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ジョディ様やアーリン様に、今回のことは水に流すと言ったのに、ジョディ様はエレガントローズ女学院をやめて、ドレスを弁償するのに働きに出ると言うし、アーリン様に至っては修道院でウサギを飼うと言い出した。
「お願い、二人とも早まらないでくださいね。私はそのようなことは少しも望んでいません」
二人に言っても、罪の意識を深く持ち反省し続けており、どうしたら良いのか悩ましい。
なんでも良いから罰を与えてほしい、と言うけれど、たいしたことは思い浮かばない。ただ、あの綺麗なドレスを一度も着ないで捨てるのは心が痛む。ドレスが泣いている、そんな気がした。
「良いことを思いつきましたわ! ジョディ様とアーリン様には、あのドレスの生地を利用して、私に役立ちそうなものを作成してくださるようにお願いします。それが罰です」
ぱぁっと顔を輝かせた二人は、私にそう言われたことを心から喜んでいたけれど、すぐに、何を作ったら良いのか悩んでしまう。
私も一緒に考えて案を出し合うなかで、小さめのバッグを作成することが決まった。ラバジェ伯爵領は昔から鞄師(かばんし)や革細工師(かわざいくし)が多く住む地だった。革や布地を使ってバッグや鞄を制作する職人技を、私は幼い頃から観察してきた。それを思い出し提案してみたのよ。
もちろん、自分で作ったことはないけれど、頑張れば素敵なバッグを作れそうな気がした。でも、自分の考えが甘かったことに気づいた。
エレガントローズ学院の図書室には、バッグの作り方が詳しく書かれた本はどこにもなくて、私が幼い頃に見たような職人技を二人の令嬢にできるわけがなかった。
バッグの型紙の作り方など詳細に書いた「バッグクラフトのマスターガイド」のような専門書はどこに行けば、手に入るのだろう?
・・・・・・そうだ! ・・・・・・ボナデア伯母様よ。ボナデア伯母様なら、なんでも手に入る。実のお母様には甘えられなかった私だけれど、今はなんのためらいもなく、ボナデア伯母様にお願いのお手紙をしたためた。
ビニ公爵家に届けてもらうようにメイドに頼もうとした瞬間、シェフ長のニッキーさんが突然現れた。彼は自分にその任務を託してほしい、と言ってきた。
ニッキーさんについていくと、ウィレミナ学院長室の隣の部屋に辿り着いた。部屋の扉を開けると、たくさんの書物が積み上げられていた。その中には「古代の魔法書」と書かれた分厚い本もあり、窓から差し込む日差しは書物のページを照らし、部屋全体が神秘的な雰囲気に包まれていた。
「え? ニッキーさんはシェフですよね?」
「はい、ビニ公爵家の副シェフです。ですが、私は錬金術師でもあるのですよ。むしろ料理の方が趣味です」
思いがけない正体にびっくりしてしまう。彼は呪文を唱えながら魔法陣を描いていく。その瞬間、書斎の中に魔法の輝きが広がり、小さな鳩が部屋の中央に浮かび上がった。その鳩は純白の美しい羽根を持ち、煌めく目を持っていた。
伝書鳩は私の手紙をくわえ、一瞬で部屋を飛び出し窓から外に向かった。それから半時(30分)も立たないうちに、ボナデア伯母様からの手紙を咥えて戻って来た。
そこにはバッグの作り方の詳しい説明書よりも、専門の鞄師を学院に派遣すると書かれていた。それから今回の私の判断をとても褒めてくださったし、ドレスの半分は寄付しても構わないと書いてあった。
☆彡 ★彡
翌日、鞄師がやって来て、ジョディ様とアーリン様をかなり厳しく指導した。まずは破れたドレスを分解し、使える生地を切り取るところから始まった。新しいバッグの素材として使用される生地は丁寧に扱われた。
バッグのデザインとパターンを考えるのに、かなり二人で相談していたし、たまに私の意見も聞きに来たわ。エレガントでスタイリッシュなデザインを作成し、ドレスの生地を組み合わせて美しいバッグを作ろうとしていたのよ。
バッグのパーツを縫い合わせ、必要に応じてポケットやファスナーなどの機能を追加する技を学び、ドレスから取り外した装飾品やレースを再利用して、バッグに独自の装飾を施していく。そのような作業はかなり手間がかかり大変だったけれど、二人は弱音を吐くことはなかった。
さらに、バッグに耐久性を高めるために裏地をつけた。持ち手も取り付けると、かなり洗練されたバッグができあがった。この作業は少しずつ行われて、できあがるのに10日ほどかかった。
☆彡 ★彡
その後、二人の両親が私に会いにいらっしゃって、丁重に謝罪された。
「ソフィ様は表沙汰になさらないとおっしゃいましたが、やはり、ご両親にはお伝えしないわけにはまいりません」 ウィレミナ学院長がそうおっしゃった。
ウィレミナ学院長の言い分もわかるけれど、これでは約束が違うと思う。私の判断に委ねるとおっしゃったのに、あの二人はどうなってしまうの?
