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1 従姉妹に同情する私の婚約者
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私はオスカー様がとても好きだった。彼は私のお母様の親友の息子でまれに見る美男子だった。艶やかな金髪に蒼い瞳は吸い込まれそうなほど澄んでいた。整った顔立ちは少し中性的で細身の身体はスラリと美しい。
「お母様。私、婚約者はオスカー様がいいの。ダメかしら? お願い」
「そうねぇーー。本来ならば、もう少し上の家柄でないと釣り合わないのだけれど・・・・・・」
お母様はそうおっしゃって渋ったけれど、私はとても熱心にお願いしたの。
「まぁ、それほど気に入ったのなら仕方がないわね。ならば、オスカー様と婚約なさいな。特別に許します」
そのような経緯でなされたオスカー様との婚約に私は有頂天だった。オスカー様は優しくてとても思いやりのある態度で接してくれた。
ある日、お母様の姉夫妻が亡くなり残された従姉妹を我がハービィ公爵家で引き取ることになった。ピンクの髪と目のとてもかわいい子だ。
「あたし、公爵家の娘になれるなんて夢みたいです。母さんが公爵令嬢だったなんて初めて知ったから」
ジュリアは初対面の場で両親の死を悲しむよりもこの状況に興奮しているようだった。
私の両親は戸惑いながらも、「成人するまではハービィ公爵家で預かろう」とだけおっしゃった。
「はい。公爵家の娘として恥ずかしくないようにしますね! どうぞよろしくお願いします! マリア様も仲良くしてくださいね。あたしの方が年上ですからお姉ちゃんって呼んでも構いませんよっ」
ジュリアはその華奢な体つきからは想像できないほど元気な声で挨拶したのだった。
「初めまして。私はマリアの従姉妹のジュリアと言います。マリア様の借り物のドレスで恥ずかしいのですがご挨拶申しあげます・・・・・・」
我が家で夜会が開かれたある晩、従姉妹のジュリアは私とオスカー様の前にいきなり姿を現した。
「え? ジュリア、なぜあなたがここにいるの? それになぜ無断で私のドレスを着ているのかしら?」
「ごめんさない、ごめんなさい! 夜会なんて出たことがなかったから私もつい覗いてみたかったの。ドレスもなかったからマリア様のをほんの少しお借りしただけなのよ。もちろん、すぐにお返しするわ。こんな贅沢なドレスを一度だけでも着てみたかったのですもの!」
「まぁ、どうしたというの? あら、ジュリア! なぜ、あなたのような者がこのような場所に・・・・・・」
いきなり涙ながらに言い訳しだすジュリアの声にお母様も慌ててこちらにやって来てそうおっしゃった。
「お待ちください! ハービィ女公爵。夜会に出席したいと思うジュリアさんの気持ちがわからないのですか? この子をマリアとこれほど差別するなど、あなたはそれでも良識ある人間ですか?」
私の婚約者、オスカー様は静かな怒りをお母様にぶつけた。ジュリアはキラキラとした眼差しをオスカー様に向けており、オスカー様は頬を赤くして照れている様子なの。
ーーこの光景はなんなの? 私はなにを見せられているの?
「あたし、ダンスもしたことがなくて・・・・・・王子様のように素敵なオスカー様と踊れたら死んでもいいです!」
「ふふふ。なにも死ぬことはないよ。ダンスぐらいいつでも踊ってあげるよ。マリア! 君の従姉妹のお願いだから聞かないわけにはいかないよね? ちょっと踊ってくるから少し待っていて」
にこにこと満面の笑みを浮かべたオスカー様はジュリアの手をとって、ファーストダンスをジュリアと踊るのだった。
「まぁ、かわいい! ピンクの髪に瞳なんて珍しい女の子ねぇ。しかもなんて愛らしいお顔でしょう」
ジュリアは今日の夜会の招待客に賞賛の声で迎えられたのだった。
「マリア様より可愛いわね? あの華奢な体つきと優雅なたたずまい、マリア様は少しふっくらなさりすぎているから・・・・・・」
「ハービィ公爵令嬢の婚約者が早々と浮気? まぁ、あのかわいい女の子なら心も動くというものかしら? 今からこれでは先がおもいやられますわねぇ?」
そのような面白おかしく私をからかうようなひそひそ話がとびかう。
「申し訳ありません。後でしっかり注意しておきますので・・・・・・」
オスカー様のご両親は息子の行動に終始私と両親に謝っていたけれど、面目を潰されたお母様は不機嫌なご様子でいたし私自身その場にいたたまれない思いでいたのだった。
その夜会が終わる頃に庭園で二人を見かけ、漏れ聞こえてきたその会話に私はある決心をすることになった。
「マリアも君のように可憐で儚げだったらなぁーー。あの子は少しばかりふっくらしていて守ってあげたいと思えない風貌だからね。あと3キロから5キロ痩せればいいのになぁ」
決してデブではないけれどスリムでもない私はいわゆる標準体型だった。けれど最近の社交界ではやたら細い女性ばかりがもてはやされた。青白い顔のすぐに気絶するひ弱なタイプを男性は好む傾向にあった。
「あっはは、確かにマリア様はやたら食べますもの! いつも私のぶんの残したパンケーキをすぐに自分のお皿に盛って食べ始めるものですから、ますます太ると思って注意してさしあげるのですよ」
「なんだって! とんだ食いしん坊だなぁ。食い意地のはった女って最悪だよねーー」
オスカー様の楽しそうな声は私の心をえぐり続けた。
ーー残したパンケーキですって? パンケーキは朝食の時しか出てこないメニューだし、ジュリアは朝が弱くていつも朝食は食べないでギリギリまで寝ているのに嘘ばっかり!
