15 / 33
14 聖女と聖獣
しおりを挟む
マッキンタイヤー公爵はアナスターシアが期待以上の頑張りをみせていることに満足していたが、同時に心配もしていた。そこで、アナスターシアの息抜きになることを一緒にしようと考えた。
「たまには、一緒にピクニックにでも行こうじゃないか? マッキンタイヤー公爵領には古い森が広がり、様々な植物や生き物が生息している。良い気分転換になるのではないか?」
「まぁ、素敵。賛成ですわ。伯父様、私を気遣ってくださって、ありがとうございます」
そんなわけで、アナスターシアとマッキンタイヤー公爵は古い森を散策していた。古い森は、緑の絨毯のように新緑の葉で覆われ、生命の息吹が感じられた。背の高い古木が空を覆い、太陽の光は葉の隙間から柔らかく降り注ぎ、森全体をエメラルドグリーンの輝きで満たしていた。樹木の幹は苔で覆われ、長い年月を物語るようにひび割れ、その間を小さな花や植物が彩っていた。
アナスターシアは、ひときわ鮮やかな緑色の葉に金色の斑点が散りばめられた植物を見つけた。それはどんな効能の薬に混ぜても良く、元の効果をより増幅させる働きをするものだった。しかも、他の薬草とは一線を画す美しさをも持っていたのだ。
「本では見たことがあるけれど、実在するなんてびっくりだわ。伝説だと思っていたのに」アナスターシアは驚きと喜びを感じながらその薬草に近づいた。
彼女が手を伸ばそうとしたその瞬間、薬草の茂みから金色の蛇が現れた。アナスターシアは一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し、蛇の動きを見守った。蛇は鋭い目でアナスターシアを見つめながら、薬草の周りを守るように身をくねらせる。
「薬草を守っているの?」アナスターシアは静かに声をかけた。
驚いたことに蛇は彼女の声に反応し、まるで理解したかのように頭を少し下げた。アナスターシアはその姿に感動し、優しく続けた。
「この薬草がどれほど貴重で大切なものかはわかるわ。でも、私はこの薬草を使って人々を助けたいの。だから、私にこの薬草をもらえないかしら? それに、あなたにも名前をつけてあげる。私の名前はアナスターシアよ。お友達になりましょう」
蛇はしばらくじっとしていたが、やがてアナスターシアに向かって体をくねらせながら近寄り、アナスターシアが持っていた籠のなかに、優雅な動きでおさまった。
「まぁ、私と一緒にいたいのね? アスクレオスという名前はどう? あなたにぴったりだと思うわ。ところで、アスクレオスはなにが好物なのかしら?」
アナスターシアは籠のなかの蛇の瞳をじっと見つめた。すると、不思議なことに蛇の思っていることが伝わってくるのを感じた。
「新鮮なフルーツが好きなのね? ふふっ、籠にはちょうどザクロとブドウに林檎が入っているわね。さては、これが目当てで籠にはいったのね? 薬草のお礼に食べてもいいわよ。でも、私に蛇の気持ちがわかるなんてびっくりだわ」
「やはり、アナスターシアにはユーフェミア様の血が濃く引き継がれているのかもしれないな。蛇の気持ちがわかるとは素晴らしい。アスクレオスが嫌がらないなら、この薬草と一緒に屋敷に連れて帰ったらいい」
「伯父様、それは良い考えですわ。アスクレオス、私と一緒にいてくれる? これからも、あなたに薬草を守ってほしいの」
アナスターシアの優しい声に蛇は同意をしたように頭を少し下げ、ザクロの実にかじりついた。
屋敷に戻ったマッキンタイヤー公爵は、新たに庭園の奥に温室も兼ねた薬草園を作らせた。そこでは希少な薬草が多数育てられることになり、アスクレオスが守っていた薬草も植えられ、そこがアスクレオスの家にもなった。
アナスターシアは薬草の手入れとアスクレオスのお世話を楽しんだ。さまざまな薬草の育て方を勉強し、さらには自分で効能を確認するために実験までするようになる。
「うーん。アナスターシアの頭は、やはり勉強のことでいっぱいなのだな?」
「薬学は勉強というより趣味ですわ。私の息抜きだし、楽しみでもあるの」
「そうか、趣味なのか。だったら、研究室も作ってあげよう。おおいに楽しみなさい」
趣味と聞いて安心したマッキンタイヤー公爵は、アナスターシアのために珍しい薬草を、せっせと全国から取り寄せた。このようにして、アナスターシアは薬や化粧品を開発するようになった。
ちなみに、蛇は伝説の不思議な薬草を守る聖獣であった。聖女にしか仕えない蛇で、寿命は1000年以上も生きるとされている。アナスターシアは自分が聖女であることには気づいていないのだった。
「たまには、一緒にピクニックにでも行こうじゃないか? マッキンタイヤー公爵領には古い森が広がり、様々な植物や生き物が生息している。良い気分転換になるのではないか?」
「まぁ、素敵。賛成ですわ。伯父様、私を気遣ってくださって、ありがとうございます」
そんなわけで、アナスターシアとマッキンタイヤー公爵は古い森を散策していた。古い森は、緑の絨毯のように新緑の葉で覆われ、生命の息吹が感じられた。背の高い古木が空を覆い、太陽の光は葉の隙間から柔らかく降り注ぎ、森全体をエメラルドグリーンの輝きで満たしていた。樹木の幹は苔で覆われ、長い年月を物語るようにひび割れ、その間を小さな花や植物が彩っていた。
アナスターシアは、ひときわ鮮やかな緑色の葉に金色の斑点が散りばめられた植物を見つけた。それはどんな効能の薬に混ぜても良く、元の効果をより増幅させる働きをするものだった。しかも、他の薬草とは一線を画す美しさをも持っていたのだ。
「本では見たことがあるけれど、実在するなんてびっくりだわ。伝説だと思っていたのに」アナスターシアは驚きと喜びを感じながらその薬草に近づいた。
