(完)聖女様は頑張らない

青空一夏

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1 無駄働きでしたよね?

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 「アネット様こそが強大なお力をもつご神託どおりの聖女様でございます!」

 聖女鑑定の測定器具の針がギュインと跳ね上がり、ボンッとそれが破裂した。悔しそうに口を噛みしめたのは侯爵令嬢のハニワ・コフン様。

ーーそりゃ、そーよね。あちらは王家の血も引くサラブレッドの美少女、こちらは薄汚れた孤児の平民娘。美少女というには痩せすぎていたし、手入れもしていない髪はパサついていた。

 神官の誰もが一瞬戸惑ったが、測定器具の数値は今更誤魔化せない。微妙な雰囲気のなかで聖女様になってしまい神殿にとじこめられること半年。

 聖女様って聞こえはいいけどタダで病気や怪我を治し、魔獣退治にもその力を貸すハードでブラックな仕事。ただじゃないか・・・・・・癒やしてもらう者は神殿に寄付をするけれど、私の懐には1フラン(1フラン=1円)も入らないだけ。

 ある日、カール王太子殿下が魔獣に襲われ大怪我をして運びこまれた。手足はちぎれ、虫の息の彼を救ったのは私だ。

「まさに奇跡だ。貴女は私の命の恩人! 妻に迎えよう」
 そう言いながら王太子は気絶した。せっかく助かっていきなり気絶した王太子殿下に戸惑いながらも、この迷惑な申し出にため息がでた。


 王太子殿下の婚約者になった私は前にもまして働かされた。

「将来の王太子妃、ゆくゆくは王妃になられるのです! 人民の為に徹夜で治療にあたるように」

 睡眠時間はたった3時間! 食事は質素で服装も質素。

「これは民の気持ちを知る為です」

 いちいち聞かされるもっともらしい理由にただうなづいた。他の貴族の聖女達はもっと好待遇なことも知らずに。

 
 国1番の強大な力を持つ聖女様の私はこのような劣悪な環境におかれてもアグスティン国に心からの忠誠を誓っていた。(ウブだったわよね? 裏切られることも知らずに)


 どんな強敵にも立ち向かい倒した魔獣は数知れず、あらゆる病気も癒やした私。

 けれど、その力はあまりに大きすぎてやがて人々の畏怖は恐怖と嫌悪に変わっていった。

「あそこまで強い聖女なんて今までいたか? おかしいよ。魔竜まで手なづけてしまうなんて、もしかして魔女なんじゃぁ?」

「たしかに、死にかけた王太子まで生き返らせるなんて聖女にできるか? 実は悪魔が聖女の姿を借りて出てきたのでは?」

 今まで散々私に助けてもらったアグスティン国の人々は私を迫害し始めた。

「本当の聖女はこのハニワだ! あいつは悪魔の化身!追放する!」
 命令したのは命を助けたカール王太子殿下。

――こんなことなら救うんじゃなかった! あの恩知らずめ!

 逃亡しながら森の中を彷徨い歩いているうちに、崖から足を滑らせ落ちていくー落ちていく。

ーー死ぬのね。悔しいよ。もしやり直せるなら、もう必死になんか働いてやるもんか!


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