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19 呼び戻されたアナスターシア
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病弱なカラハン第一王子の稽古は、初めは軽く走ることからだった。身体を動かすことに慣れたところで、剣や弓などを使用し、徐々に合気道などの練習も増やしていく。
もちろん、食事の大切さも重要だ。アナスターシアはカラハン第一王子のために、みずから厨房に立ち、さまざまな薬草を混ぜて滋養強壮のスープを作った。
「神様、お願い。カラハン様を元気にしてください。病気も怪我もさせないで。彼が死んだら私も死んじゃう。目標、長生き! ふたりで長生き! あっ、伯父様も、もちろん長生きさせてください。三人で長生き、長生き!」
アナスターシアがスープをかき混ぜながらぶつぶつとつぶやく。スープの仕上げには必ず、聖獣アスクレオスが守っている薬草をたっぷりと追加して味を調えた。その効果はてきめんで、カラハン第一王子はみるみるうちに元気になった。
カラハン第一王子は驚くほど短期間で逞しさを増し、アナスターシアのために一層身体を鍛え続けた。その結果、適度に筋肉のついた均整の取れた体格へと成長していった。
(カラハン殿下の輝きが倍増している。眩しすぎて目が潰れそうだよーー。愛の力って恐ろしい・・・・・・じゃなくて・・・・・・素晴らしい)
美しさと麗しさに、凜々しさと強靱な肉体美まで手に入れたカラハン第一王子に、ジュードは見とれて心のなかでつぶやいた。
数ヶ月後、カラハン第一王子は名残惜しそうに王都へ戻っていった。しかし、忙しい時間を調整してでも、彼は何度もマッキンタイヤー公爵邸を訪れ、アナスターシアに会いにきた。カラハン第一王子にとって、アナスターシアに会うためなら、王都でどれほど激務に追われようとも全く苦にならなかったのだ。
☆彡 ★彡
アナスターシアが15歳になった頃、マッキンタイヤー公爵家に、カッシング侯爵が病にかかったとの知らせが届いた。カッシング侯爵からのアナスターシアに会いたい、という内容の手紙を無視するわけにもいかなかった。
「ちょっと様子を見て来ますわ。でも、カッシング侯爵家にいる時でも薬草や医療・化粧品の研究は続けたいのです。どうしたら良いでしょう?」
アナスターシアはマッキンタイヤー公爵に愚痴りながらも、ため息をついた。
「簡単なことだよ。カッシング侯爵家にも温室や研究室を建てれば良い」
「ですが、建物を建てるとなれば時間がかかりますわ」
「実は最近、事前にプレファブ(予め作られた部品)として用意しておき、現地で組み立てる技術を開発させていたのだ。巧妙に作られた木製や石造りのパーツを使用して、あっという間に建物が建てられる。私に任せておきなさい」
「まぁ、嬉しい! さすがは私の伯父様ですわ」
アナスターシアはマッキンタイヤー公爵に勢いよく抱きついた。公爵も、今では姪からの愛情表現にすっかり慣れており、しっかりと抱きしめ返した。その瞬間、公爵はまるで娘を持つ父親の幸福をしみじみと味わうかのように、心の中に温かい満足感が広がっていった。
(可愛いアナスターシアの為なら、なんでもしてやるぞ!)