彼女が手を伸ばそうとしたその瞬間、薬草の茂みから金色の蛇が現れた。アナスターシアは一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し、蛇の動きを見守った。蛇は鋭い目でアナスターシアを見つめながら、薬草の周りを守るように身をくねらせる。
「薬草を守っているの?」アナスターシアは静かに声をかけた。
驚いたことに蛇は彼女の声に反応し、まるで理解したかのように頭を少し下げた。アナスターシアはその姿に感動し、優しく続けた。
「この薬草がどれほど貴重で大切なものかはわかるわ。でも、私はこの薬草を使って人々を助けたいの。だから、私にこの薬草をもらえないかしら? それに、あなたにも名前をつけてあげる。私の名前はアナスターシアよ。お友達になりましょう」
蛇はしばらくじっとしていたが、やがてアナスターシアに向かって体をくねらせながら近寄り、アナスターシアが持っていた籠のなかに、優雅な動きでおさまった。
「まぁ、私と一緒にいたいのね? アスクレオスという名前はどう? あなたにぴったりだと思うわ。ところで、アスクレオスはなにが好物なのかしら?」
アナスターシアは籠のなかの蛇の瞳をじっと見つめた。すると、不思議なことに蛇の思っていることが伝わってくるのを感じた。
「新鮮なフルーツが好きなのね? ふふっ、籠にはちょうどザクロとブドウに林檎が入っているわね。さては、これが目当てで籠にはいったのね? 薬草のお礼に食べてもいいわよ。でも、私に蛇の気持ちがわかるなんてびっくりだわ」
「やはり、アナスターシアにはユーフェミア様の血が濃く引き継がれているのかもしれないな。蛇の気持ちがわかるとは素晴らしい。アスクレオスが嫌がらないなら、この薬草と一緒に屋敷に連れて帰ったらいい」
「伯父様、それは良い考えですわ。アスクレオス、私と一緒にいてくれる? これからも、あなたに薬草を守ってほしいの」
アナスターシアの優しい声に蛇は同意をしたように頭を少し下げ、ザクロの実にかじりついた。
屋敷に戻ったマッキンタイヤー公爵は、新たに庭園の奥に温室も兼ねた薬草園を作らせた。そこでは希少な薬草が多数育てられることになり、アスクレオスが守っていた薬草も植えられ、そこがアスクレオスの家にもなった。
アナスターシアは薬草の手入れとアスクレオスのお世話を楽しんだ。さまざまな薬草の育て方を勉強し、さらには自分で効能を確認するために実験までするようになる。
「うーん。アナスターシアの頭は、やはり勉強のことでいっぱいなのだな?」
「薬学は勉強というより趣味ですわ。私の息抜きだし、楽しみでもあるの」
「そうか、趣味なのか。だったら、研究室も作ってあげよう。おおいに楽しみなさい」
趣味と聞いて安心したマッキンタイヤー公爵は、アナスターシアのために珍しい薬草を、せっせと全国から取り寄せた。このようにして、アナスターシアは薬や化粧品を開発するようになった。
ちなみに、蛇は伝説の不思議な薬草を守る聖獣であった。聖女にしか仕えない蛇で、寿命は1000年以上も生きるとされている。アナスターシアは自分が聖女であることには気づいていないのだった。
1,784
お気に入りに追加
2,984
あなたにおすすめの小説
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
結婚式後に「爵位を継いだら直ぐに離婚する。お前とは寝室は共にしない!」と宣言されました
山葵
恋愛
結婚式が終わり、披露宴が始まる前に夫になったブランドから「これで父上の命令は守った。だが、これからは俺の好きにさせて貰う。お前とは寝室を共にする事はない。俺には愛する女がいるんだ。父上から早く爵位を譲って貰い、お前とは離婚する。お前もそのつもりでいてくれ」
確かに私達の結婚は政略結婚。
2人の間に恋愛感情は無いけれど、ブランド様に嫁ぐいじょう夫婦として寄り添い共に頑張って行ければと思っていたが…その必要も無い様だ。
ならば私も好きにさせて貰おう!!
【完結】勘違いしないでくれ!君は(仮)だから。
山葵
恋愛
「父上が婚約者を決めると言うから、咄嗟にクリスと結婚したい!と言ったんだ。ああ勘違いしないでくれ!君は(仮)だ。(仮)の婚約者だから本気にしないでくれ。学園を卒業するまでには僕は愛する人を見付けるつもりだよ」
そう笑顔で私に言ったのは第5王子のフィリップ様だ。
末っ子なので兄王子4人と姉王女に可愛がられ甘えん坊の駄目王子に育った。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
婚約者を少しでも好きになる様に頑張ってみましたが、父を侮辱したので婚約破棄を受け入れます!
山葵
恋愛
婚約者のカイン様を好きになる様に頑張ってみた。
そしてカイン様に好かれる様に。
お菓子を作り、勉強で分からない所が有ると聞けば教えて、テスト前にテスト範囲のノートを分かりやすく纏めて渡したりしていた。
それでもカイン様は私を蔑み、男爵令嬢のモニカさんと仲良くしている。
もう無理なんですけれど!?
これ我慢しなくちゃ駄目ですか?
カイン様の方が爵位が上なので、こちらから婚約解消が出来ない。
「お前の父親が泣いて頼むからっ!」
何を公衆の面前で言ってますの!?
お父様を侮辱するんて許せません!
【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!
山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる