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4-2 (ライモンド・パッチーニ男爵視点)
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あの学園で使用する専門書はとても高価だ。なので、大抵は上級生や卒業生から譲り受けて使い回す学生が多いらしい。だが、アルフィオはパッチーニ男爵家の宝なのだ。息子の為に新らしい専門書を買い与えたし、季節ごとに着用する衣服なども最高級の生地を選び、有名デザイナーに仕立てさせた。
皇女殿下に気に入られるように身だしなみはきちんとさせなければならぬ。これは親の務めだと思う。このように惜しみなく金をアルフィオに送り続けた。
皇帝陛下や皇女殿下から賜ったものがあると聞けば、お返しになにかを贈る必要もあろうと思う。その費用も含めて小遣いなども増額していく。さすがにお金持ちだったパッチーニ男爵家も、息子が学園を卒業する頃には、屋敷の修繕費にも困窮するようになっていた。
だが、大丈夫だ。もうすぐアルフィオはプリンチピーニ学園を卒業する。あともう一息だ。
「限界です。アルフィオ様ばかりにお金をかけすぎて、これではパッチーニ男爵家は潰れてしまいます」
だいぶ以前から執事が悲鳴をあげていたが、あともう一歩なのだ。もうすぐこれが報われる。
耳を貸さない私達に、古参の執事や使用人達は辞めていった。しかし、ここが正念場でもある。しっかりと耐えていこう。
やがて、アルフィオはアーグイピン帝国に永住許可をもらい、宰相補佐としての職をあの若さで獲得し、さらには皇女殿下のお心まで射止め学園を卒業した。
「全ては計画通りだ。近いうちに私達を迎えに来るはずだから、身の回りの物をまとめておこう。あぁ、帝国に行くのが楽しみだ」
パッチーニ男爵家で最後のお別れパーティを友人、親族を招きしていた時だ。ちょうど良くアルフィオが帰宅した。
「おぉ、待っていたぞ。さぁ、ご挨拶をなさい。アーグイピン帝国に永住し宰相補佐に就任することと、皇女殿下の婚約者になることを皆の前で発表し、ここにいる者達の後ろ盾になると約束してほしい」
「こちらにお集まりの皆様は、全て父上の味方だったということでよろしいでしょうか?」
「あぁ、その通りだ。わたしの親しい友人や、もっとも信頼できるパッチーニ男爵家の親戚達というかんじだな」
「なるほどね。ではわたしの敵と見なします。わたしはパッチーニ男爵家とは今日限り縁をきります! 実際は父上が母上をおい出した時から、わたしにとってパッチーニ男爵家は憎むべく他人になっています。では父上、あなたにもお会いすることはないでしょう」
「な、なんだとぉ? ふざけるな。どれだけお前に金をつぎ込んだと思っている?」
「ならばお伺いしたい。わたしがお腹にいながらもパッチーニ男爵家をおい出された母上が、どれだけ情けなく悔しい思いをしたと思いますか? あなた達は傷ついた母上を笑いものにしたのでしょう? わたしは一生許さない」
「ならば、そうだ。こうしたらどうだろうか? ・・・・・・ヴァネッサと再婚してやろう。だったら元通りだろう? また親子水入らずで仲良く暮らそう」
「酷い! 今度は私を捨てるのですか? 私は4度も流産したんですよ?」
アントニエッタがわたしにすがった。
(えぇい! もとはと言えばこの女のせいで、わたしはヴァネッサを捨てさせられたのだ)
「子供すらまともに産めなかったお前など妻でいる資格はない。そうだよ、もっと前からこうするべきであった。なぁ、アルフィオ。アントニエッタとは別れる。これでいいだろう?」
「あなたという人は、救いようのない愚かな人だ。今更、母上と元通りになれるわけがないでしょう? では、さようなら。末永くお元気で」
「ま、待て。そんな酷すぎる。パッチーニ男爵家にはもう金は1ダラもないんだぞ。全てはお前の為にと頑張ってきた、この父の思いを踏みにじるのか?」
「あの7歳の頃にわたしが言った言葉をよく思い出してください。『パッチーニ男爵家にお世話になりましょう』とは言ったが、あなた方の世話をするとは、ひとことも言ってはいないです」
「そ、そんなぁーー。だとしたら・・・・・・可愛さあまって憎さ百倍だな。くらえ!」
わたしは咄嗟にパーティの肉料理を切り分けるナイフに手を伸ばし・・・・・・。
だが、アルフィオは華麗にそのナイフをかわし、アルフィオに同行していた帝国側の騎士がわたしを拘束した。