私が心配した通りに、二人の両親はジョディ様とアーリン様を領地に連れ帰ろうとした。
「ボナデア・ビニ公爵夫人の姪御様にそのような失礼なことをした娘を、このままエレガントローズ学院には置いておけません」
そのような言葉を聞いて、私は思わず強い口調で責めてしまった。
「私がそのようなことを望んでいないと申し上げているのです。被害者の私が許したのですよ?」
ウィレミナ学院長と二人の両親の顔色が一気に青ざめていった。
私がボナデア伯母様にそっくりだと震え上がっていたのよ。口調や顔の表情がとても似ているらしい。
「仰せのままに。大変、申し訳ありませんでした」
彼らは口々にボナデア伯母様の名前を口にし、カーテシーをしだしたのよ。
ボナデア伯母様。相当、社交界で恐れられているのかしら? 私にはとても優しいのに・・・・・・
※ちょこっとココ視点
華奢で可愛らしい容姿を持っている私、他の人達から注目されることは日常茶飯事だったわ。可愛いと言われることは嬉しいし、自信にも繋がったのよ。でも、時折、もっと注目されたいという気持ちが芽生えるの。それが、病弱なふりをしようと思ったきっかけよ。
最初は何も考えずに始めたわ。ちょっとした体調の不調や頭痛を演じ、周りの人々に心配してもらおうとしたのよ。彼らが私を気にかけてくれる姿を見ると、私が特別な存在であるように感じられた。その瞬間、私はますます病弱なふりをすることに魅力を感じたの。
演技は次第に私の生活に浸透していったわ。咳やくしゃみ、弱々しい笑顔を駆使して、病気のような印象を持たせることに精を出した。すると、友達や家族が私のことを気にかけ、特別な扱いをしてくれるようになったわ。その気遣いが私にとって心地よく、ますます注目を浴びたいという気持ちを強めたのよ。
だから、湖に落ちた今も、倒れ込むふりをして咳き込んだ。途端にクランシー様が心配しだし、湖の畔で笑っていた人達も静かになったわ。
私は可愛くて美しくて華奢で、とっても病弱な女の子よ。だから、皆が私に気を遣うべきなのよ。そうでしょう?
でも、貧血を装った私が身体をふらつかせていたところに、突然湖の中からでっかい影が浮上してきた。ウィンドルフィッシュかと思い私は全力で走って逃げた。
だって、まだ死にたくないし、贅沢したり、美味しいものを食べたり、楽しいことをいっぱいしたいんだもん!
ウィンドルフィッシュは湖に住む危険な魚の一種で、巨大な体と鋭い歯で知られていた。それは時折人々に襲いかかり、船を転覆させることさえあるのよ。
けれど、それはただの大きなカメだった。結局、危険な魚じゃなかったってことが分かり、私が元気に走れることもバレてしまった。
クランシー様の視線が冷たい。困ったわ。どうやって誤魔化そう。そうか、このまま、気絶したふりが良いかもしれない。後ろに勢いよく倒れてみよう!
