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チェン家でかわいがられる私

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書類一枚で、こんなにも待遇は変わるのだ。私は、この以前とは全く違う扱いに戸惑っていた。宰相が持っていた書類にさっさとチェン大将軍がサインしただけなのに、その途端、宰相が20人の侍女を用意しなければと慌てたからだ。

「いや、宰相殿よ、無用だ。侍女は我が家の信頼できる者をつける。後宮の侍女達など、どうせ誰かの紐付きだろう?好かんな。我が娘となったからには、全力で守る!あぁ、ここにいる貴殿らも、この言葉広めてよいぞ?親馬鹿のチェン大将軍は愛娘になにかあった時には、その報復は100万倍返しだとな!!」

宰相は青ざめて肯き、3人のチェン大将軍の部下の将軍達は苦笑していた。大将軍ってそんなに偉いのかしら?





前より一層きらびやかな輿に乗り帰宅した先は大将軍の屋敷だった。そこは屋敷というよりは要塞で、大きな鉄の門は兵士が4人がかりでないと開かないようだ。輿の扉を少し開けて私は周りの様子を見ていた。


ここは、まさに大将軍の居城なんだ!たくさんの兵士が、そこかしこで警備にあたっているし、若い兵士たちは中央の鍛錬場と思われる場所で剣の練習やらカンフーやら格闘技に熱中している。その中でひときわ体格のいい若者がこちらにやってきた。私はシンイー様に手をとられて輿から降りた。

「父上、お帰りなさいませ!おや?その娘はどなたですか?」

「あぁ、お前達の妹になる」

「!!!!」

チェン様の二人の息子が驚いていると、年配の美しい女性が私を鋭く睨み付けながらやって来る。すごく気位が高そうで苦手なタイプだ。誰かに似ている気がした。皇妃様の牡丹様に似ているんだわ!

「誰です?その娘は?」

「おぉ、スイレン、私達の養女になったスズランだ。半年後に皇帝の側室にあがる」

スイレンと呼ばれた女性は奥方様で、私とシンイー様とチャーミンを見て肯いた。





スイレン様は笑わない。にこりともしないの。なにをお考えになっているのか皆目、見当が付かない。そして、スイレン様の踊りと楽器の稽古はことのほかきびしかった。

「手が違う!足も開きすぎ!」

「楽器は優しくいたわるように弾くのよ!!心!心で弾くの!」

「はい、わかりました!」

私は、心で弾くと言う言葉で、毒殺された息子を想った。あの子は苦しかったろうな‥‥まだまだこれからいろいろな幸せがあったろうに‥‥そう思うと自然と手に不思議な力がこもった。

いろいろなことを思い出しながら弾いた。楽しげな曲調の時には、皇帝様と息子で庭園を散歩したうららかな春の日を、思い出す。悲しい曲調の時には息子が毒殺されて死にゆく光景を。

おどろおどろしい曲にはその時の恨みを、あの釜ゆでの刑になった時の痛みを思い出しながら。気がつくと、スイレン様が涙を流していらっしゃった。

「大変、よく弾けておりました。私も娘が亡くなった時のことを思い出しました」

静かにおっしゃるその震えている身体を、私は思いっきり抱きしめた。スイレン様は驚いた様子でいらっしゃったがそのまま私達は泣きあったのだった。







シンイー様には、字と行儀作法などを教えていただいた。後宮独特のマナーや作法と、諸外国の歴史、文化もだ。字の読み書きができるようになると、楽しみがぐんと広がった。その頃にはスイレン様をお母様とチェン大将軍をお父様と呼ぶようになっていた。二人の若者もお兄様と呼んだ。

「お兄様、この前に貸していただいた冒険者の本がとてもおもしろかったです。あと、お母様にいただいた詩吟の本もとても素敵でしたわ。ところで、お父様、最近、流行っている恋愛小説を買ってくださってありがとうございます」

「うむ。あの本は貴族の娘たちにはことのほか人気だそうだ。宮廷が舞台で東洋の天皇様を巡る女性たちの絵物語だ。あれを読まねば女同士の話題についていけなくなるからな。全巻、揃えてあげたからゆっくり読むといい」

紙はすごく貴重なものだった。きちんと製本された本が持てるのは一部のとても裕福な大貴族だけだ。大抵は、藁半紙のような紙に本の内容を写し、その紙切れを回し読みする者が多い。
お父様はべたべたに私を甘やかす。お兄様たちもだ。お母様だけが、冷静で少し距離のあるかんじだが嫌われてはいないと思う。口調はいつも冷たいし、にこりともしないのは相変わらず。だが、お風呂上がりに、私の大好きな桃を自らむいて用意してくださっているのを私はこのあいだ、見てしまったから。






字が書けるようになると同時に皇帝様にもお手紙をお出しする。お手紙のやりとりをしばらくすると、皇帝様はチェン大将軍家に通うと言い出した。まだ私が宮廷にあがるのは三ヶ月先だ。早く顔が見たいとの仰せだった。明日は皇帝に過去に戻ってから初めてお会いする日となる。まるで前回の人生とは違う出会い方だ。

緊張する‥‥
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