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21 殺し合う?夫婦ー テレーザ視点
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私達の愛はすっかり冷めていた。いいえ、もとから私達に愛があったのかさえ疑問だ。彼は私の顔を見る度に騙されたと罵る。
「なぜあんなにも好きだと思ったのかな? おかしいんだ。今はこうしてテレーザを目の前にしても、なぜか少しも胸がときめかない」
それはこっちのセリフよ。ワトキンは好きだけれど、彼は夫向きではない。一緒に暮らしてみるとそれがよくわかった。少しのことでいらいらするし思いやりはないし、家事を手伝おうともしない。男爵夫人でなくなった私にはもうメイドもナニーも雇えないから、協力して家事や子育てを手伝って欲しいのに、彼は信じられないことを言った。
「家事も子育ても女の仕事だろう? 僕にはノースカット画廊の仕事があるんだ。だいたいが、誰のせいでこうなったと思っているんだよ? 本来ならあの売れっ子マリアン画伯は僕の妻だったんだぞ」
私だってノースカット画廊の仕事を手伝っているから、私の負担が倍になっていることに夫は気づかない。いいえ、気づいているのだけれど見ないふりをしているのよ。
あぁ、忌々しいったらないわ!
私達がマリアンお姉様になにをしたか知らないデイジーは、成長するにつれてマリアンお姉様に会いたがった。ますます名声を手にしていくマリアンお姉様に、それに純粋に憧れるデイジー。あの頃はまだ幼くて自分の周りでなにが起きていたのかわかっていなかったデイジーには、私達姉妹が全く会わないのが不思議だったのだろう。
ある日、デイジーは私にとてもイライラする質問をぶつけた。
「マリアン画伯って私の伯母様なのでしょう? なぜ会いに来てくれないの? お母様のお姉様なら、なぜデイジーのお誕生日に来てくれないの?」
「さぁね。意地悪だからじゃない?」
私は投げやりに答えた。ワトキンはなにかと言えば、マリアンお姉様をもっと大事にしていたら、もの凄い大金持ちになったのに、と言う。どの口がそんなことを言えるのよ?
「あのままマリアンと一緒にいたら今頃はきっとお城のような屋敷に住めたのに」
その言葉を信じて育ったデイジーは、「お母様のせいでお金持ちのマリアン伯母様に可愛がってもらえないんだ。お母様のバカ!」と言った。夫も同じように私を責める。デイジーに本当のことは言えない。子供に酷い女だって思われたくなかったから、詳細を説明することもできない。それをいいことに、ワトキンは私だけが悪いみたいな言い方をする。
ノースカット画廊はマリアンお姉様の絵画を扱えないだけではなく、彼女と親しい画家からも相手にされなくなっている。お蔭で一流の画家達の作品はひとつも扱えなくなった。
マリアンお姉様は今や、マコーレ子爵夫人で、あの美貌のマコーレ子爵との間に男の子も誕生していた。王都のタウンハウスは子爵家と思えないほど豪華で壮麗だった。レオナルド画伯がマコーレ子爵だと知ったのはあの二人が結婚する時に新聞に載っていたわ。
私とお姉様の立場はすっかり逆転していた。マリアンお姉様にもっと優しくしておけば良かった。少なくとも騙したりしてなければ、会いに行ってお金を貸してもらえたのに。私達夫婦の仲はどんどんと冷めていく。
ある日、私はワトキンにこんな提案をした。
「世の中なにがあるかわからないからあなたに保険をかけて良いかしら? デイジーの学費の心配もあるし、あなたにもしものことがあっても、私とデイジーの生活が破綻しないように。月々の掛け金は少し高いけれど、これは安心を買うものなのよ」
私はワトキンの命がなくなったら莫大な保険金が手に入る証書を見せて猫撫で声で言った。彼は心底嬉しそうな顔をして同じような証書をだしてきたわ。
「僕もこれにサインしてほしいんだよ。テレーザが亡くなったら二億ダラ入ってくる『命の保証書』だよ。君がいなくなっても僕とデイジーで幸せに暮らせるようにここにサインをしてくれよ」
私達はお互いの証書にサインをしてにっこりと笑いあった。けれど目の奥はどちらも笑ってなどいないわ。
これから私達の間では闘いが始まるのだから!
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
※テレーザ夫婦のざまぁ、はここまでです。きっとこれからいろいろあるんだろうな、という余韻を残しました。
※次回で完結です。次回はマリアンの幸せです。
「なぜあんなにも好きだと思ったのかな? おかしいんだ。今はこうしてテレーザを目の前にしても、なぜか少しも胸がときめかない」
それはこっちのセリフよ。ワトキンは好きだけれど、彼は夫向きではない。一緒に暮らしてみるとそれがよくわかった。少しのことでいらいらするし思いやりはないし、家事を手伝おうともしない。男爵夫人でなくなった私にはもうメイドもナニーも雇えないから、協力して家事や子育てを手伝って欲しいのに、彼は信じられないことを言った。
「家事も子育ても女の仕事だろう? 僕にはノースカット画廊の仕事があるんだ。だいたいが、誰のせいでこうなったと思っているんだよ? 本来ならあの売れっ子マリアン画伯は僕の妻だったんだぞ」
私だってノースカット画廊の仕事を手伝っているから、私の負担が倍になっていることに夫は気づかない。いいえ、気づいているのだけれど見ないふりをしているのよ。
あぁ、忌々しいったらないわ!
私達がマリアンお姉様になにをしたか知らないデイジーは、成長するにつれてマリアンお姉様に会いたがった。ますます名声を手にしていくマリアンお姉様に、それに純粋に憧れるデイジー。あの頃はまだ幼くて自分の周りでなにが起きていたのかわかっていなかったデイジーには、私達姉妹が全く会わないのが不思議だったのだろう。
ある日、デイジーは私にとてもイライラする質問をぶつけた。
「マリアン画伯って私の伯母様なのでしょう? なぜ会いに来てくれないの? お母様のお姉様なら、なぜデイジーのお誕生日に来てくれないの?」
「さぁね。意地悪だからじゃない?」
私は投げやりに答えた。ワトキンはなにかと言えば、マリアンお姉様をもっと大事にしていたら、もの凄い大金持ちになったのに、と言う。どの口がそんなことを言えるのよ?
「あのままマリアンと一緒にいたら今頃はきっとお城のような屋敷に住めたのに」
その言葉を信じて育ったデイジーは、「お母様のせいでお金持ちのマリアン伯母様に可愛がってもらえないんだ。お母様のバカ!」と言った。夫も同じように私を責める。デイジーに本当のことは言えない。子供に酷い女だって思われたくなかったから、詳細を説明することもできない。それをいいことに、ワトキンは私だけが悪いみたいな言い方をする。
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マリアンお姉様は今や、マコーレ子爵夫人で、あの美貌のマコーレ子爵との間に男の子も誕生していた。王都のタウンハウスは子爵家と思えないほど豪華で壮麗だった。レオナルド画伯がマコーレ子爵だと知ったのはあの二人が結婚する時に新聞に載っていたわ。
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ある日、私はワトキンにこんな提案をした。
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私はワトキンの命がなくなったら莫大な保険金が手に入る証書を見せて猫撫で声で言った。彼は心底嬉しそうな顔をして同じような証書をだしてきたわ。
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私達はお互いの証書にサインをしてにっこりと笑いあった。けれど目の奥はどちらも笑ってなどいないわ。
これから私達の間では闘いが始まるのだから!
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※テレーザ夫婦のざまぁ、はここまでです。きっとこれからいろいろあるんだろうな、という余韻を残しました。
※次回で完結です。次回はマリアンの幸せです。
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