ところが、後ろには大きな石があり、思いっきり後頭部を打ち付けて大きなコブができたのだった。
「お願い、二人とも早まらないでくださいね。私はそのようなことは少しも望んでいません」
二人に言っても、罪の意識を深く持ち反省し続けており、どうしたら良いのか悩ましい。
なんでも良いから罰を与えてほしい、と言うけれど、たいしたことは思い浮かばない。ただ、あの綺麗なドレスを一度も着ないで捨てるのは心が痛む。ドレスが泣いている、そんな気がした。
「良いことを思いつきましたわ! ジョディ様とアーリン様には、あのドレスの生地を利用して、私に役立ちそうなものを作成してくださるようにお願いします。それが罰です」
ぱぁっと顔を輝かせた二人は、私にそう言われたことを心から喜んでいたけれど、すぐに、何を作ったら良いのか悩んでしまう。
私も一緒に考えて案を出し合うなかで、小さめのバッグを作成することが決まった。ラバジェ伯爵領は昔から鞄師(かばんし)や革細工師(かわざいくし)が多く住む地だった。革や布地を使ってバッグや鞄を制作する職人技を、私は幼い頃から観察してきた。それを思い出し提案してみたのよ。
もちろん、自分で作ったことはないけれど、頑張れば素敵なバッグを作れそうな気がした。でも、自分の考えが甘かったことに気づいた。
エレガントローズ学院の図書室には、バッグの作り方が詳しく書かれた本はどこにもなくて、私が幼い頃に見たような職人技を二人の令嬢にできるわけがなかった。
バッグの型紙の作り方など詳細に書いた「バッグクラフトのマスターガイド」のような専門書はどこに行けば、手に入るのだろう?
・・・・・・そうだ! ・・・・・・ボナデア伯母様よ。ボナデア伯母様なら、なんでも手に入る。実のお母様には甘えられなかった私だけれど、今はなんのためらいもなく、ボナデア伯母様にお願いのお手紙をしたためた。
ビニ公爵家に届けてもらうようにメイドに頼もうとした瞬間、シェフ長のニッキーさんが突然現れた。彼は自分にその任務を託してほしい、と言ってきた。
ニッキーさんについていくと、ウィレミナ学院長室の隣の部屋に辿り着いた。部屋の扉を開けると、たくさんの書物が積み上げられていた。その中には「古代の魔法書」と書かれた分厚い本もあり、窓から差し込む日差しは書物のページを照らし、部屋全体が神秘的な雰囲気に包まれていた。
「え? ニッキーさんはシェフですよね?」
「はい、ビニ公爵家の副シェフです。ですが、私は錬金術師でもあるのですよ。むしろ料理の方が趣味です」
思いがけない正体にびっくりしてしまう。彼は呪文を唱えながら魔法陣を描いていく。その瞬間、書斎の中に魔法の輝きが広がり、小さな鳩が部屋の中央に浮かび上がった。その鳩は純白の美しい羽根を持ち、煌めく目を持っていた。
伝書鳩は私の手紙をくわえ、一瞬で部屋を飛び出し窓から外に向かった。それから半時(30分)も立たないうちに、ボナデア伯母様からの手紙を咥えて戻って来た。
そこにはバッグの作り方の詳しい説明書よりも、専門の鞄師を学院に派遣すると書かれていた。それから今回の私の判断をとても褒めてくださったし、ドレスの半分は寄付しても構わないと書いてあった。
☆彡 ★彡
翌日、鞄師がやって来て、ジョディ様とアーリン様をかなり厳しく指導した。まずは破れたドレスを分解し、使える生地を切り取るところから始まった。新しいバッグの素材として使用される生地は丁寧に扱われた。
バッグのデザインとパターンを考えるのに、かなり二人で相談していたし、たまに私の意見も聞きに来たわ。エレガントでスタイリッシュなデザインを作成し、ドレスの生地を組み合わせて美しいバッグを作ろうとしていたのよ。
バッグのパーツを縫い合わせ、必要に応じてポケットやファスナーなどの機能を追加する技を学び、ドレスから取り外した装飾品やレースを再利用して、バッグに独自の装飾を施していく。そのような作業はかなり手間がかかり大変だったけれど、二人は弱音を吐くことはなかった。
さらに、バッグに耐久性を高めるために裏地をつけた。持ち手も取り付けると、かなり洗練されたバッグができあがった。この作業は少しずつ行われて、できあがるのに10日ほどかかった。
☆彡 ★彡
その後、二人の両親が私に会いにいらっしゃって、丁重に謝罪された。
「ソフィ様は表沙汰になさらないとおっしゃいましたが、やはり、ご両親にはお伝えしないわけにはまいりません」 ウィレミナ学院長がそうおっしゃった。
ウィレミナ学院長の言い分もわかるけれど、これでは約束が違うと思う。私の判断に委ねるとおっしゃったのに、あの二人はどうなってしまうの?
