(完)あなたの瞳に私は映っていなかったー妹に騙されていた私

青空一夏

文字の大きさ
上 下
23 / 24

21 殺し合う?夫婦ー テレーザ視点

しおりを挟む
 私達の愛はすっかり冷めていた。いいえ、もとから私達に愛があったのかさえ疑問だ。彼は私の顔を見る度に騙されたと罵る。

「なぜあんなにも好きだと思ったのかな? おかしいんだ。今はこうしてテレーザを目の前にしても、なぜか少しも胸がときめかない」

 それはこっちのセリフよ。ワトキンは好きだけれど、彼は夫向きではない。一緒に暮らしてみるとそれがよくわかった。少しのことでいらいらするし思いやりはないし、家事を手伝おうともしない。男爵夫人でなくなった私にはもうメイドもナニーも雇えないから、協力して家事や子育てを手伝って欲しいのに、彼は信じられないことを言った。

「家事も子育ても女の仕事だろう? 僕にはノースカット画廊の仕事があるんだ。だいたいが、誰のせいでこうなったと思っているんだよ? 本来ならあの売れっ子マリアン画伯は僕の妻だったんだぞ」

 私だってノースカット画廊の仕事を手伝っているから、私の負担が倍になっていることに夫は気づかない。いいえ、気づいているのだけれど見ないふりをしているのよ。

 あぁ、忌々しいったらないわ!

 

 私達がマリアンお姉様になにをしたか知らないデイジーは、成長するにつれてマリアンお姉様に会いたがった。ますます名声を手にしていくマリアンお姉様に、それに純粋に憧れるデイジー。あの頃はまだ幼くて自分の周りでなにが起きていたのかわかっていなかったデイジーには、私達姉妹が全く会わないのが不思議だったのだろう。

 ある日、デイジーは私にとてもイライラする質問をぶつけた。

「マリアン画伯って私の伯母様なのでしょう? なぜ会いに来てくれないの? お母様のお姉様なら、なぜデイジーのお誕生日に来てくれないの?」

「さぁね。意地悪だからじゃない?」

 私は投げやりに答えた。ワトキンはなにかと言えば、マリアンお姉様をもっと大事にしていたら、もの凄い大金持ちになったのに、と言う。どの口がそんなことを言えるのよ?

「あのままマリアンと一緒にいたら今頃はきっとお城のような屋敷に住めたのに」

 その言葉を信じて育ったデイジーは、「お母様のせいでお金持ちのマリアン伯母様に可愛がってもらえないんだ。お母様のバカ!」と言った。夫も同じように私を責める。デイジーに本当のことは言えない。子供に酷い女だって思われたくなかったから、詳細を説明することもできない。それをいいことに、ワトキンは私だけが悪いみたいな言い方をする。

 ノースカット画廊はマリアンお姉様の絵画を扱えないだけではなく、彼女と親しい画家からも相手にされなくなっている。お蔭で一流の画家達の作品はひとつも扱えなくなった。

 マリアンお姉様は今や、マコーレ子爵夫人で、あの美貌のマコーレ子爵との間に男の子も誕生していた。王都のタウンハウスは子爵家と思えないほど豪華で壮麗だった。レオナルド画伯がマコーレ子爵だと知ったのはあの二人が結婚する時に新聞に載っていたわ。

 私とお姉様の立場はすっかり逆転していた。マリアンお姉様にもっと優しくしておけば良かった。少なくとも騙したりしてなければ、会いに行ってお金を貸してもらえたのに。私達夫婦の仲はどんどんと冷めていく。

 ある日、私はワトキンにこんな提案をした。

「世の中なにがあるかわからないからあなたに保険をかけて良いかしら? デイジーの学費の心配もあるし、あなたにもしものことがあっても、私とデイジーの生活が破綻しないように。月々の掛け金は少し高いけれど、これは安心を買うものなのよ」

 私はワトキンの命がなくなったら莫大な保険金が手に入る証書を見せて猫撫で声で言った。彼は心底嬉しそうな顔をして同じような証書をだしてきたわ。

「僕もこれにサインしてほしいんだよ。テレーザが亡くなったら二億ダラ入ってくる『命の保証書』だよ。君がいなくなっても僕とデイジーで幸せに暮らせるようにここにサインをしてくれよ」

 私達はお互いの証書にサインをしてにっこりと笑いあった。けれど目の奥はどちらも笑ってなどいないわ。

 これから私達の間では闘いが始まるのだから!


୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧

※テレーザ夫婦のざまぁ、はここまでです。きっとこれからいろいろあるんだろうな、という余韻を残しました。
※次回で完結です。次回はマリアンの幸せです。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私の婚約者は妹のおさがりです

葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」 サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。 ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。 そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……? 妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。 「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」 リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。 小説家になろう様でも別名義にて連載しています。 ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

妹に全てを奪われた私、実は周りから溺愛されていました

日々埋没。
恋愛
「すまないが僕は真実の愛に目覚めたんだ。ああげに愛しきは君の妹ただ一人だけなのさ」  公爵令嬢の主人公とその婚約者であるこの国の第一王子は、なんでも欲しがる妹によって関係を引き裂かれてしまう。  それだけでは飽き足らず、妹は王家主催の晩餐会で婚約破棄された姉を大勢の前で笑いものにさせようと計画するが、彼女は自分がそれまで周囲の人間から甘やかされていた本当の意味を知らなかった。  そして実はそれまで虐げられていた主人公こそがみんなから溺愛されており、晩餐会の現場で真実を知らされて立場が逆転した主人公は性格も見た目も醜い妹に決別を告げる――。  ※本作は過去に公開したことのある短編に修正を加えたものです。

誰も残らなかった物語

悠十
恋愛
 アリシアはこの国の王太子の婚約者である。  しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。  そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。  アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。 「嗚呼、可哀そうに……」  彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。  その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

私の名前を呼ぶ貴方

豆狸
恋愛
婚約解消を申し出たら、セパラシオン様は最後に私の名前を呼んで別れを告げてくださるでしょうか。

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

愛を語れない関係【完結】

迷い人
恋愛
 婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。  そして、時が戻った。  だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

処理中です...