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47 助ける人を選ぶつもりはない(ナサニエル視点)

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「ん? なんか叫び声がしたよな。ひっ・・・・・・ブレイン小隊長がブラッドコイワを引き連れて、こっちに突進してくるぞ! 全員、戦闘態勢にはいれーーっ!」

 ゴロヨ小隊長と第8小隊の班長たちの呼びかけに、私とペ-ンはブラッドコイワに向かって走ろうとする。

「ナサニエルが助けることないよ。ブレインはナサニエルをハブらせようとゴロヨ小隊長に金を握らしたって聞いたよ。ブラッドコイワの餌になってもしようがないよ」

 パイヴォが止めようとしたが、それとこれとは別な話だ。

「自分が助けられるのに見殺しなんてできるか! 私は助ける人を選ぶつもりはないよ」

 ペーンと駆けていき、ゴロヨ隊長の横につく。

「ペーン、土魔法。ゴロヨ小隊長は風魔法をお願いします! 火魔法の使い手は攻撃するな」

 ブラッドコイワは周囲に炎をまとい、その近くにいる者にダメージを与える。この炎は攻撃されると、より激しく燃え上がり周囲に広がるのだ。

 私が氷の精霊を呼び寄せる呪文を唱えると、周りに氷の粒子が舞い空気が冷気で凝固した。その透明な結晶は美しく、氷の冷気はまさに死の寒さを魔獣にあたえるだろう。ブラッドコイワが咆哮と共に襲ってきた瞬間に結晶を鋭く放った。

 ブラッドコイワの炎の牙は、氷の結晶に触れると音を立てて凍りつき、その灼熱の力が氷に飲み込まれていく。咆哮が凍てつく静寂に変わり、その脅威が氷の中に閉じ込められた。

 ゴロヨ小隊長は風の力を操りながら、仲間たちを守るためにブラッドコイワが放つ火球を暴風で鎮火させてくれた。ペーンの土魔法は地面から岩や植物を出現させ、ブラッドコイワの動きを制限してくれた。

 連携攻撃は回を重ねる度に上達していたし、他の隊員たちもそれを見て戦い方を学んでいく。これはこれで良い実戦訓練になったと思う。私はブレインに近づき声をかけた。

「ブレイン小隊長、お怪我はありませんか?」

「なんで、僕を助けたんだよぉーー。これじゃ、名誉ある死が台無しだぞ」

 そう言いながらも手足を震わせているブレインがなぜか憎めない。デリア嬢から愛をたっぷりもらっているからだな。ハブられるようにと金をゴロヨ小隊長に渡したブレインには怒りも湧かなかった。私にはグラフトン侯爵家の人々がおり、彼らはいつも私を歓迎してくれるので、何があっても動じずにいられるのだ。例え、世界中の人が敵にまわっても、絶対に味方でいてくれると信じられる存在がこの世にいる。これは私の心をとても強くしてくれる。

「名誉ある死はいつだって転がってますよ。でも、私がその場にいたら必ず助けます」

「ブレイン小隊長。ナサニエルは命を張って仲間を助けようとする男なんだよ。こんなナサニエルを金なんかで裏切れるかよ。話に乗ったふりをしただけさ。ほら、金は返すぜ! ナサニエルはあんたとは違う本物の男なんだよ」

 ゴロヨ小隊長は札束をブレインに放り投げたのだった。

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