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65 皇太子の爆弾発言(ナサニエル視点)

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「おい、ナサニエル。これはどういうことなのだ? なぜ、伝説のグリフォンに似ている神獣が、ナサニエルのことを主と呼んだのだ? というか、そもそも神獣は人間と話せるのか?」

 ロビン魔法騎士団長が駆け寄ってきて私に尋ねるのだが、私にもこの状況がよくわからない。グリオンドールは契約がどうとか言っていたが、そのようなことをした覚えもなかった。

「グリオンドールよ。私が召喚したことで契約が成立したということなのか? 主従関係は召喚できたところで必然的に生じるということだろうか?」

「主よ。数世紀前、古代の魔法使いたちと我との間に契約が結ばれた」
 グリオンドールが私に話してくれた内容は次のようなものだった。

 未来を知ることができる予知の魔法に長けていた古代の魔法使いたちは、数世紀後に起こる巨大な魔獣の大量発生を予知した。しかも、それは頻繁に起こるようになるとの予知だったが、グリオンドールと一人の男によって救われるという神の啓示を受けた。氷魔法の達人として頭角を現し、世界に影響を与える存在となる若者が現れ、グリオンドールと助けあうことによって、自然界や魔法のバランスが保つことができる。それにより、グリオンドールは古代の魔法使いたちとその若者を支える契約をした。

 
「困ったな。それほどすごい力などないですよ」
 その若者が私だというのだが、あまりにも壮大な話なので苦笑してしまった。

「いや、お前だ。我は数世紀ぶりに目をさましたし、お前が生きているあいだはここにいる。主よ。住まいを用意しろ」

「住まい? グリオンドールは大きすぎる。魔法騎士団の訓練場でも収まりきらないだろう? グラフトン侯爵家の庭園でも無理だな。王宮の敷地でもぎりぎりなのじゃないか?」

「ふっ。私は身体を縮小させることもできるし、なんなら姿を変えることもできるのだぞ!」

 カナリアほどの大きさになったグリオンドールは、私の腕に止まり寛いだふうに羽繕いを始めた。今回の事件は速やかに国王陛下に報告され、私は国王陛下に謁見することになったのだった。


 ☆彡 ★彡


 白い大理石で築かれた宮殿は荘厳かつ壮大な雰囲気に包まれていた。高い塔や飾り立てられたアーチが空に向かってそびえ、広大な敷地に庭園が広がっている。
 国王の謁見の間は立派で、高い天井には壮麗なシャンデリアが輝いていた。柔らかな絨毯が敷かれ、壁一面には歴代の国王たちの肖像画が掲げられている。国王の玉座は金の装飾が施され、その周りには側近たちが控えていた。

「ナサニエル! 今回の活躍は見事であった。しかも伝説のグリフォンを手なづけたとか聞いたぞ。その怪鳥はどこにいる?」

「我の名は怪鳥ではない。グリオンドールである。魔法のある地のバランスや秩序は我が司っておる。お前、我の主に尊大すぎるぞ。たかが一国の王ではないか」

 カナリアの大きさだったグリオンドールが、謁見の間で象ほどの大きさまで大きくなる。さすがに王城を壊すほど大きくなるのは控えてくれたようでホッとした。

「こらっ、グリオ。国王陛下にそんな口の利き方はまずいぞ。国王陛下も神獣に向かって『手なづける』とか『怪鳥』はまずいです」

「あぁ、確かに。失礼した。グリオンドール殿、そう怒らないでもらいたい。ところで、グリオンドール殿はグリフォンのような姿だが大きさを変えられるのだな。ということは人間にも変身できるのだろうか?」

 国王陛下が興味深げに聞くと、グリオンドールは国王陛下そっくりの姿になり、次の瞬間には私にそっくり同じ姿にも変身したのだった。

「我は見たことのある者には姿を変えられるし、大きさも自由自在だ。王よ、ナサニエルを早く解放しろ。我はもう飽きた。ここはつまらん」

 子猫の姿に変身したグリオンドールが私の腕の中で大きなあくびをした。謁見の間を後にしようとしたところで、デリア嬢がグラフトン侯爵夫妻と駆け込んできた。その中には皇太子殿下もいらっしゃった。

「ナサニエル君。魔獣たちをほとんどひとりで退治したとは本当かね? 怪我はないかい?」

「ナサニエル様。神獣様はどこにいらっしゃいますか? ナサニエル様を守ってくれたのでしょう? お礼を言わなければなりませんわ」
 デリア嬢の言葉に反応したグリオンドールがデリア嬢の腕のなかに飛び込んだ。

「あら、可愛い! 初めて見る猫ちゃんだわ」
 グリオンドールはデリア嬢が気に入ったらしく撫でられて目を細めていた。あとでその子猫がグリオンドールだと教えてあげなくては。 

「ナサニエル様、本当に痛いところはないのですか? まったく、心配しましたよ。国王陛下に呼ばれたと聞きつけ、私たちも駆けつけましたのよ。皇太子殿下をお守りするため神獣を召喚したのですってね。国王陛下、これはもう陞爵以外はありませんね。侯爵位と勲章と報奨金を至急、ナサニエル様にお与えください!」

「待て待て。グラフトン侯爵夫人、もちろん考えておるぞ。男爵の位は確実であるが、貴族院の会議にかけなければ侯爵の位までは保証できん」

「なんと、これほどの功績を成し遂げたナサニエル君が、男爵の位しか保証されないとはあんまりですね。我が国なら皇族になれますよ。私の妹はナサニエル君とちょうど釣り合う年齢です。皇女の夫になりませんか? もちろんそちらのデリア嬢と恋仲なことは知っております。だが、まだ婚約もしていませんよね? どんな贅沢も身分も与えましょう。我が国の民になってはいかがでしょうか?」
 皇太子殿下が爽やかな笑顔で私に話しかけたのだった。                                  
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