私の頬に悔し涙がこぼれて、私は走ってその場を逃げたのだった。
「お母様。私、婚約者はオスカー様がいいの。ダメかしら? お願い」
「そうねぇーー。本来ならば、もう少し上の家柄でないと釣り合わないのだけれど・・・・・・」
お母様はそうおっしゃって渋ったけれど、私はとても熱心にお願いしたの。
「まぁ、それほど気に入ったのなら仕方がないわね。ならば、オスカー様と婚約なさいな。特別に許します」
そのような経緯でなされたオスカー様との婚約に私は有頂天だった。オスカー様は優しくてとても思いやりのある態度で接してくれた。
ある日、お母様の姉夫妻が亡くなり残された従姉妹を我がハービィ公爵家で引き取ることになった。ピンクの髪と目のとてもかわいい子だ。
「あたし、公爵家の娘になれるなんて夢みたいです。母さんが公爵令嬢だったなんて初めて知ったから」
ジュリアは初対面の場で両親の死を悲しむよりもこの状況に興奮しているようだった。
私の両親は戸惑いながらも、「成人するまではハービィ公爵家で預かろう」とだけおっしゃった。
「はい。公爵家の娘として恥ずかしくないようにしますね! どうぞよろしくお願いします! マリア様も仲良くしてくださいね。あたしの方が年上ですからお姉ちゃんって呼んでも構いませんよっ」
ジュリアはその華奢な体つきからは想像できないほど元気な声で挨拶したのだった。
「初めまして。私はマリアの従姉妹のジュリアと言います。マリア様の借り物のドレスで恥ずかしいのですがご挨拶申しあげます・・・・・・」
我が家で夜会が開かれたある晩、従姉妹のジュリアは私とオスカー様の前にいきなり姿を現した。
「え? ジュリア、なぜあなたがここにいるの? それになぜ無断で私のドレスを着ているのかしら?」
「ごめんさない、ごめんなさい! 夜会なんて出たことがなかったから私もつい覗いてみたかったの。ドレスもなかったからマリア様のをほんの少しお借りしただけなのよ。もちろん、すぐにお返しするわ。こんな贅沢なドレスを一度だけでも着てみたかったのですもの!」
「まぁ、どうしたというの? あら、ジュリア! なぜ、あなたのような者がこのような場所に・・・・・・」
いきなり涙ながらに言い訳しだすジュリアの声にお母様も慌ててこちらにやって来てそうおっしゃった。
「お待ちください! ハービィ女公爵。夜会に出席したいと思うジュリアさんの気持ちがわからないのですか? この子をマリアとこれほど差別するなど、あなたはそれでも良識ある人間ですか?」
私の婚約者、オスカー様は静かな怒りをお母様にぶつけた。ジュリアはキラキラとした眼差しをオスカー様に向けており、オスカー様は頬を赤くして照れている様子なの。
ーーこの光景はなんなの? 私はなにを見せられているの?
「あたし、ダンスもしたことがなくて・・・・・・王子様のように素敵なオスカー様と踊れたら死んでもいいです!」
「ふふふ。なにも死ぬことはないよ。ダンスぐらいいつでも踊ってあげるよ。マリア! 君の従姉妹のお願いだから聞かないわけにはいかないよね? ちょっと踊ってくるから少し待っていて」
にこにこと満面の笑みを浮かべたオスカー様はジュリアの手をとって、ファーストダンスをジュリアと踊るのだった。
「まぁ、かわいい! ピンクの髪に瞳なんて珍しい女の子ねぇ。しかもなんて愛らしいお顔でしょう」
ジュリアは今日の夜会の招待客に賞賛の声で迎えられたのだった。
「マリア様より可愛いわね? あの華奢な体つきと優雅なたたずまい、マリア様は少しふっくらなさりすぎているから・・・・・・」
「ハービィ公爵令嬢の婚約者が早々と浮気? まぁ、あのかわいい女の子なら心も動くというものかしら? 今からこれでは先がおもいやられますわねぇ?」
そのような面白おかしく私をからかうようなひそひそ話がとびかう。
「申し訳ありません。後でしっかり注意しておきますので・・・・・・」
オスカー様のご両親は息子の行動に終始私と両親に謝っていたけれど、面目を潰されたお母様は不機嫌なご様子でいたし私自身その場にいたたまれない思いでいたのだった。
その夜会が終わる頃に庭園で二人を見かけ、漏れ聞こえてきたその会話に私はある決心をすることになった。
「マリアも君のように可憐で儚げだったらなぁーー。あの子は少しばかりふっくらしていて守ってあげたいと思えない風貌だからね。あと3キロから5キロ痩せればいいのになぁ」
決してデブではないけれどスリムでもない私はいわゆる標準体型だった。けれど最近の社交界ではやたら細い女性ばかりがもてはやされた。青白い顔のすぐに気絶するひ弱なタイプを男性は好む傾向にあった。
「あっはは、確かにマリア様はやたら食べますもの! いつも私のぶんの残したパンケーキをすぐに自分のお皿に盛って食べ始めるものですから、ますます太ると思って注意してさしあげるのですよ」
「なんだって! とんだ食いしん坊だなぁ。食い意地のはった女って最悪だよねーー」
オスカー様の楽しそうな声は私の心をえぐり続けた。
ーー残したパンケーキですって? パンケーキは朝食の時しか出てこないメニューだし、ジュリアは朝が弱くていつも朝食は食べないでギリギリまで寝ているのに嘘ばっかり!
私の頬に悔し涙がこぼれて、私は走ってその場を逃げたのだった。
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