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16 なんて、気の毒な若者なんだ!(グラフトン侯爵視点)
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「なに? クラーク君の兄が来た? どっちの兄だね?」
私は領地に所用があり、数日ぶりに王都の屋敷に戻ってきた。その留守中にスローカム伯爵家の令息が来たと、妻から報告を受けていた。
「ナサニエル様の方ですわ。とても礼儀正しい美しい青年でしたよ。魔法省に勤務するエリートですし、クラーク様ではなくナサニエル様を婿にしたかったわ」
「ナサニエル君は幼い頃から病弱だったとスローカム伯爵夫人から聞いたのだろう? 持病もあり子供だって望めないかもしれないという話だったろう?」
「それがどうやら大嘘のようですわ。クラーク様の釣書に添付してあった成績簿も偽造かもしれませんね」
ナサニエル君に会う前に、私はスローカム伯爵家に雇われていた家庭教師を探しあてた。それほど遠くない距離に住んでいたのは幸いだった。
私はクラーク君の成績簿を携えて、彼の家を訪ねることにした。今までの経緯をざっと話したところでクラーク君の成績簿を見せると、到底許せない真実が判明する。
「これはナサニエル様の成績簿です。間違いないです。名前のところだけを書き換えたのでしょうね。そもそも、クラーク様は授業が始まると体調が悪くなり、テストを受ける前から熱を出す始末でした」
「ナサニエル君が病弱だったとか、持病があるという話は聞いたことがあるかね?」
「あの方は幼い頃から健康そのものでしたよ。早朝に走ったり身体も鍛えていましたし、剣術も素晴らしかったです。魔法騎士団長にでもなれたはずですがね」
「だったら、なぜ騎士にならなかったのだろう? 現在の彼は魔法庁の文官だが、魔法騎士団員のほうが職業としては花形だと思うがね」
「それはスローカム伯爵にとめられたのでしょうね。弟が魔法騎士団長になりでもしたら、マクソンス様が霞みますからね。凡庸なマクソンス様に遠慮させられて目立つことはできず、愚かな弟の尻ぬぐいはいつもナサニエル様でした。気の毒な方です」
ナサニエル君のことを調べれば調べるほど不憫に思えた。
なぜ、スローカム伯爵はナサニエル君を冷遇したのだろうか?
愚か者には優秀すぎた子供だったのか?
自分に似た愚か者の方が可愛いのか?
私にはその気持ちがわからないし、わかりたくもなかった。有望な若者の才能の芽を潰すなんて許さない。
会ってみて、私の期待を裏切らなかったら力を貸してやろう。
☆彡 ★彡
ナサニエル君が来るという当日、学園は休みでデリアは朝からそわそわしていた。
「お母様、このドレスおかしくない? この髪型は?」
「いつも通り素敵よ。とても綺麗だわ」
「ありがとう」
嬉しそうに微笑むと、薔薇の庭園を行ったり来たりと忙しい。
「デリアはどうしたのだ? なぜ、ああやって庭園をうろうろしている?」
「デリアの冬が過ぎて、春が巡ってきたのですわ。私は良いことだと思いますよ」
妻が楽しそうに笑った。
「まぁ、そうだな。娘が悲しい顔をしながらため息をついているよりは、庭園を嬉しそうに行ったり来たりするのを見るほうが何千倍も良いな」
私も妻にそう言うと、娘の様子を見て笑った。
さて、ナサニエル君がどんな話をしてくるか聞こうじゃないか。
私はサロンで妻とナサニエル君を待つのだった。
୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧
ナサニエルが勤務するところが魔法庁になっていたり魔法省になっているかもしれません。庁より省の方が大きくてエリートなイメージなんですが、あとで省に統一しますので、誤字があったらすみません。
私は領地に所用があり、数日ぶりに王都の屋敷に戻ってきた。その留守中にスローカム伯爵家の令息が来たと、妻から報告を受けていた。
「ナサニエル様の方ですわ。とても礼儀正しい美しい青年でしたよ。魔法省に勤務するエリートですし、クラーク様ではなくナサニエル様を婿にしたかったわ」
「ナサニエル君は幼い頃から病弱だったとスローカム伯爵夫人から聞いたのだろう? 持病もあり子供だって望めないかもしれないという話だったろう?」
「それがどうやら大嘘のようですわ。クラーク様の釣書に添付してあった成績簿も偽造かもしれませんね」
ナサニエル君に会う前に、私はスローカム伯爵家に雇われていた家庭教師を探しあてた。それほど遠くない距離に住んでいたのは幸いだった。
私はクラーク君の成績簿を携えて、彼の家を訪ねることにした。今までの経緯をざっと話したところでクラーク君の成績簿を見せると、到底許せない真実が判明する。
「これはナサニエル様の成績簿です。間違いないです。名前のところだけを書き換えたのでしょうね。そもそも、クラーク様は授業が始まると体調が悪くなり、テストを受ける前から熱を出す始末でした」
「ナサニエル君が病弱だったとか、持病があるという話は聞いたことがあるかね?」
「あの方は幼い頃から健康そのものでしたよ。早朝に走ったり身体も鍛えていましたし、剣術も素晴らしかったです。魔法騎士団長にでもなれたはずですがね」
「だったら、なぜ騎士にならなかったのだろう? 現在の彼は魔法庁の文官だが、魔法騎士団員のほうが職業としては花形だと思うがね」
「それはスローカム伯爵にとめられたのでしょうね。弟が魔法騎士団長になりでもしたら、マクソンス様が霞みますからね。凡庸なマクソンス様に遠慮させられて目立つことはできず、愚かな弟の尻ぬぐいはいつもナサニエル様でした。気の毒な方です」
ナサニエル君のことを調べれば調べるほど不憫に思えた。
なぜ、スローカム伯爵はナサニエル君を冷遇したのだろうか?
愚か者には優秀すぎた子供だったのか?
自分に似た愚か者の方が可愛いのか?
私にはその気持ちがわからないし、わかりたくもなかった。有望な若者の才能の芽を潰すなんて許さない。
会ってみて、私の期待を裏切らなかったら力を貸してやろう。
☆彡 ★彡
ナサニエル君が来るという当日、学園は休みでデリアは朝からそわそわしていた。
「お母様、このドレスおかしくない? この髪型は?」
「いつも通り素敵よ。とても綺麗だわ」
「ありがとう」
嬉しそうに微笑むと、薔薇の庭園を行ったり来たりと忙しい。
「デリアはどうしたのだ? なぜ、ああやって庭園をうろうろしている?」
「デリアの冬が過ぎて、春が巡ってきたのですわ。私は良いことだと思いますよ」
妻が楽しそうに笑った。
「まぁ、そうだな。娘が悲しい顔をしながらため息をついているよりは、庭園を嬉しそうに行ったり来たりするのを見るほうが何千倍も良いな」
私も妻にそう言うと、娘の様子を見て笑った。
さて、ナサニエル君がどんな話をしてくるか聞こうじゃないか。
私はサロンで妻とナサニエル君を待つのだった。
୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧
ナサニエルが勤務するところが魔法庁になっていたり魔法省になっているかもしれません。庁より省の方が大きくてエリートなイメージなんですが、あとで省に統一しますので、誤字があったらすみません。
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