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「は? なにを申しておる? 主は私であろう? 私が当主で間違いはない!」
家臣達は、一様に冷めた眼差しで旦那様を見つめておりました。
「そうですね・・・・・・まぁ、一応はご当主様ではいらっしゃいますが、結局は奥方様がご当主様です」
「うん、うん。なに? 一応? ・・・・・・なぜ、一応なのだ? おかしいだろう?」
「そうですわ! 奥方様は、いつも私どもにおっしゃっていましたよね? 信虎様が、この家では一番偉いのだと。ゆめゆめ、粗相のないように、と」
もちろん、申しましたよ。ですけれど、それは信虎様が私だけを愛してくれた場合だけのことなのです。
「もう一度、お伺いいたします。その侍女を追い出す気はないのですね?」
私の言葉に信虎様は、豪快に笑い出しました。
「くどい! お前は見目麗しくはないが、懐の深さだけが取り柄であった。そのように、しつこく脅すような真似をしたり・・・・・・あぁ、わかった。お前は酷いおなごだ! ここを、追い出されたら行くところがないから、あの臣下達となにか怪しいことをしたのだな?」
「?・・・・・・申し訳ありませんが、意味がわかりかねます」
「自分の胸に手を当てて、よく考えてみろ! その家臣どもと、仲良く・・・・・・なのだろう。うん、不貞だな。だからこそ、あの者達は、お前を主と言ったのだろう? あぁ、これで合点がいった」
私は、あきれ果て、百年の恋も冷めてしまったのです。
「どうぞ、その侍女と仲良くお休みくださいませ。私は、隣の屋敷に行って両親に、『私が出て行く』と報告しに行こうと思います」
「あい、わかった。お前が、素直に側室を認めれば置いてやったものを・・・・・・口は災いのもとなのだ! これを教訓にここから追い出されても清く正しく生きるように!」
旦那様は、話は終わったとばかりに手のひらをヒラヒラとさせました。私は犬や猫ではありませんよ。
大きくため息をついて、立ち上がるとお腹がチクリと痛みました。
思わず、しゃがみ込み脂汗を流して顔を歪めると、その若い侍女はあざ笑いました。
「嫌ですねぇ。わざとらしい。あんなふうに身重だということを強調して! その子供も、信虎様の子供かどうか怪しいですよ。うずくまって、顔を歪めて同情してもらえるのは、私のように華奢でかわいらしいおなごだけですよ?奥方様のように、たくましい体つきのおなごがそのような真似をすれば滑稽なだけです」
私は、やっとの思いで、はって廊下を進みました。
「胡蝶! お前は亀か! みっともない。おい、そこの男! おぶって隣の屋敷に連れて行ってやれ! 目障りだ」
家来の一人が、急いで隣の敷地まで走っていき、母上様を呼んできました。隣と言っても、大きな塀に囲まれた二つの屋敷が広大な庭園と池を挟んで建っているのです。それなりに距離があり、母上様が着いた頃には私はすっかり汗だくで苦しさに身を震わせておりました。
「胡蝶! どうしたの? 医師を呼ばなくては! 誰か、医師を呼びなさい!」
母上様は、私の肩を抱いて涙ぐんでおります。
「あぁ、母上。胡蝶は仮病でしょう。大丈夫です。きっと、なんでもありませんよ。私が、このおなごを側室にすると言ったので拗ねているのです。あぁ、胡蝶はこの家からは出て行ってもらいます」
信虎様は、面倒くさそうにおっしゃいました。
「・・・・・・そうですか。信虎様のお言葉は、しかと覚えておきましょう。籠をもて、私の大事な娘を屋敷に連れ帰る」
母上様は、信虎様をぎらりと睨み付けて、尖った声で更にこうおっしゃったのでした。
「信虎様。明日の未の刻(午後一時ぐらい)に隣の屋敷に来られよ。この胡蝶についての処分を決めよう」
信虎様は、満面の笑みで頷いたのでした。私は、籠に乗り隣の実家に帰ったのでした。
