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8 引き裂かれたぬいぐるみ

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 私は猫のぬいぐるみを抱えてノースカット画廊に戻った。

「お帰りなさぁい。お買い物はできました? あら、可愛いぬいぐるみですわね? ちょっと見せてくださいな」

 テリーザが私の猫を奪おうとするので、私は急いで自分のアトリエに戻る為の言い訳を考えた。

「頭痛がするのよ。それにこの猫は私が気に入って買ってきたものだからあげられないわ。だって、ザカライアと私が大事に持っていたいものなのよ。ごめんなさい」

 早口にそう言ってアトリエに駆け込むとソファに転がって目を閉じた。

 にゃぁーん!
 
 私と二人だけになると息を吹き返したように動き出し、労るように私の手を舐めた。

「大丈夫よ。ちょっと疲れただけなの。さっきの人は私の妹だけれど、ちょっといろいろあってね。顔を見るのが辛いわ」

 そう呟くと子猫はますます私を慰めるように指を舐めた。それからしばらくすると扉を叩くノックの音がして、テリーザが顔を覗かせた。

「お姉様。先ほどのぬいぐるみをくださらない? とても可愛かったし、デイジーのおもちゃにちょうどいいわ。ください!」

 無理矢理、私のぬいぐるみを引っ張った。夫のワトキンまでやって来て、私に諭すように話しかける。

「こんなぬいぐるみくらいスタインフェルド男爵夫人に譲れよ。いつもそれ以上にマリアンは、スタインフェルド男爵夫人にお世話になっているだろう?」

「私が頼んだわけじゃありません!」
 思わずそう叫ぶと、ワトキンの平手打ちが飛んできた。頬がヒリヒリと痛み口の端が切れて、鉛のような血の味が口内に広がった。

「子供みたいに駄々をこねるな! スタインフェルド男爵夫人が欲しいとおっしゃっているのだから渡すんだ。そんなぬいぐるみなど、どうってことないだろう? この意地っ張りめ!」

 この猫はファーガソン画廊のエバリンさんから頂いた宝物だ。だから絶対に渡したくない。

「嫌です!」
「ちょうだいよ!」

 私は妹と子供のように争って、二人で引っ張り合った結果、ぬいぐるみの足がもげて中の綿が飛び出した。

「あぁ、壊れちゃったわぁーー。もうだめね。せっかく可愛かったからもらってあげようとしたのに。ふん、もういらないわよ、こんなもの」

 テリーザは捨て台詞だけ残して忌々しそうに出て行った。私はぼろぼろになった猫のぬいぐるみを抱いて、思わず涙がこぼれた。

「お前はバカか? たかがぬいぐるみぐらいあげればいいだろう? あれだけスタインフェルド男爵夫人に良くしてもらっていたのに恩知らずめ!」

 バンッと勢いよく屋根裏部屋のドアが閉められ、すぐに私の荷物がすべて屋根裏部屋に運ばれてきた。

「大恩あるスタインフェルド男爵夫人のいうことをきかなかった罰だ。しばらくはここがマリアンの部屋だ」

 私は夫の言葉よりもぬいぐるみの心配をしていた。その夜、私が裁縫箱をだして繕おうとすると・・・・・・

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