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13 ワトキン視点

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    翌朝になってもマリアンは帰らない。きっと気晴らしに実家にでも行っているのだろう。だとすれば、そう長くはいられないはずさ。マリアンの実家はテリーザの言いなりだし、僕は信頼されている。

 午後になって、いつものようにテリーザがやってきた。

「今日はあまり長くはいられないわ。夫のエルウッドがいるのよ。なんでこんなに早く戻ってきたのかわからないけど、本当に嫌になっちゃう」

「彼は夫なんだから家にいるのは当たり前だよ。ちゃんとうまくやってくれないと困るよ。僕達が疑われたら、平民の僕は相当重い罪になる」

「あっはは。バレなきゃやっていないのと同じだわ。これは優しい嘘なのよ。だって真実を知らない方が人間は幸せなこともあるでしょう? だからね、私達は悪くないのよ」

 テリーザは賢い、とても良いことを言うよ。この嘘は悪ではなくて、思いやりのある優しい嘘だ。スタインフェルド男爵は綺麗な妻と可愛い娘に恵まれ幸せを存分に味わえる。そうして僕達も法律上の夫婦にはなれなくても、子供を通しての真の夫婦にはなれている。お互いがWin-Winの素晴らしい関係だ。

「あら、マリアンお姉様がいないわね? お買い物かしら?」
「いいや、先日から実は帰ってこないのだよ」
「あぁ、だったらきっと実家だと思うわ。マリアンお姉様に親しい友人はいないし、お金だって自由に使えないのでしょう?」
「あぁ、日々の生活費を手渡しているだけで、お金は全部僕が管理しているよ。テリーザの名案を忠実に守っているんだ。あいつに余分な金を持たせないほうが良いというあの案だよ」
「うふふ、私の言いつけを守っているのはとても偉いわね」

 しなだれかかってくるテリーザの肩を抱いて寝室に・・・・・・。ちょうどマリアンもいないことだし、メイドのアンには扉前で見張らせておく・・・・・・僕達は愛しあって、身も心もひとつになることができた。

 この愛は永遠だ!

「なに泣いているのよ?」
「テリーザの夫と名乗れないからこそ、切ないこの恋は本物だと信じられる。道ならぬ恋は苦しく茨の道だが、テリーザとなら僕はどこまでも突き進むことができるよ。そう思ったら自然と涙がでてきたんだ」
「うっふふ。ありがとう。ずっとずっと、愛しているわ」
「僕もだよ・・・・・・」

 そうして濃厚な愛の時間はあっという間に過ぎて、彼女は慌てて帰っていった。次の日も彼女はやって来て同じような時間を過ごす。僕達はマリアンがいないことで、すっかり開放感にひたっていたんだ。

 その数日後、またあの猫が庭を歩いているのを見た。今度はなにかを口にくわえて、嬉しそうに走り去って行くところだった。不思議なことに、この日も閉めたはずの寝室の窓が開いていた。

 あの子猫がいつもここを通るなら、罠を仕掛けて捕まえてやろう! この間ひっかかれたお返しに、必ず痛い目をみさせてやるんだ!

 僕はちょっとした罠を庭の隅に仕掛けたが、子猫はちらりとも姿を現さなかった。そのまま仕掛けたことも忘れて数日が経ち、草で隠した罠に自分から足をとられる。

「痛い! つぅーー、痛ぁーー」

 親指の爪が剥がれて血がにじみ、猛烈に痛い。
 
 この前からあの猫のせいで散々な目に遭っている。今度会うことがあったら絶対に許さないぞ! 

 
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