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14 聖女と聖獣

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 マッキンタイヤー公爵はアナスターシアが期待以上の頑張りをみせていることに満足していたが、同時に心配もしていた。そこで、アナスターシアの息抜きになることを一緒にしようと考えた。

「たまには、一緒にピクニックにでも行こうじゃないか? マッキンタイヤー公爵領には古い森が広がり、様々な植物や生き物が生息している。良い気分転換になるのではないか?」
「まぁ、素敵。賛成ですわ。伯父様、私を気遣ってくださって、ありがとうございます」

 そんなわけで、アナスターシアとマッキンタイヤー公爵は古い森を散策していた。古い森は、緑の絨毯のように新緑の葉で覆われ、生命の息吹が感じられた。背の高い古木が空を覆い、太陽の光は葉の隙間から柔らかく降り注ぎ、森全体をエメラルドグリーンの輝きで満たしていた。樹木の幹は苔で覆われ、長い年月を物語るようにひび割れ、その間を小さな花や植物が彩っていた。

 アナスターシアは、ひときわ鮮やかな緑色の葉に金色の斑点が散りばめられた植物を見つけた。それはどんな効能の薬に混ぜても良く、元の効果をより増幅させる働きをするものだった。しかも、他の薬草とは一線を画す美しさをも持っていたのだ。

「本では見たことがあるけれど、実在するなんてびっくりだわ。伝説だと思っていたのに」アナスターシアは驚きと喜びを感じながらその薬草に近づいた。
 彼女が手を伸ばそうとしたその瞬間、薬草の茂みから金色の蛇が現れた。アナスターシアは一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し、蛇の動きを見守った。蛇は鋭い目でアナスターシアを見つめながら、薬草の周りを守るように身をくねらせる。

「薬草を守っているの?」アナスターシアは静かに声をかけた。
 驚いたことに蛇は彼女の声に反応し、まるで理解したかのように頭を少し下げた。アナスターシアはその姿に感動し、優しく続けた。
「この薬草がどれほど貴重で大切なものかはわかるわ。でも、私はこの薬草を使って人々を助けたいの。だから、私にこの薬草をもらえないかしら? それに、あなたにも名前をつけてあげる。私の名前はアナスターシアよ。お友達になりましょう」

 蛇はしばらくじっとしていたが、やがてアナスターシアに向かって体をくねらせながら近寄り、アナスターシアが持っていた籠のなかに、優雅な動きでおさまった。

「まぁ、私と一緒にいたいのね? アスクレオスという名前はどう? あなたにぴったりだと思うわ。ところで、アスクレオスはなにが好物なのかしら?」
 アナスターシアは籠のなかの蛇の瞳をじっと見つめた。すると、不思議なことに蛇の思っていることが伝わってくるのを感じた。
「新鮮なフルーツが好きなのね? ふふっ、籠にはちょうどザクロとブドウに林檎が入っているわね。さては、これが目当てで籠にはいったのね? 薬草のお礼に食べてもいいわよ。でも、私に蛇の気持ちがわかるなんてびっくりだわ」

「やはり、アナスターシアにはユーフェミア様の血が濃く引き継がれているのかもしれないな。蛇の気持ちがわかるとは素晴らしい。アスクレオスが嫌がらないなら、この薬草と一緒に屋敷に連れて帰ったらいい」

「伯父様、それは良い考えですわ。アスクレオス、私と一緒にいてくれる? これからも、あなたに薬草を守ってほしいの」
 アナスターシアの優しい声に蛇は同意をしたように頭を少し下げ、ザクロの実にかじりついた。

 
 屋敷に戻ったマッキンタイヤー公爵は、新たに庭園の奥に温室も兼ねた薬草園を作らせた。そこでは希少な薬草が多数育てられることになり、アスクレオスが守っていた薬草も植えられ、そこがアスクレオスの家にもなった。

 アナスターシアは薬草の手入れとアスクレオスのお世話を楽しんだ。さまざまな薬草の育て方を勉強し、さらには自分で効能を確認するために実験までするようになる。

「うーん。アナスターシアの頭は、やはり勉強のことでいっぱいなのだな?」
「薬学は勉強というより趣味ですわ。私の息抜きだし、楽しみでもあるの」
「そうか、趣味なのか。だったら、研究室も作ってあげよう。おおいに楽しみなさい」
 
 趣味と聞いて安心したマッキンタイヤー公爵は、アナスターシアのために珍しい薬草を、せっせと全国から取り寄せた。このようにして、アナスターシアは薬や化粧品を開発するようになった。

 ちなみに、蛇は伝説の不思議な薬草を守る聖獣であった。聖女にしか仕えない蛇で、寿命は1000年以上も生きるとされている。アナスターシアは自分が聖女であることには気づいていないのだった。
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