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11 家を出る決心をした私
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「不思議だわ。アンさんの顔から魔法のようにどんどん毛が生えてきています」
「不思議なのはマヤさんのほうよ。眉毛もひげも男性みたいだわ。しかも鼻毛が顎まで伸びちゃって凄いです!」
「アンさんこそ、耳毛まで長く伸びています。私よりも凄いです!」
二人でけなし合っているのか、褒め合っているのかよくわからない状況だった。
「待てよ、魔法のようにっていうと・・・・・・まさか、僕が購入したばかりの増毛剤を君達はこっそり使っていたのか? あれはとても貴重な高価なものなのに!」
ワトキンは慌てて洗面所に駆け込み、空っぽになった容器を見つけてがくりと肩を落とした。魔法のように毛が生えるという効能の薬だったそうで、とても高いから一滴ずつ頭のてっぺんに塗り込んでいたらしい。
すごい即効性だわ。これだけ効くとなにか副作用がありそうで怖いわね。
夫とアンにマヤが言い争いをしている間に私はアトリエに逃げ込んだ。
それから三ヶ月後、ファーガソン画廊で展示された私の作品の三点が売れた。どれも100万ダラ以上で売れて私はやっと家を出る決心がついた。
「新進気鋭のマリアンという画家を知っているか? 見たこともない絵を描くんだよ。彼女の絵はあのファーガソン画廊が独占販売するそうだ。あの絵がうちで扱えたら良いのになぁ」
家を出ることを決心した私に、嫌味ったらしくワトキンが話しかけてきた。
「そうですか」
私は無難な相づちを打つだけだ。
「あぁ、君と同じ名前だが雲泥の差だよな? 僕の妻は女子供が使うようなおもちゃのアクセサリーしか作れないのになぁ」
ワトキンは私と同じ名前のその画家を使って私をバカにしたかったようだ。私は笑いがこみ上げるのを必死で抑えていた。もうどんなにけなされても私が傷つくことはない。
❁.。.:*:.。.✽.
翌日、荷物をまとめた私は清々しい思いで「離縁の契約書」を役所に取りに行った。その足で不動産屋に向かう途中で、ばったり合ったのがレオナルド画伯ことエミール様だった。
「やぁ、今日のマリアンさんはとても嬉しそうだね? 良いことがあったのかい?」
「えぇ、やっと子供と二人で生きていく自信がついたのです」
私の家庭の事情を知っているエミール様が少しだけ悲しそうな顔をした。彼とエバリンさんにはかなり詳しく身の上話をしていた。
「同情なんてしなくて良いですよ? 私は今幸せです。離縁は必ずしも可哀想なことではありません」
「同情じゃないよ。ただ、マリアンさんの妹が許せなくてね。そうだ、良い物をあげよう」
渡されたのは小さなペーパーウェイトだった。
「それには録音機能を持った小さな魔導石が内蔵されている。自宅に置いてまたこっそり取りに行けば良い。まだこの国には出回っていない高価な物だから絶対に気づかれない」
「そんな高価な物をいただけませんよ」
「貸してあげるだけだ。だが、紛失したとしても怒らないと約束するよ」
え? それじゃぁ、やはりもらったのと同じ意味になる気がするんですけど・・・・・・
私を気遣いながら去っていくエミール様にお礼を申し上げ、その小さなペーパーウエイトを見つめていると、にゃぁーん、とリンが私のバッグの中で鳴いた。慌てて外に出してあげる。するとリンはそのペーパーウエイトを器用に口にくわえて、ノースカット画廊の方に走っていったのだった。
「不思議なのはマヤさんのほうよ。眉毛もひげも男性みたいだわ。しかも鼻毛が顎まで伸びちゃって凄いです!」
「アンさんこそ、耳毛まで長く伸びています。私よりも凄いです!」
二人でけなし合っているのか、褒め合っているのかよくわからない状況だった。
「待てよ、魔法のようにっていうと・・・・・・まさか、僕が購入したばかりの増毛剤を君達はこっそり使っていたのか? あれはとても貴重な高価なものなのに!」
ワトキンは慌てて洗面所に駆け込み、空っぽになった容器を見つけてがくりと肩を落とした。魔法のように毛が生えるという効能の薬だったそうで、とても高いから一滴ずつ頭のてっぺんに塗り込んでいたらしい。
すごい即効性だわ。これだけ効くとなにか副作用がありそうで怖いわね。
夫とアンにマヤが言い争いをしている間に私はアトリエに逃げ込んだ。
それから三ヶ月後、ファーガソン画廊で展示された私の作品の三点が売れた。どれも100万ダラ以上で売れて私はやっと家を出る決心がついた。
「新進気鋭のマリアンという画家を知っているか? 見たこともない絵を描くんだよ。彼女の絵はあのファーガソン画廊が独占販売するそうだ。あの絵がうちで扱えたら良いのになぁ」
家を出ることを決心した私に、嫌味ったらしくワトキンが話しかけてきた。
「そうですか」
私は無難な相づちを打つだけだ。
「あぁ、君と同じ名前だが雲泥の差だよな? 僕の妻は女子供が使うようなおもちゃのアクセサリーしか作れないのになぁ」
ワトキンは私と同じ名前のその画家を使って私をバカにしたかったようだ。私は笑いがこみ上げるのを必死で抑えていた。もうどんなにけなされても私が傷つくことはない。
❁.。.:*:.。.✽.
翌日、荷物をまとめた私は清々しい思いで「離縁の契約書」を役所に取りに行った。その足で不動産屋に向かう途中で、ばったり合ったのがレオナルド画伯ことエミール様だった。
「やぁ、今日のマリアンさんはとても嬉しそうだね? 良いことがあったのかい?」
「えぇ、やっと子供と二人で生きていく自信がついたのです」
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「同情なんてしなくて良いですよ? 私は今幸せです。離縁は必ずしも可哀想なことではありません」
「同情じゃないよ。ただ、マリアンさんの妹が許せなくてね。そうだ、良い物をあげよう」
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え? それじゃぁ、やはりもらったのと同じ意味になる気がするんですけど・・・・・・
私を気遣いながら去っていくエミール様にお礼を申し上げ、その小さなペーパーウエイトを見つめていると、にゃぁーん、とリンが私のバッグの中で鳴いた。慌てて外に出してあげる。するとリンはそのペーパーウエイトを器用に口にくわえて、ノースカット画廊の方に走っていったのだった。
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