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10 リン(子猫)の悪戯その2

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 「こんにちわ。また絵を持って来ました」

 私がファーガソン画廊に入ると、画廊オーナーがにっこりと微笑みながら迎えてくれた。

「もう描けたのですか? 驚異的な早さですな」
「いいえ、前からすこしづつ描いていたのを仕上げただけなのです」
「まぁ、いらっしゃい。リンも連れて来たのね? どうぞ奥の応接室に」

 エバリンさんに誘われて応接室に向かうと、先日いらっしゃったアンドレアス第三王子殿下と、もう一人とても綺麗な顔立ちの男性がいた。彼も画家で名前を聞けば誰もが知っている方だった。この方はスネイプ侯爵閣下の弟エミール様だということだった。

「あの高名なレオナルド画伯がスネイプ侯爵家の弟エミール様なのよ」

 エバリンさんがナイショよ、と言いながら教えてくれた。

「普段は兄上の執務を手伝っています。スネイプ侯爵家は手がけている事業も多岐にわたるので兄弟で助けあえ、というのがうちの方針なのですよ」

「まぁ、そうなのですね。家族仲がとても良いのは羨ましいです。レオナルド画伯の絵は一枚3,000万ダラ(1ダラ=1円)前後で取引されると聞いたことがあります。それは本当なのですか?」

「本当ですよ。作品の大きさにもよりますがね。もっと高い場合もあるしもっと安い場合もあります。あとは人気のある絵だとオークションにかけられて驚くほど高額になることも多いです」

「すごい。私もせめて一枚20万ダラで売れたら、あの家を出て行けるのに・・・・・・」

 背におぶっていたザカライアをおろして、エバリンさんに子供を連れてきてしまったことを詫びた。

「まぁ、まぁ。なんて可愛い男の子でしょう。うちは子供がいないからいつでも連れてきて構わないわ。大歓迎よ」

 ここに私の居場所ができたことで、心に余裕ができていく。レオナルド画伯ことエミール様は、絵画以外の話題も豊富で私は久しぶりに楽しい時間を過ごすことができた。



❁.。.:*:.。.✽.

 

 ノースカット画廊に戻るとテリーザがスタインフェルド男爵と待っていた。もちろん夫もスタインフェルド男爵家のメイドのアンとナニーのマヤもいた。

「先日タウンハウスに戻らなかったのはマリアンお姉様が熱をだしたからなのに、もう出歩いて大丈夫なのですか? とても心配していたのよ」
 いったいなにを言っているのかよくわからない。

「まったく姉のくせに妹にばかり頼るのはやめてくれ。どこまで迷惑をかける気なんだ? どうせ仮病で妹の気をひいて楽をしたかっただけだよな? 玉の輿にのった妹への嫌がらせだろう?」

 あぁ、なるほど。外泊したことを私のせいにしたのね。

「昨夜は熱なんてだしていませんでしたけれど」

「またマリアンお姉様の嘘が始まった。お姉様の虚言癖にも困ったものですわ」

「奥様のおっしゃるとおりです。いつもマリアン様は奥様に迷惑ばかりかけていますよね? 昨夜だって奥様はマリアン様の看病を一晩中なさっていたので寝不足なのです。おいたわしい」
 
 傍らにいたアンがそう言えば、マヤも大きくうなづいた。次の瞬間、彼女達の頭上から大量の水がぶちまけられたことは想定内だった。けれど今回は少し様子が違った。

「え? アンさんの顔が急に毛深くなっていますよ」
「そういうマヤさんの眉毛も毛虫のようにふっさふっさですよ」
 
 二人はお互いの顔を見合って驚くやら嘆くやらで忙しい。そういえばワトキンが最近髪が薄いといって使っていた増毛剤が洗面所にあった。私が洗面所に向かうと、からっぽになった増毛剤の容器が床に転がっていた。そして、その上にちょこんとぬいぐるみ化したリンが座っていたのだった。

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