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ただ逃げたい私の愚かな選択
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私は、今とても美しい薄いすべらかな布を幾重にもまとわされている。その布は濃い蒼から次第に淡い水色になっていた。腰のあたりで紐を結ぶようになっていて、重ねた部分の裾が歩くと濃淡の彩りを綺麗にちらつかせる。黒いまっすぐな髪は複雑に高い位置に結われて髪飾りがつけられた。綺麗にお化粧も施されると、輿が私を迎えに来た。
「スズラン様。これから宮廷に向かいますので、どうぞこの輿にお乗りになってくださいませ」
「輿に?私が?自分で歩けますから大丈夫です。え?ちょっと、待って?」
歩こうとすると、お役人たちも着るのを手伝ってくれた女性たちもあわてて止めてきた。無理矢理、輿に押し込まれると快適なぶん居心地が悪く感じられた。輿に乗れるのは身分の高い人だけだ。私のような平民は一生乗ることもなく生涯を終える。だから、ふかふかのクッションが置かれた贅を尽くした輿はどうにも落ち着かない気分にさせられた。
☆
輿が止まり、私は丁重に手をとられ、外に出た。そこは、見たこともない荘厳な巨大な建物だった。
「まずは、宰相様がお待ちのお部屋へご案内いたします」
新たにやって来たお役人は私の姿を見て驚愕していた。
「こ、これは、まさに皇后様に生き写し‥‥」
私が宮廷を歩いていくなか、何人ものお役人が私に驚愕の眼差しを向けていた。私がなにかしたかしら?恐ろしくてたまらない。
☆
宰相様がいる部屋は重厚な家具で満たされていて、とても広かった。大きなデスクの前には口ひげを生やした小男と応接用の椅子には3人の屈強な大男が座っていた。小柄な男が驚きの声をあげて私に近づいた。
「なんと!素晴らしい!まさに皇后様が生き返ったかのようだ!これなら、皇帝もきっと‥」
「ほぉー。これほどまでに似ている人間がこの世にいるとはなぁー」
口々に嬉しそうに言うのだが、私は逃げ出すにはどうすればいいかしか考えていなかった。
「私はこの国の宰相でハオユーと言います。スズラン様は皇后様にそっくりですから、皇帝を慰めていただきたい。皇帝は皇后様を溺愛されていたので、今ではすっかり元気をなくしてしまった」
「私は、この国の大将軍のチェンという。私は先だって、愛娘を亡くして‥‥ぜひ私の養女に」
「私はヤンだ。私はこの国の将軍で西方を主に守っている‥‥」
いろいろな情報が処理しきれずに気絶した私は、優美な家具が整った天蓋付きのふかふかのベッドに寝ていた。気がつくと女性が数人側にいて慌てふためき、宰相を呼びに行く。
☆
「‥‥ということですので、スズラン様には有力な貴族の養女になっていただかないと後宮入りできないのです。後宮では身分によって部屋も違いますし、そもそも貴族の娘でないとその他の愛妾ということになり、個別のお部屋すら与えられません」
「私は木こりの娘です。個別のお部屋など私にはもったいないと思います。どうせ、私はその皇后様の代わりにお慰めして、皇帝様がお元気になられたら、帰してもらえるのでしょう?」
私は、ただひたすらここから逃げたかったのだ。ここで、どうやって生きるかというよりも、ただ、逃げたかった。
高位貴族の養女になったら、ここからは一生逃げられないに違いない。私が素直に首を縦に振らないので宰相は呆れかえった。
「そうですか。それでも木こりの娘では体裁が悪すぎますので下級の役人の娘にでもしておきましょう。子だくさんの下級役人が一人思いつきました。その者なら明日にでも書類にサインができましょう。本当にそれでよろしいのですね?」
「もちろんです」
