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  私がライアン・チョコラ元伯爵に会ったのは16歳の時。彼の家は没落して屋敷は競売にかけられていた。爵位は税金の滞納で国王陛下に取り上げられ、まさに哀れな乞食のような状態の彼だった。

 その屋敷を買ったのは私のお祖父様で、私はその屋敷をお祖父様と品定めに行った。伯爵家の屋敷は格式のある建築物ではあったが、修繕や適切な管理がされていなかった。

ーーこれは、かなりお金をかけて元の状態に戻す必要があるわね。でも、なかなか悪くないわ。


 その屋敷を案内するライアンと目があった私は、感じのいい微笑みを投げかけられて少しどぎまぎした。彼はまだ年若い青年で両親は他界していた。艶やかな金髪に綺麗な蒼い瞳。なかなかのイケメンさんだ。






「可愛い、可愛いダイアナや。この屋敷はお前が住むといい。適切に手入れをすればとてもいい屋敷だよ? 結婚相手もそろそろ見つけないとなぁ」

 お祖父様は私にこの屋敷を譲るとおっしゃった。ライアンは私に自分を住み込みの執事にしてほしいと頼み込んだ。

 ライアンは執事として熱心に仕えてくれ、私達の間にはやがて恋が芽生えた。





 
「お祖父様、私このライアンと婚約したいの。お願い」

 数ヶ月後、私はお祖父様に私達の仲を報告した。

「ふむ。だったら、伯爵の爵位を戻してもらえるよう陛下にお願いしよう。爵位返還の手続きは滞納金の5倍だったか。婚約祝いとしてワシが出してやろう」

 そうしてめでたく婚約し潤沢な資金をつぎ込んで、チョコラ伯爵家の事業はこの私が立て直した。

「いつも、ダイアナには感謝しかないよ。ありがとう!」

「いいのよ。私達の愛の為だもの」

 そう、私達は愛し合っているはずだった。少なくとも私は愛していた・・・・・・








「僕はさぁ、もう君みたいな地味な女は要らないんだよねぇ。だってさぁ、この屋敷は綺麗に修繕されて事業も立て直した今、ギャテラ侯爵令嬢に交際を申し込まれたのぉ」

 ある日、いつになくバカっぽい口調で話しかけてくるライアンに驚いたまま私は首を傾げた。

「はぁ、それで?」

「うん、君の役目はここでお終い! 婚約破棄するから君は出て行って!」

「おかしくないですか? その事業を立て直したのは誰でしたっけ?」

「もちろん君さ。君が多くの資金をつぎ込んでこの事業を立て直してくれた。ありがとう! だから、毎月の利益から援助して貰った分を返すよ。今の儲かりぐあいなら3年ぐらいで返済できるものね」

「・・・・・・私を愛していると言いましたよね?」
「あぁ、あの時はね、愛していると思ったよ。でも、ほら、人間の気持ちって移り変わっていくものだろう? 仕方がないよね?」

「そんなことお祖父様が許しませんよ?」

「ぷっ。笑わせるなよ? お前の爺さんってただの平民だろう? 金だけ持ってたってこの世は権力だよ? 当家は伯爵家だぞ? お前のような平民なんて元から嫌だったんだ!」


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