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3 イーサンの偏執愛

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※イーサンはヤンデレというか、かなり偏った愛の持ち主です。胸くそ注意です。




(イーサン視点)

 私の愛しいクララはとても可愛い! 

 陽だまりのような瞳は鮮やかなオレンジ。唇はぽってりと厚めでチェリーのような艶のある色をしていた。頬はバラ色で、少し低めのツンと上向きがちの鼻も、少女のように愛らしい。

 クララが不安気に私を見つめる表情がとりわけぞくぞくする。屈託のない少女のような微笑から、悲しげに目を伏せて耐える時、自分が彼女に与える影響力に満足した。

 クララが私を求めて綺麗な涙を流すほど、私への愛を深く感じた。ドミニク侯爵家の自室奥、隠し部屋にはクララの写真が壁一面に貼られている。

 私は先祖が魔力持ちだったこともあり、自分の記憶のワンシーンを念写することができた。クララの切ない表情、ため息をつき涙を抑える仕草は、捨てられた子犬が不安げに辺りを見回しクンクンと泣く場面と重なる。あのキュッと胸が締め付けられるほどの庇護欲をそそる存在に堪らなく惹かれた。

 だから、私はそんな表情を浮かべた彼女には、ご褒美として特に優しくする。王立美術館でダーシィと仲良く絵画を見た帰りには、馬車でクララだけを送り有名なスイーツまでお土産に渡した。

「なぜ私にこれをくださるのですか? ダーシィにあげたらいいと思います」

 拗ねた様子で私を見上げる瞳には、不安と期待が混ざり合っている。

「クララは私の特別だからね。この世で一番大事な女性だよ」

 私の言葉に混乱しているような横顔が可愛い。

「大丈夫だよ。私はクララのものだから・・・・・・」

 そっと手を重ねると、ビクッと身体を震わせたクララに優しく微笑みかけた。





 王立学園でのランチタイム、クララを挟んで私とダーシィは座る。クララがいるのにいないかのように振る舞い、ダーシィと笑い合った。

「私、お邪魔だと思いますわ。あちらの席で一人で食べるか、せめてイーサン様と席を替わっていただけませんか? ダーシィの隣にお座りください。私を挟んでの会話では不便でしょう?」

「あらぁ、いいのよ。そんなことしたら私達が意地悪みたいでしょう? クララも話しに加わればいいのよ。古典文学論の先生ってほんと最悪だと思いますわ。ね? クララもそう思うでしょう?」

「あぁ、あいつは陰険だな。クララもそう思うだろう?」

 私達はクララが、古典文学論の講師を尊敬していることを知っている。わざと貶めて、彼女がどんな反応をするか楽しみだ。

「私は・・・・・・好きです。あの先生はとても説明が丁寧ですし、知識も豊富で・・・・・・」

 必死で庇いだすから、全力でダーシィと否定する。涙が今にもこぼれそうなクララに、飲み物とサンドイッチを取り分けて甲斐甲斐しく世話をやきながら。

 また混乱したような不安げな眼差しを私に向けるクララ。可愛いなぁ、と思う。捨てられた子犬のような眼差しがたまらなく良い!

 だから私は、クララに意地悪をした後は優しく接した。一瞬信じてまた絶望に落ちる、めまぐるしく変わるあの表情に満足だ。クララの表情が変わるのは、私に恋い焦がれている証拠だから。

 だが、私はやりすぎた。クララは隣国に留学しこの国には戻らないという。私から去らせるつもりはなかった。ずっと側にいて欲しかったのに。

 落ち込んでどうしたらいいのかわからない。あの可愛いクララがいなくなるなんて・・・・・・





 
「ずっと私が側にいて励ましてあげますよ」

 クララを失ったことのショックで寝込んでしまった私のお見舞いに、ドミニク侯爵家にやって来たダーシィはそう言ってくれた。

「そうだね。君とはきっと気が合うものね」
 
 私のをダーシィならわかってくれるかもしれないから、心からそう言った。






 クララとはまだ婚約していなかったから逃げられたが、今度は同じ過ちはおかさない。

 ダーシィの実家はルバンス子爵家でそれほど裕福ではない。ルバンス子爵家をドミニク侯爵家の事業に巻き込み、ダーシィとは正式に婚約をした。これで彼女は逃げられない。

 私にとても大切に扱われた彼女はすっかり安心し、僕にとても尽くしてくれる。かつてのクララのように。
 
 





 今日はダーシィと観劇に行く約束をしていた。女性を伴ってルバンス子爵家に彼女を迎えに行くと、ダーシィが私を問い詰める。

「イーサン様! その女性はなんですか?」

「ん? 私の縁戚にあたるローズだよ。観劇をするのに一緒に見たいというから連れてきた。ダーシィも仲良くしてくれ。二人だけで観るよりも三人で観た方が楽しいだろう? ローズはしばらくドミニク侯爵家に滞在するから、これからもずっと仲良くしよう」

 馬車の中ではダーシィを真ん中に座らせ、ローズとしかわからない話題で盛り上がる。ダーシィは不安げに私を見つめた。

 そう、それだよ! その捨てられた子犬のような眼差しをダーシィは一生、私の側でしていればいいんだ。

 あとでたっぷり甘やかせてあげるから、今はその瞳に涙を浮かべておくれ!

「ローズの髪はとても綺麗だね。このふわふわの巻き毛がたまらなく素敵だ」

 ローズの手に自分の手を重ね合わせ、ダーシィに聞こえるように囁く。

 真っ直ぐな髪のダーシィは、唇を噛みしめ目に涙をためて俯いた。


 そう、それでいい。私は満足だ!!
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