上 下
15 / 27

黒幕はスペイニ国王

しおりを挟む
 ♦♢オリバーside

 オリバーは城の外壁に隣接する荒れた裏庭から、使われなくなった荷物口を通じて王宮へと潜り込んだ。帝国の精鋭部隊の男たちも後に続く。
 スペイニ国は、怠惰な王の統治によって国土が荒れ、民は貧困にあえいでいた。宮殿もまた手入れが行き届かず、衛兵の巡回もまばらである。そのため、宮殿内に足を踏み入れるのは予想以上に容易だった。
 やがて、彼らは使用人用の制服やコックのエプロンが保管されている部屋を見つけ、そこでそれぞれ服を手に取り、変装を整えた。

 オリバーは給仕の役を演じるために使い古された制服に袖を通し、同じく変装を終えた精鋭部隊の男たちを引き連れて先へと進む。闇に紛れ、油断しきった衛兵の隙を突きながら、豪華な食堂へと忍び寄った。

 時刻はちょうどディナーの時間である。食堂の入口から様子を伺ったオリバーは、目の前に広がる光景を見て思わず顔を曇らせた。そこでは贅を尽くした料理を目の前に、スペイニ国王がふんぞり返って食事をむさぼっていたのだ。貧困にあえぐ民を気にも留めず、贅沢に耽るその姿に、オリバーは内心で怒りをかき立てられながらも冷静に様子を窺っていた。

 「おい、そこの給仕! 肉も魚も足りないぞ。もっと、たくさん持ってこい!」
 でっぶりと太った身体に豪華な衣服を纏ったスペイニ国王は、頬がパンパンに膨れていたし血色もとてもいい。

 ーー明らかに食べ過ぎだぞ。スペイニ国の民たちのなかには餓死する者も少なくないのに……

 オリバーは厨房から肉や魚をさらに運んだ。スペイニ国王は高価な酒を飲みながら上機嫌だった。

 「ローマムア帝国の皇女が毒薬をかけられただと? それは面白い。実行犯は我が国の民? なかなか楽しい展開になってきたな。若き冷血皇帝はもちろんその者たちを厳しく罰するはずだ。ますます、我が民のローマムア帝国への反感が募るぞ」

 そう言って喜ぶスペイニ国王に報告をした騎士たちの顔を見たオリバーは、どこかで見覚えがあることに気づいた。それは、ローマムア帝国風の騎士服を着て悪事を働いていた者たちだったのだ。

「しかし、もし戦争になれば、我が国はひとたまりもありません。騎士たちの数や戦闘技術において、ローマムア帝国には到底敵いません」

「ここは痩せた土地ばかりで、贅沢などできぬ。未練はないわい。ローマムア帝国に攻め込まれたら、余は異国に亡命するつもりだ。戦うのは、ローマムア帝国に不満を抱く民たちで十分であろう。まぁ、互角に戦えるとは思わんがな」

「でしたら、俺たちも一緒に連れて行ってください。ローマムア帝国の騎士たちとは、とても戦えませんから」

 ーーなんという無責任さ……国王でいる資格はまったくないし、あの騎士たちも同罪だ。

 「しかし、あのアレクサンダー皇帝は絶世の美男子だと聞いた。とすれば皇女も素晴らしい美人なのだろう?」

  騎士のひとりが、記念皿を国王に差し出す。

 「ほぉ、たいした美人だ。毒をかけるよりもスペイニ国に拉致して奴隷にすればよい。余がじきじきに可愛がってやるのだがなぁーー」

 オリバーは必死に我慢し、給仕のふりを続けた。精鋭部隊は、厨房の水瓶に眠り薬を仕込む。着々と断罪の時が近づいているのも知らず、スペイニ国王はふんぞり返って笑う。

 「皇女を拉致してきた者には、褒美をやろう! ローマムア帝国風の下級騎士服はかなり在庫がある。あれを使ってローマムア帝国の皇宮に忍び込めるぞ」

 ーー自国民を騙し、そのうえ僕の最愛を害そうとする極悪人め!

 やがて、スペイニ国王とその周りにいた男たちは、次々と倒れていった。そして……

 

 
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

今更、いやですわ   【本編 完結しました】

朝山みどり
恋愛
執務室で凍え死んだわたしは、婚約解消された日に戻っていた。 悔しく惨めな記憶・・・二度目は利用されない。

両親も義両親も婚約者も妹に奪われましたが、評判はわたしのものでした

朝山みどり
恋愛
婚約者のおじいさまの看病をやっている間に妹と婚約者が仲良くなった。子供ができたという妹を両親も義両親も大事にしてわたしを放り出した。 わたしはひとりで家を町を出た。すると彼らの生活は一変した。

〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。

藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。 バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。 五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。 バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。 だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。

〖完結〗拝啓、愛する婚約者様。私は陛下の側室になります。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢のリサには、愛する婚約者がいた。ある日、婚約者のカイトが戦地で亡くなったと報せが届いた。 1年後、他国の王が、リサを側室に迎えたいと言ってきた。その話を断る為に、リサはこの国の王ロベルトの側室になる事に…… 側室になったリサだったが、王妃とほかの側室達に虐げられる毎日。 そんなある日、リサは命を狙われ、意識不明に…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 残酷な描写があるので、R15になっています。 全15話で完結になります。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。 学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。 そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。 それなら、婚約を解消いたしましょう。 そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

処理中です...