらっしゃって、盛大な拍手をいただいのよ。もちろん、そこにはビニ公爵様とボナデア伯母様もいらっしゃった。
学院の大ホールでは、私は優雅なドレスに身を包み、ハープを弾いた。指先は軽やかに弦をなぞり、静かな音色が広がっていく。ハープの音は空間に優しく響き、その美しさが静かな感動を呼び起こした。
そんな中、ライオネル殿下が飛び入りでフルートを手にし、私の演奏に合わせて優雅な旋律を奏で始めた。彼の音楽はハープと調和し、二重奏のような美しい調べが空間に満ちた。
私達の美しい思い出がまたひとつ増えていく。にっこりと微笑みあえば、言葉がいらないほど心が通じ合っていると信じられたのよ。
その日は週末前日だったので、私達は王家の紋章の入った馬車を連ねてビニ公爵邸に帰った。今日はアルフォンソ国王陛下を始め、王族方は皆ビニ公爵邸に泊まることになった。
夕食前のひととき、私とミラ王女殿下はカードゲームに興じ、カーマイン王太子殿下達はチェスを楽しみ、アルフォンソ国王陛下とビニ公爵様は政治の話をし、ボナデア伯母様とカサンドラ王妃殿下は、私とライオネル殿下の演奏について、いかに素晴らしかったかと語り合っていた。
時折どっと笑い声が起こるのは、皆が共通の話題で盛り上がっている証拠で、私達はとても仲が良いと実感できたわ。
ここは私が存在していても良い場所だ。いいえ、ここが私のいるべき場所なんだ。そう、信じられた。
けれどその平和なひとときは、私のお母様達によって破られた。
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