「アーグイピン帝国宰相補佐アルフィオ様殺害未遂の罪であなたを拘束します!」
(こんなはずじゃなかった・・・・・・おかしいだろう? わたしの素晴らしい計画はどうなる? パッチーニ男爵家は帝国でパッチーニ公爵となるはずだったのに・・・・・・)
皇女殿下に気に入られるように身だしなみはきちんとさせなければならぬ。これは親の務めだと思う。このように惜しみなく金をアルフィオに送り続けた。
皇帝陛下や皇女殿下から賜ったものがあると聞けば、お返しになにかを贈る必要もあろうと思う。その費用も含めて小遣いなども増額していく。さすがにお金持ちだったパッチーニ男爵家も、息子が学園を卒業する頃には、屋敷の修繕費にも困窮するようになっていた。
だが、大丈夫だ。もうすぐアルフィオはプリンチピーニ学園を卒業する。あともう一息だ。
「限界です。アルフィオ様ばかりにお金をかけすぎて、これではパッチーニ男爵家は潰れてしまいます」
だいぶ以前から執事が悲鳴をあげていたが、あともう一歩なのだ。もうすぐこれが報われる。
耳を貸さない私達に、古参の執事や使用人達は辞めていった。しかし、ここが正念場でもある。しっかりと耐えていこう。
やがて、アルフィオはアーグイピン帝国に永住許可をもらい、宰相補佐としての職をあの若さで獲得し、さらには皇女殿下のお心まで射止め学園を卒業した。
「全ては計画通りだ。近いうちに私達を迎えに来るはずだから、身の回りの物をまとめておこう。あぁ、帝国に行くのが楽しみだ」
パッチーニ男爵家で最後のお別れパーティを友人、親族を招きしていた時だ。ちょうど良くアルフィオが帰宅した。
「おぉ、待っていたぞ。さぁ、ご挨拶をなさい。アーグイピン帝国に永住し宰相補佐に就任することと、皇女殿下の婚約者になることを皆の前で発表し、ここにいる者達の後ろ盾になると約束してほしい」
「こちらにお集まりの皆様は、全て父上の味方だったということでよろしいでしょうか?」
「あぁ、その通りだ。わたしの親しい友人や、もっとも信頼できるパッチーニ男爵家の親戚達というかんじだな」
「なるほどね。ではわたしの敵と見なします。わたしはパッチーニ男爵家とは今日限り縁をきります! 実際は父上が母上をおい出した時から、わたしにとってパッチーニ男爵家は憎むべく他人になっています。では父上、あなたにもお会いすることはないでしょう」
「な、なんだとぉ? ふざけるな。どれだけお前に金をつぎ込んだと思っている?」
「ならばお伺いしたい。わたしがお腹にいながらもパッチーニ男爵家をおい出された母上が、どれだけ情けなく悔しい思いをしたと思いますか? あなた達は傷ついた母上を笑いものにしたのでしょう? わたしは一生許さない」
「ならば、そうだ。こうしたらどうだろうか? ・・・・・・ヴァネッサと再婚してやろう。だったら元通りだろう? また親子水入らずで仲良く暮らそう」
「酷い! 今度は私を捨てるのですか? 私は4度も流産したんですよ?」
アントニエッタがわたしにすがった。
(えぇい! もとはと言えばこの女のせいで、わたしはヴァネッサを捨てさせられたのだ)
「子供すらまともに産めなかったお前など妻でいる資格はない。そうだよ、もっと前からこうするべきであった。なぁ、アルフィオ。アントニエッタとは別れる。これでいいだろう?」
「あなたという人は、救いようのない愚かな人だ。今更、母上と元通りになれるわけがないでしょう? では、さようなら。末永くお元気で」
「ま、待て。そんな酷すぎる。パッチーニ男爵家にはもう金は1ダラもないんだぞ。全てはお前の為にと頑張ってきた、この父の思いを踏みにじるのか?」
「あの7歳の頃にわたしが言った言葉をよく思い出してください。『パッチーニ男爵家にお世話になりましょう』とは言ったが、あなた方の世話をするとは、ひとことも言ってはいないです」
「そ、そんなぁーー。だとしたら・・・・・・可愛さあまって憎さ百倍だな。くらえ!」
わたしは咄嗟にパーティの肉料理を切り分けるナイフに手を伸ばし・・・・・・。
だが、アルフィオは華麗にそのナイフをかわし、アルフィオに同行していた帝国側の騎士がわたしを拘束した。
「アーグイピン帝国宰相補佐アルフィオ様殺害未遂の罪であなたを拘束します!」
(こんなはずじゃなかった・・・・・・おかしいだろう? わたしの素晴らしい計画はどうなる? パッチーニ男爵家は帝国でパッチーニ公爵となるはずだったのに・・・・・・)
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