あなたを解放してあげるね【本編完結・続編連載中】

青空一夏

文字の大きさ
上 下
87 / 88

リクエスト5 ゴロヨの恋

しおりを挟む
 俺とセシルさんは、デリア様とナサニエルの結婚式のためにベールを編むという、特別な任務を共に果たした。その過程で、元漁師と元伯爵令嬢という立場を超えた深いつながりを感じ始めていた。俺は自分の出自がセシルさんに相応しくないと感じつつも、彼女への強い想いを抑えることができずにいた。

 セシルさんへの告白を決意するまでに多くの夜を無眠で過ごした。彼女が自分のような男を受け入れてくれるかどうか、絶えず心配していたのだ。

(今は魔法騎士副団長の補佐になっているとはいえ、元は平民の漁師だった俺だ。告白して気まずい雰囲気になったら、グラフトン侯爵家に行きずらくなるよな)

 こんな時の俺は、うじうじ悩む弱虫だ。魔獣相手に風魔法を駆使している時のほうが、よっぽど決断力に溢れている。恋とは男を強くもするが、俺の場合は弱虫にさせるようだった。

 俺は上司でもあり親友でもあるナサニエルに相談することにした。あいつは既に結婚しているし、恋愛においては大先輩だと思うんだ。

「ゴロヨ補佐。私に改まって相談があるとは、どんなことかな?」

「実はな、そのぅーー、俺もそろそろ結婚をしたいな、と思ってな。それで、好きな女性に結婚を前提にお付き合いしてくださいと申し込みたいのだが、身分違いだと思って勇気がでない」

「身分違いね。そう思うのなら、自分がその女性のところまで駆け上がるだけです。好きな女性のためならどんな苦労も楽しいですよ」

 ナサニエルが言うと説得力がありすぎた。

「そうだな。相手はセシルさんなのだが・・・・・・」

「だったら、身分違いでは決してありませんね。彼女は伯爵令嬢でしたが婚約破棄され、今はグラフトン侯爵家の侍女だ。魔法騎士副団長補佐なら、それほど不釣り合いではない。気にしすぎです」

「いや、セシルさんなら爵位持ちの貴族とも結婚できそうだから、俺なんかが申し込んだら笑われそうで」

「彼女は真剣な男性の気持ちを笑うような女性ではないです。デリアが最も信頼している侍女ですからね。人格も優れていますし、常識も持ち合わせている。良妻賢母になりそうな女性だと思います」

「そうなんだよ。俺もそう思っていた。でも、俺はそんなに模範的な妻になってもらわなくても構わない。セシルさんが望むような生き方を応援したい。俺はそれを側で見守るし、俺も同じように頑張りたいんだ」

「実に素晴らしい夫婦になりますね。私も仲間たちがどんどん幸せになっていくのが嬉しいですよ。ペーンも良いお付き合いをエレナ王女殿下としているようだしね」

「あ、うん。確かに、ペーンは頑張っているよな。身分違いといえば、あいつのほうが凄かったな」

 八百屋の息子が一国の王女と交際しているのだから、一昔前ならあり得ないくらいぶっ飛んだ恋愛だよ。


 ☆彡 ★彡


 俺はセシルさんと二人きりになった時、心の中で何度も練習していた言葉を口にするために深呼吸した。彼女の瞳はいつもと変わらず穏やかで、俺の心を落ち着かせてくれる。今日、俺は副団長補佐や元漁師ではなく、一人の男として彼女に真っ直ぐ向き合うつもりだ。

「セシルさん、俺たちがベールを編んだあの日から、君のことを考えずにはいられないんだ。俺と、もっと多くの思い出を作ってくれないか?」
 言葉を紡ぎながら、俺はセシルさんの反応を伺った。彼女の目には初めて見るような輝きがあった。それは、期待とも希望ともつかない美しい光だった。

「ゴロヨさん、私も同じよ。あなたとなら、どんな未来も怖くないわ」
 彼女は言いながら、ゆっくりと頷いた。その瞬間、俺の心は大きな安堵で満たされた。不安でいっぱいだった心が、彼女の言葉一つで晴れやかなものに変わる。これまでの人生で、こんなにも幸せを感じた瞬間はなかった。

 俺たちが共に編んだベールのことを思い出しながら、その時を境に俺たちの関係がどれほど深まったかを振り返る。繊細な糸を編む作業は根気が要ったが、その一瞬一瞬が俺たちの絆を強く結びつけていたんだと、今は、はっきりとわかる。あの時、セシルさんが見せた集中している姿、時折見せる笑顔、それら全てが俺の心に深く刻まれていた。

 俺はセシルさんとこれからも様々な思い出を作っていきたい。喜びも、悲しみも、すべてを共に分かち合いたいんだ。彼女がそばにいることで、どんな困難も乗り越えられる気がする。俺たちの未来がどれほど困難なものになるかはわからないけれど、それを一緒に歩んでいく勇気が今はある。

 二人の間に溢れる微笑みは、これから始まる物語の美しい序章さ。セシルさんと手を取り合い、どんな未来も一緒に歩んでいこうと心に誓ったその瞬間、俺たちの恋は新たな章を開いたのだった。

「俺たちが出会ったのは運命だったんだと思う。セシルさん、君と共に過ごす毎日が、俺にとっては大きな意味を持つ。セシルさんの優しさ、強さ、全てが俺をより良い人間にしてくれるのがわかるから」

 セシルさんが俺の手をそっと握って微笑んだ。

「ゴロヨさんは元から善良な人ですわ。今のままで充分ですよ。完璧です!」

 愛する女性から完璧と言われた喜び。その評価が下がることがないように、俺は一生努力をしていこう。ずっと、好きでいてもらいたいから。握ったこの手は絶対離さない・・・・・・俺は今とても幸せだよ。


୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧

※次回はペーンと王女様の恋です。

  
しおりを挟む
感想 264

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

処理中です...