個別の部屋が与えられないのは、かえって好都合かもしれない。数に紛れて隙を見て逃げ出せるかもしれない。私はそんなことを考えついて、笑みさえ浮かべながら頷いたのだった。
それから、宰相のことも大将軍と二人の将軍のこともすっかり忘れていたし、これ以降関わることはなかった。最期の瞬間のときまでは‥‥
「スズラン様。これから宮廷に向かいますので、どうぞこの輿にお乗りになってくださいませ」
「輿に?私が?自分で歩けますから大丈夫です。え?ちょっと、待って?」
歩こうとすると、お役人たちも着るのを手伝ってくれた女性たちもあわてて止めてきた。無理矢理、輿に押し込まれると快適なぶん居心地が悪く感じられた。輿に乗れるのは身分の高い人だけだ。私のような平民は一生乗ることもなく生涯を終える。だから、ふかふかのクッションが置かれた贅を尽くした輿はどうにも落ち着かない気分にさせられた。
☆
輿が止まり、私は丁重に手をとられ、外に出た。そこは、見たこともない荘厳な巨大な建物だった。
「まずは、宰相様がお待ちのお部屋へご案内いたします」
新たにやって来たお役人は私の姿を見て驚愕していた。
「こ、これは、まさに皇后様に生き写し‥‥」
私が宮廷を歩いていくなか、何人ものお役人が私に驚愕の眼差しを向けていた。私がなにかしたかしら?恐ろしくてたまらない。
☆
宰相様がいる部屋は重厚な家具で満たされていて、とても広かった。大きなデスクの前には口ひげを生やした小男と応接用の椅子には3人の屈強な大男が座っていた。小柄な男が驚きの声をあげて私に近づいた。
「なんと!素晴らしい!まさに皇后様が生き返ったかのようだ!これなら、皇帝もきっと‥」
「ほぉー。これほどまでに似ている人間がこの世にいるとはなぁー」
口々に嬉しそうに言うのだが、私は逃げ出すにはどうすればいいかしか考えていなかった。
「私はこの国の宰相でハオユーと言います。スズラン様は皇后様にそっくりですから、皇帝を慰めていただきたい。皇帝は皇后様を溺愛されていたので、今ではすっかり元気をなくしてしまった」
「私は、この国の大将軍のチェンという。私は先だって、愛娘を亡くして‥‥ぜひ私の養女に」
「私はヤンだ。私はこの国の将軍で西方を主に守っている‥‥」
いろいろな情報が処理しきれずに気絶した私は、優美な家具が整った天蓋付きのふかふかのベッドに寝ていた。気がつくと女性が数人側にいて慌てふためき、宰相を呼びに行く。
☆
「‥‥ということですので、スズラン様には有力な貴族の養女になっていただかないと後宮入りできないのです。後宮では身分によって部屋も違いますし、そもそも貴族の娘でないとその他の愛妾ということになり、個別のお部屋すら与えられません」
「私は木こりの娘です。個別のお部屋など私にはもったいないと思います。どうせ、私はその皇后様の代わりにお慰めして、皇帝様がお元気になられたら、帰してもらえるのでしょう?」
私は、ただひたすらここから逃げたかったのだ。ここで、どうやって生きるかというよりも、ただ、逃げたかった。
高位貴族の養女になったら、ここからは一生逃げられないに違いない。私が素直に首を縦に振らないので宰相は呆れかえった。
「そうですか。それでも木こりの娘では体裁が悪すぎますので下級の役人の娘にでもしておきましょう。子だくさんの下級役人が一人思いつきました。その者なら明日にでも書類にサインができましょう。本当にそれでよろしいのですね?」
「もちろんです」
個別の部屋が与えられないのは、かえって好都合かもしれない。数に紛れて隙を見て逃げ出せるかもしれない。私はそんなことを考えついて、笑みさえ浮かべながら頷いたのだった。
それから、宰相のことも大将軍と二人の将軍のこともすっかり忘れていたし、これ以降関わることはなかった。最期の瞬間のときまでは‥‥
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