(本編完結、番外編は随時更新)夫に子供ができました

青空一夏

文字の大きさ
上 下
7 / 9

5

しおりを挟む
※ヴァネッサ視点です

 私はアルフィオが迎えに来てすぐには、アーグイピン帝国には行かなかった。今まで手紙ひとつ寄越さずにいたことにほんのちょっぴり怒っていたし、なにより第2皇女殿下との交際やこれから迎える新婚生活の邪魔にはなりたくなかった。

 息子が立派になって素晴らしい伴侶を持ち幸せに暮らすこと、それだけで私の心は満足だ。私を迎えに来てくれたその気持ちはとても嬉しい。その気持ちだけで私は充分幸せで、温かな気持ちになれたのだから。

 アルフィオにそう伝えると涙ぐんで、「毎年、迎えに来ます」と言った。

「ふふふ。そちらに行きたくなったら自分から行きますよ。アルフィオは自分の幸せだけを考えなさい」





 私はサントーニ男爵家の離れから引っ越し、海辺の小さな家を買い母と二人で穏やかな時間を過ごすことにした。あれから息子夫妻からは頻繁に手紙が届き、贈り物もたくさん貰った。

(こんなに気を遣わなくていいのに。お手紙だけで充分なのよ)

 けれど、後にこの贈り物を届けてくれた息子にとても感謝することになった。その使者のなかに私と同じ年代の男性がおり、何度も顔をあわせるうちに会話が弾むようになったのだ。

「わたしはアーグイピン帝国のアンセル・シュラールと申します。子供も独り立ちして爵位も既に譲っておりましてな。こうして諸外国に届け物をする責任者のような役目を引き受けました。国のお金で旅行が行けますからね」
 おどけた口調でおっしゃった彼は、シュラール前侯爵で奥方は4年前に病死したという。

「旅行ですかぁ。私はこの国から一度も出たことがないのですよ。いろいろな場所に行けるアンセル様が羨ましいですわ」

「だったら、わたしと一緒にいろいろな国に行ってみませんか?」
 とても魅力的なお誘いを受けて、私は迷っていた。

「私もヴァネッサと同じ母親の気持ちなのよ。あなたが幸せなら一緒に住まなくても嬉しいの。だから、そろそろ再婚なさい」
 お母様が私を抱きしめ、私は娘時代に戻ったような気分になった。





 そうして私はアンセル様と再婚しアーグイピン帝国に旅立つ。

「アーグイピン帝国まではゆっくり観光がてら向かいましょう」

 そうおっしゃってくださったアンセル様と馬車でゆっくりと向かう道中はとても楽しかった。

 綺麗な景色を一緒に眺めて美味しい物を分け合って食べることは、なんて新鮮で素敵なことなのだろう。以前の夫とはできなかった心の触れあいがここにはあった。

「このように笑い合って食事をするって、とても幸せなことなのですね」

「わたしも妻とは政略結婚だったので、このように心から笑い合って食事をしたことはないかもしれないですね。同じ物を食べても、一緒に食べる相手によって味が違うのは不思議ですね? 今はなにを食べても最高に美味しい」

「ふふふ、私もですわ。なにを食べても美味しいし、どんな景色を見ても最高に綺麗です」

 私とアンセル様は手を重ね合わせにっこりと微笑む。歳を重ねたからこそわかりあえる愛がある。これからは自分の人生を楽しもう!



 アーグイピン帝国に着いてアルフィオ夫妻が住む豪邸の隣にある、これもまた豪邸の離れに住むようにアルフィアが申し出てくれたけれど、私達は丁寧に断った。

「アルフィオ。私達は世界じゅうを旅して回りたいの。だから当分は一カ所に留まらないわ」

「やれやれ。アンセルを使いに出すのじゃなかったです。母上と一緒に過ごせなかったぶん、これからたくさん親孝行したかったのに」

「ふふふ。だったら、奥方のお母様(王妃殿下)にしてあげてちょうだい。そうして奥方を第一に考えてほしいの。いつまでも仲良くしてちょうだい。それが私への1番の親孝行よ」
 私は穏やかな気持ちで空を見上げる。

 青く澄み渡った空は雲ひとつなく、私の心のようにすっきりと晴れていたのだった。




୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧

※こちらは随時、更新とさせていただきます。世界旅行に行くヴァネッサの旅のエピソードを書いていきまぁす。
更新不定期です。なので完結にはしません。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

王妃を蔑ろにし、愛妾を寵愛していた王が冷遇していた王妃と入れ替わるお話。

ましゅぺちーの
恋愛
王妃を蔑ろにして、愛妾を寵愛していた王がある日突然その王妃と入れ替わってしまう。 王と王妃は体が元に戻るまで周囲に気づかれないようにそのまま過ごすことを決める。 しかし王は王妃の体に入ったことで今まで見えてこなかった愛妾の醜い部分が見え始めて・・・!? 全18話。

もう無理だ…婚約を解消して欲しい

山葵
恋愛
「アリアナ、すまない。私にはもう無理だ…。婚約を解消して欲しい」 突然のランセル様の呼び出しに、急いで訪ねてみれば、謝りの言葉からの婚約解消!?

罪なき令嬢 (11話作成済み)

京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。 5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。 5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、 見る者の心を奪う美女だった。 ※完結済みです。

【完結】今更そんな事を言われましても…

山葵
恋愛
「お願いだよ。婚約解消は無かった事にしてくれ!」 そんな事を言われましても、もう手続きは終わっていますし、私は貴方に未練など有りません。 寧ろ清々しておりますので、婚約解消の撤回は認められませんわ。

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます

柚木ゆず
恋愛
 ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。  わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?  当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。  でも。  今は、捨てられてよかったと思っています。  だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。

【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!

山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」 夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...