家臣達は、一様に冷めた眼差しで旦那様を見つめておりました。
「そうですね・・・・・・まぁ、一応はご当主様ではいらっしゃいますが、結局は奥方様がご当主様です」
「うん、うん。なに? 一応? ・・・・・・なぜ、一応なのだ? おかしいだろう?」
「そうですわ! 奥方様は、いつも私どもにおっしゃっていましたよね? 信虎様が、この家では一番偉いのだと。ゆめゆめ、粗相のないように、と」
もちろん、申しましたよ。ですけれど、それは信虎様が私だけを愛してくれた場合だけのことなのです。
「もう一度、お伺いいたします。その侍女を追い出す気はないのですね?」
私の言葉に信虎様は、豪快に笑い出しました。
「くどい! お前は見目麗しくはないが、懐の深さだけが取り柄であった。そのように、しつこく脅すような真似をしたり・・・・・・あぁ、わかった。お前は酷いおなごだ! ここを、追い出されたら行くところがないから、あの臣下達となにか怪しいことをしたのだな?」
「?・・・・・・申し訳ありませんが、意味がわかりかねます」
「自分の胸に手を当てて、よく考えてみろ! その家臣どもと、仲良く・・・・・・なのだろう。うん、不貞だな。だからこそ、あの者達は、お前を主と言ったのだろう? あぁ、これで合点がいった」
私は、あきれ果て、百年の恋も冷めてしまったのです。
「どうぞ、その侍女と仲良くお休みくださいませ。私は、隣の屋敷に行って両親に、『私が出て行く』と報告しに行こうと思います」
「あい、わかった。お前が、素直に側室を認めれば置いてやったものを・・・・・・口は災いのもとなのだ! これを教訓にここから追い出されても清く正しく生きるように!」
旦那様は、話は終わったとばかりに手のひらをヒラヒラとさせました。私は犬や猫ではありませんよ。
大きくため息をついて、立ち上がるとお腹がチクリと痛みました。
思わず、しゃがみ込み脂汗を流して顔を歪めると、その若い侍女はあざ笑いました。
「嫌ですねぇ。わざとらしい。あんなふうに身重だということを強調して! その子供も、信虎様の子供かどうか怪しいですよ。うずくまって、顔を歪めて同情してもらえるのは、私のように華奢でかわいらしいおなごだけですよ?奥方様のように、たくましい体つきのおなごがそのような真似をすれば滑稽なだけです」
私は、やっとの思いで、はって廊下を進みました。
「胡蝶! お前は亀か! みっともない。おい、そこの男! おぶって隣の屋敷に連れて行ってやれ! 目障りだ」
家来の一人が、急いで隣の敷地まで走っていき、母上様を呼んできました。隣と言っても、大きな塀に囲まれた二つの屋敷が広大な庭園と池を挟んで建っているのです。それなりに距離があり、母上様が着いた頃には私はすっかり汗だくで苦しさに身を震わせておりました。
「胡蝶! どうしたの? 医師を呼ばなくては! 誰か、医師を呼びなさい!」
母上様は、私の肩を抱いて涙ぐんでおります。
「あぁ、母上。胡蝶は仮病でしょう。大丈夫です。きっと、なんでもありませんよ。私が、このおなごを側室にすると言ったので拗ねているのです。あぁ、胡蝶はこの家からは出て行ってもらいます」
信虎様は、面倒くさそうにおっしゃいました。
「・・・・・・そうですか。信虎様のお言葉は、しかと覚えておきましょう。籠をもて、私の大事な娘を屋敷に連れ帰る」
母上様は、信虎様をぎらりと睨み付けて、尖った声で更にこうおっしゃったのでした。
「信虎様。明日の未の刻(午後一時ぐらい)に隣の屋敷に来られよ。この胡蝶についての処分を決めよう」
信虎様は、満面の笑みで頷いたのでした。私は、籠に乗り隣の実家に帰ったのでした。
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