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自分も頑張りたいビクトリア

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 ♦♢ビクトリアアグネスside


「お兄様! どうしてオリバー様をまたスペイニ王国に行かせるのですか?」

 ビクトリアアグネスは不満げに眉をひそめ、アレクサンダーに訴えた。その瞳には憂いが宿り、オリバーを案じる気持ちがあふれている。

「オリバーが自ら望んだことだ。ビクトリアアグネスは、彼の決意を尊重しなければいけないよ」

「酷いです。オリバー様は命がけでスペイニ国王と偽ローマムア帝国騎士を捕らえてきたのですよ。それなのに、またあの荒廃した土地に行かせるなんて……」

「その働きに対する報酬はすでに与えたよ。ビクトリアアグネスに毒をかけようとした者たちの命を助けたことを忘れているのかい? 皇女に害を与えた者は、本来なら極刑に処せられるべきなんだ。だから、彼がビクトリアアグネスのそばにいる資格を得るには、さらなる試練に立ち向かう必要があるんだ」

 アレクサンダーの冷静な言葉に、ビクトリアアグネスは口を閉ざし、心の中に複雑な感情が渦巻いた。兄の言い分は理解できるが、それでも心がざわつくのを抑えられない。今のオリバーが、どれほど自分に愛と忠誠を誓っているか、彼女は誰よりも知っていた。それなのに、オリバーが再び過酷な任務に赴かなければならないことを、ただ見守るしかできないことが、ビクトリアアグネスには悔しくてたまらなかったのだ。



 その足で、ビクトリアアグネスは王宮の敷地にある騎士団の訓練場へと向かった。石畳の道を歩きながら、自分にできることは何かと必死に考える。

 そこには、オリバーが仲間たちと剣を交えている姿があった。額には汗が浮かび、真剣な表情が彼の覚悟を物語っていた。

「どうしました? 顔色が悪いですよ」

 オリバーは彼女の不安そうな顔を見て、剣を収めると穏やかに微笑んだ。

「オリバー様。またスペイニ国に向かうと聞きました。お兄様は酷いです。どうして……どうしてまた行かないといけないのですか?」

 ビクトリアアグネスの声は少し震えていた。オリバーが危険な地へ再び向かうことに耐えられなかった。オリバーがどれだけの覚悟を抱いているか、ビクトリアアグネスにはよくわかる。だからこそ、彼の無事を祈るしかできない自分がもどかしくて仕方ないのだ。

「それだけ、アレクサンダー皇帝陛下から信用されているということです。僕はとても光栄に思っています」

 オリバーは少しも旅立つ決意が揺らぐことはないかのように、迷いのない眼差しで答えた。そして、さらにビクトリアアグネスに向かって言葉を紡いだ。

「待っていてください。僕はビクトリアアグネスのためなら、なんでもできる。だから、信じていてください」

 その言葉は、ビクトリアアグネスの胸に深く刻まれた。オリバーの信念と決意が痛いほど伝わってくる。ならば、自分にもできることがあるはずだ、とビクトリアアグネスは心を強くした。

 ――そうだ! 私もこの手で、オリバー様のためにできることをするのよ。オリバー様の手助けがしたいの。スペイニ国民のためにもなにができるか考えなくては!

 ビクトリアアグネスは心に決めると、まずはスペイニ国王の悪政で虐げられていたスペイニ国の人々、特に子供や女性たちを、ローマムア帝国へ招待する計画を立てた。彼らに帝国で休息と癒しを与えるだけでなく、手に職を持てるよう教育を施し、様々な技術や知識を身につけさせようとしたのだ。特に、傷ついた人々の心を癒すため、心を尽くしてビクトリアアグネス自らが導こうと考えていた。

 
 

 そんなわけで、ビクトリアアグネスは皇女宮の一角に設けられた教室で、日々スペイニ国から来た子供たちに技術を教えることになった。広々とした室内には鮮やかな布や裁縫道具、薬草の入った木箱が並べられ、普段見ることのない光景に子供たちは目を輝かせていた。

 ビクトリアアグネスは、もともとフリートウッド王国で男爵令嬢として育てられていたが、その生活は必ずしも恵まれていたわけではなかった。モーガン男爵夫妻たちから冷たくされることが多く、心の拠り所を見つけるために、彼女は一人で裁縫や刺繍を覚えていった。布に針を通して美しい模様を作る時間は、彼女にとって自分を取り戻す大切なひとときだった。そのため、貴族の女性として必要とされる技術を超えた手芸の腕前を自然と身につけていたのだ。

 ビクトリアアグネスはその技術を生かし、子供たちに教えている。ただし、完璧な指導者というわけではなく、時折針の扱いに戸惑い、子供たちと笑い合う場面もあった。子供たちはそんな彼女の姿を親しみ深く感じ、より積極的に学ぶようになっていく。


「まず、この布を使って簡単な袋を作りましょう」
 ビクトリアアグネスが優しく声をかけると、子供たちは夢中になって針を手に取った。最初は慣れない手つきで苦戦する様子もあったが、ビクトリアアグネスは一人ひとりの手元を見守りながら、励ましの言葉をかけた。

「ここをこうすると、縫い目がきれいに揃うわよ」
 ビクトリアアグネスがそっと手を添えると、子供たちは「できた!」と嬉しそうに笑顔を浮かべる。その姿にビクトリアアグネスもまた微笑み、温かな思いが胸に満ちていくのを感じた。

 子供たちは新しい技術を覚えることに喜びを感じ、次第に教室には笑顔が溢れるようになった。彼らが努力する姿にビクトリアアグネスも教えることのやりがいを感じていた。

 そして、帰国する頃には彼らは復興に役立つ知識を携えて戻っていく。ビクトリアアグネスの尽力は、オリバーが建て直そうとしている国を、さらに豊かにする礎となるのだった。
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