私が心配した通りに、二人の両親はジョディ様とアーリン様を領地に連れ帰ろうとした。
「ボナデア・ビニ公爵夫人の姪御様にそのような失礼なことをした娘を、このままエレガントローズ学院には置いておけません」
そのような言葉を聞いて、私は思わず強い口調で責めてしまった。
「私がそのようなことを望んでいないと申し上げているのです。被害者の私が許したのですよ?」
ウィレミナ学院長と二人の両親の顔色が一気に青ざめていった。
私がボナデア伯母様にそっくりだと震え上がっていたのよ。口調や顔の表情がとても似ているらしい。
「仰せのままに。大変、申し訳ありませんでした」
彼らは口々にボナデア伯母様の名前を口にし、カーテシーをしだしたのよ。
ボナデア伯母様。相当、社交界で恐れられているのかしら? 私にはとても優しいのに・・・・・・
※ちょこっとココ視点
華奢で可愛らしい容姿を持っている私、他の人達から注目されることは日常茶飯事だったわ。可愛いと言われることは嬉しいし、自信にも繋がったのよ。でも、時折、もっと注目されたいという気持ちが芽生えるの。それが、病弱なふりをしようと思ったきっかけよ。
最初は何も考えずに始めたわ。ちょっとした体調の不調や頭痛を演じ、周りの人々に心配してもらおうとしたのよ。彼らが私を気にかけてくれる姿を見ると、私が特別な存在であるように感じられた。その瞬間、私はますます病弱なふりをすることに魅力を感じたの。
演技は次第に私の生活に浸透していったわ。咳やくしゃみ、弱々しい笑顔を駆使して、病気のような印象を持たせることに精を出した。すると、友達や家族が私のことを気にかけ、特別な扱いをしてくれるようになったわ。その気遣いが私にとって心地よく、ますます注目を浴びたいという気持ちを強めたのよ。
だから、湖に落ちた今も、倒れ込むふりをして咳き込んだ。途端にクランシー様が心配しだし、湖の畔で笑っていた人達も静かになったわ。
私は可愛くて美しくて華奢で、とっても病弱な女の子よ。だから、皆が私に気を遣うべきなのよ。そうでしょう?
でも、貧血を装った私が身体をふらつかせていたところに、突然湖の中からでっかい影が浮上してきた。ウィンドルフィッシュかと思い私は全力で走って逃げた。
だって、まだ死にたくないし、贅沢したり、美味しいものを食べたり、楽しいことをいっぱいしたいんだもん!
ウィンドルフィッシュは湖に住む危険な魚の一種で、巨大な体と鋭い歯で知られていた。それは時折人々に襲いかかり、船を転覆させることさえあるのよ。
けれど、それはただの大きなカメだった。結局、危険な魚じゃなかったってことが分かり、私が元気に走れることもバレてしまった。
クランシー様の視線が冷たい。困ったわ。どうやって誤魔化そう。そうか、このまま、気絶したふりが良いかもしれない。後ろに勢いよく倒れてみよう!
ところが、後ろには大きな石があり、思いっきり後頭部を打ち付けて大きなコブができたのだった。
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