（完）あなたの瞳に私は映っていなかったー妹に騙されていた私

2 裏切っていた妹

　いつもは作業に集中して、階下に戻るのは長時間が経過した後だった。けれど今日はいつもよりかなり早く居間に戻ろうとしていた。とても素敵にできたブローチをテリーザにプレゼントしたくて心が浮き立つ。

　せっかくだから驚かせようと、足音を立てずに静かに廊下を歩いた。居間の扉を開けようとした瞬間だった、私を嘲笑うテリーザの声が聞こえた。

「マリアンお姉様にくっだらないアクセサリー作りを勧めて良かったわよね。あんなつまらない物でも買ってくれる人がいるのは滑稽だけど」

「おいおい、友人にあげると喜ばれるのじゃなかったのかい？」

「まさか！　私の友人は皆貴族よ？　最高級の宝石しかつけないわ。あんなおもちゃみたいな髪飾りやブローチなんてありがたがるものですか」

　私は心が凍り付くような感覚に襲われた。けれど、さらにショックな話は続いていく。


「マリアンお姉様があのおもちゃづくりに夢中なお蔭で、私達が親子水入らずで過ごせるのはありがたいわね。見てよ、デイジーの顔立ちはワトキンにそっくりになっていくわ」

「あぁ、これ以上似るとまずいほどそっくりかもしれないね。でも、誰も気がつかないさ」

「ふっふっ。そうよね。ワトキンと同じ髪と瞳の色でも誰も怪しまないわ」

　驚きと悲しみで覆い尽くされた私は、二人の会話に耳をすます。確かに、デイジーのブラウンの髪とブルーの瞳はワトキンとそっくり同じだった。けれどブラウンの髪はテリーザに、ブルーの瞳はスタインフェルド男爵に似たのだとばかり思っていた。ちなみにスタインフェルド男爵はブロンドにブルーの瞳だった。

「ワトキンがマリアンお姉様と結婚してくれて本当に良かったわ。マリアンお姉様はにぶいから、私達はこうして変わらず愛し合えるものね。お前達、これはマリアンお姉様や旦那様には内緒にしておくのよ。私の真実の愛を守る為にお前達を雇ったのだからね？　わかった？」

「はい、奥様」

　テリーザに伴って来たアンとマヤが、笑いながらそう答えたのが聞こえた。