上 下
67 / 88

63 この国は私が守る!(ナサニエル視点)

しおりを挟む
 「今日は東洋の国の皇太子殿下が見学にいらっしゃる。案内役にナサニエルをご指名なので、第9小隊の者たちが皇太子殿下と行動を共にするように命じる。失礼のないようにしろ」

 ロビン魔法騎士団長が第9小隊の隊員たちを自分の執務室に呼びそのようにおっしゃった。ロビン・ウィリアム魔法騎士団長はウィリアム公爵家の次男だが、魔力も多く実力で団長になった人だと言われていた。

「はい? なぜ、私をご指名なのでしょうか? 私は平民騎士で役職にも就いていませんよ。荷が重すぎますし、なにかあった時に責任がとれません」

「それがな、グラフトン侯爵閣下の部下がお前の名前を伝えたそうなのだよ。魔法騎士団で一番優秀で強いとかなんとか。しかもデリア嬢の恋人だということまで言ったらしく、皇太子殿下がナサニエルに興味を持ったというわけさ」

「っつ・・・・・・。私は一番優秀なわけでも強いわけでもありませんよ。みんなが協力してくれて、ゴロヨ小隊長やペーンにイアゴが支えてくれるから、実力以上の力が出せているだけです」

「あーー。やっぱり、お前は人たらしなんだよなぁ。心の底からそんなことを言えるお前を、嫌いになれる奴はそうはいないからな。グラフトン侯爵閣下にも気に入られるはずだよ。私には妹がいるのだが、デリア嬢の恋人でなければ私の義弟にしたかった」

「うわっ。それは無理です。ナサニエルはデリア嬢のものですからね」
「そうですよ。いくらロビン魔法騎士団長でもそれは無理ですね。既に、ナサニエルはグラフトン侯爵家の家族の一員です。な、ナサニエル!」
 ゴロヨ小隊長とペーンが代弁してくれた形になったが、もちろん自分の言葉でもお伝えした。
 
「身に余る光栄ですが、デリア嬢しか愛することはできませんので当然無理です」

 もちろん、きっぱり辞退したらロビン魔法騎士団長は苦笑した。少しでもデリア嬢を悲しませたり悩ませることはしたくない。これはグラフトン侯爵閣下との約束なのだから。「泣かせるな」とグラフトン侯爵閣下はおっしゃった。だから、私は嬉しい涙以外は決してデリア嬢に流させることはない。

「とにかくだ、失礼のないようにな。相手は皇太子だから、逆らうなよ」

「了解です」

 
☆彡 ★彡


 皇太子殿下がいらっしゃり、訓練場や講堂、古い書物や呪文の書類が丁寧に整理されている図書室などを案内した。とても魔法に興味があるようで、しきりに古代魔法のことや、大昔にいた大魔法使いのことなどをお尋ねになった。

「大魔法使いのような方が現れるとしたら、俺たちのナサニエルしかいませんよ。こいつは水魔法の上位魔法である氷魔法を意のままに操ります。最近は古代魔法の形態変化魔法も練習しているだろう? だが、夜中に猫や兎に変身するのはやめてくれ」

(バレていたのか。あれは猫や兎に変身しようとしたわけではない。もっと大きな強い存在に変身するつもりだったのだ)

「ナサニエル君はそのような可愛い動物にも変身できるのですね? すばらしいですよ! 上位魔法を使えるのなら、いずれもっと力のある魔法も容易に使えるようになるでしょう」
  皇太子殿下はとても褒めてくださるのだが、目の前で戦うところをみたいとしつこくねだられて困ってしまった。

 仕方なく大きな訓練場で、形ばかりの水魔法やゴロヨ小隊長の風魔法、ペーンの土魔法を披露した。とても喜んでくださったようだ。

「ぜひ我が国に遊びに来てください! ホニンスシ皇国には美味しいお料理がたくさんありますよ。それに治安もよく、人々はみな親切で思いやりがあります。みんな、おもてなしの心をもって、あなたたちを歓迎するでしょう」

「皇太子殿下。恐れ多いことですが、そのようなお誘いは俺たち個人で返答できるものではありません。国同士の交渉になってくると思いますから、グラフトン侯爵閣下とお話をなさってください。あの方は外務大臣ですから」

 ゴロヨ小隊長がそう言うと、皇太子殿下は残念そうな顔をなさった。私たちが皇太子殿下のお相手をしている最中、思いがけない知らせが入る。魔獣の集団がこちらに向かっているというのだ。


 イシャーウッド王国では数百年に一回ぐらいでこのようなことがある。この現象は、大地が自らのエネルギーをリセットするための一種の浄化と考えられていた。魔法が満ち溢れそのエネルギーが不均衡になると、大地は魔力の調整を行う必要があり、その際に魔獣たちが呼び寄せられると信じられていた。

 イシャーウッド王国ではこの周期的な現象に対処するため、特別な儀式や魔法の結界を築いて防御に努める。また、数百年に一度の出来事に備え、魔法騎士団員たちがその時のための特別な訓練を積む。魔獣の現れる時期が迫ると、人々は協力して結束し、古くから伝わる知識と技術を駆使して、魔獣たちとの遭遇に備えるのだ。
 しかし、周期的な感覚でいえば、まだそれが起こるのは30年ばかり先のことだと思われていた。つまり、全く油断していたのだ。

「時期が大幅にずれましたね。仕方がない・・・・・・全力を尽くして戦いましょう。みんな、絶対に愛する人たちを守るんだ!」

「私はなにもできないがどうしたら良いかな? できるだけ協力したいのだが」
 殿下は魔法が使えないのにも拘わらず、なんとか力になってくださろうとしていた。優しく勇気のある方なのだと思う。

「殿下は『聖域の間』にいらしてください」

 聖域の間は結界専門の騎士たちによって守られている空間だ。強固な結界は通常の物理攻撃だけでなく、魔獣からの攻撃にも耐えることができ、内部には非常用の食料や医薬品が備えられている。

 そして、私は魔獣たちがこちらに向かってくる方角を目指して駆けだした。こんな時のために召喚魔法も形態変化魔法も練習していたのだが、まだ成功させたことはなかった。

 とにかく、最終的にはどんな方法でも試してみるさ。私がこの国を救う!



୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧

※だんだん終盤に近づいていきます。ここらで手柄をたてて爵位をもらう!という布石になります。なんか、これファンタジー要素が強くなりました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。 結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに 「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

(完結)旦那様、あなたが私を捨てるのではなくて、私があなたを捨てるのですわ!

青空一夏
恋愛
 私はイレーヌ・ラエイト。ラエイト男爵家の1人娘で、ウィンザー侯爵家に嫁ぐことになった。でもこの方は、初夜で「君を愛することはない」というような愚か者だった。  私はとてもドライな性格で、結婚に夢は抱いていない。愛人が欲しいという望みも承諾したけれど、夫は図に乗ってさらに・・・・・・  これは愚かすぎる夫をヒロインがざまぁする物語。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

処理中です...