親バカ度がますます加速するマッキンタイヤー公爵は、いそいそと石匠や職人たちを呼び出したのだった。
☆彡 ★彡
こちらはカッシング侯爵邸である。
カッシング侯爵は自室のソファに寝転び、昼から年代物のワインに酔っていた。病気というのは真っ赤な嘘だったのだ。
アナスターシアを呼び戻した理由はひとつ。あまりにも広まっている自分の悪評を気にしたからだった。マッキンタイヤー公爵領を中心として、アナスターシアの美しさと賢さを褒め称える噂は王都にまで伝わっている。一方、カッシング侯爵は、娘をマッキンタイヤー公爵家に追いやった人でなしとして、さんざんに酷評されていた。
『カッシング侯爵は前妻が亡くなってふた月もしないのに再婚した。きっと、以前から再婚相手と付き合っていたのに違いない。そのうえ、実の娘まで追い出すとは。再婚相手とその連れ子可愛さに、なんという酷い仕打ちをするのか。もしかしたら、その連れ子というのも、本当はカッシング侯爵の子供かもしれない。カッシング侯爵は人でなしだ。冷血漢だ。極悪人だ』
このような噂が広まっていたので、これを払拭するにはアナスターシアを呼び戻す必要があったのだ。カッシング侯爵は、やはりいつでも自分中心なのだった。
もちろん、食事の大切さも重要だ。アナスターシアはカラハン第一王子のために、みずから厨房に立ち、さまざまな薬草を混ぜて滋養強壮のスープを作った。
「神様、お願い。カラハン様を元気にしてください。病気も怪我もさせないで。彼が死んだら私も死んじゃう。目標、長生き! ふたりで長生き! あっ、伯父様も、もちろん長生きさせてください。三人で長生き、長生き!」
アナスターシアがスープをかき混ぜながらぶつぶつとつぶやく。スープの仕上げには必ず、聖獣アスクレオスが守っている薬草をたっぷりと追加して味を調えた。その効果はてきめんで、カラハン第一王子はみるみるうちに元気になった。
カラハン第一王子は驚くほど短期間で逞しさを増し、アナスターシアのために一層身体を鍛え続けた。その結果、適度に筋肉のついた均整の取れた体格へと成長していった。
(カラハン殿下の輝きが倍増している。眩しすぎて目が潰れそうだよーー。愛の力って恐ろしい・・・・・・じゃなくて・・・・・・素晴らしい)
美しさと麗しさに、凜々しさと強靱な肉体美まで手に入れたカラハン第一王子に、ジュードは見とれて心のなかでつぶやいた。
数ヶ月後、カラハン第一王子は名残惜しそうに王都へ戻っていった。しかし、忙しい時間を調整してでも、彼は何度もマッキンタイヤー公爵邸を訪れ、アナスターシアに会いにきた。カラハン第一王子にとって、アナスターシアに会うためなら、王都でどれほど激務に追われようとも全く苦にならなかったのだ。
☆彡 ★彡
アナスターシアが15歳になった頃、マッキンタイヤー公爵家に、カッシング侯爵が病にかかったとの知らせが届いた。カッシング侯爵からのアナスターシアに会いたい、という内容の手紙を無視するわけにもいかなかった。
「ちょっと様子を見て来ますわ。でも、カッシング侯爵家にいる時でも薬草や医療・化粧品の研究は続けたいのです。どうしたら良いでしょう?」
アナスターシアはマッキンタイヤー公爵に愚痴りながらも、ため息をついた。
「簡単なことだよ。カッシング侯爵家にも温室や研究室を建てれば良い」
「ですが、建物を建てるとなれば時間がかかりますわ」
「実は最近、事前にプレファブ(予め作られた部品)として用意しておき、現地で組み立てる技術を開発させていたのだ。巧妙に作られた木製や石造りのパーツを使用して、あっという間に建物が建てられる。私に任せておきなさい」
「まぁ、嬉しい! さすがは私の伯父様ですわ」
アナスターシアはマッキンタイヤー公爵に勢いよく抱きついた。公爵も、今では姪からの愛情表現にすっかり慣れており、しっかりと抱きしめ返した。その瞬間、公爵はまるで娘を持つ父親の幸福をしみじみと味わうかのように、心の中に温かい満足感が広がっていった。
(可愛いアナスターシアの為なら、なんでもしてやるぞ!)
親バカ度がますます加速するマッキンタイヤー公爵は、いそいそと石匠や職人たちを呼び出したのだった。
☆彡 ★彡
こちらはカッシング侯爵邸である。
カッシング侯爵は自室のソファに寝転び、昼から年代物のワインに酔っていた。病気というのは真っ赤な嘘だったのだ。
アナスターシアを呼び戻した理由はひとつ。あまりにも広まっている自分の悪評を気にしたからだった。マッキンタイヤー公爵領を中心として、アナスターシアの美しさと賢さを褒め称える噂は王都にまで伝わっている。一方、カッシング侯爵は、娘をマッキンタイヤー公爵家に追いやった人でなしとして、さんざんに酷評されていた。
『カッシング侯爵は前妻が亡くなってふた月もしないのに再婚した。きっと、以前から再婚相手と付き合っていたのに違いない。そのうえ、実の娘まで追い出すとは。再婚相手とその連れ子可愛さに、なんという酷い仕打ちをするのか。もしかしたら、その連れ子というのも、本当はカッシング侯爵の子供かもしれない。カッシング侯爵は人でなしだ。冷血漢だ。極悪人だ』
このような噂が広まっていたので、これを払拭するにはアナスターシアを呼び戻す必要があったのだ。カッシング侯爵は、やはりいつでも自分中心なのだった。
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