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1 クララの失望
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今日は私の誕生日だ。私はローワン伯爵家の一人娘、クララ。大好きな男性が、私の瞳色のジャボを付けて来てくださった。彼の名前はイーサン・ドミニク。
ジャボは通常純白のレースで作成されるものだけれど、イーサン様は蕩けるような笑みを浮かべておっしゃった。
「クララの為に、その陽だまりのような瞳色のジャボを特注したのだよ」と。
私のお誕生日パーティの間じゅう側にいて、愛おしそうな視線を注がれ、帰り際にはそっと唇にキスさえされた。もちろん、誰も見ていない隙にだけれど・・・・・・
私は圧倒的な幸福感に包まれる。『愛されている』と・・・・・・私は『深く愛されている』と、確信したのよ。
ところが翌日、王立学園のカフェテリアでイーサン様に呼び止められる。イーサン様は私に1通の手紙を差し出す。
「クララに頼みがある。君の親友のダーシィに、この手紙を渡してもらえないだろうか?」
「え? なぜですか?」
私は心底、意味がわからない。この手紙はなぁに? なぜ、私が渡さなければならないの? 首を傾げる私に彼は軽く微笑んで答えた。
「私が本当に好きなのは、実はダーシィなのだよ」
今まで王立学園の行き帰りは、いつもドミニク候爵家の馬車で送り迎えをしていただいた。先日のお誕生日には、私の瞳色のジャボを付けキスまでしたのに?
目の前が真っ暗になる。イーサン様の言葉が信じられない! これは悪夢よ。誰か、嘘だと言って!
多分、私は絶望的な表情をしていたはずだ。でも、イーサン様だけは、心から嬉しそうに微笑んでいた。
私はダーシィに手紙を渡し、彼女もまた私にひらひらとそれを見せびらかせながら、朗らかな笑い声をあげる。
「あらぁ、ごめんね。イーサン様が私のことを好きだなんて思わなかったわぁ。いつも、クララをエスコートしていたのにねぇ? 親友なのに心苦しいわぁ」
ダーシィの浮ついた声に、私の顔はきっと引きつっている。自分が惨めで情けなくて、思わず涙が溢れだす。親友と恋人に同時に裏切られた瞬間。
いいえ、イーサン様は恋人じゃないか・・・・・・私が勝手に恋人だと勘違いした男性なのかもしれない・・・・・・
その日以来、私の頭は混乱している。学園でダーシィとイーサン様が仲睦まじく笑い合うだけで、胸が締め付けられるほど痛くて・・・・・・泣きたくないのに涙が滲みだして・・・・・・一層惨めな気分になる。
この二人を見ていたくない。学園だって本当は仮病を使ってお休みしたいのに・・・・・・
そんな私の気持ちにお構いなく、イーサン様は私に絡んでこようとした。
「一緒に王立美術館に行かないか? ほら、クララも私と一緒に行きたがっていただろう?」
それは、イーサン様がダーシィを選ぶ前の話だ。
「私は結構です。お二人のお邪魔をしたくありませんから」
「いいから行こうよ。クララは絵を描くのが趣味だろう? いろいろ勉強になると思う。実は、大好きなダーシィと一緒にいると緊張して、うまく話せないかもしれないから、クララに是非来て欲しいのさ。頼むよ」
「・・・・・・はい、私でお役に立てるのでしたら・・・・・・」
相手は格上の侯爵家のご子息。頼む、と面と向かって言われれば、断れるはずもない。
そして私は王立美術館で寄り添い合い、睦まじく絵画を鑑賞する二人の後ろを、侍女のように付いて歩く。
耐えがたい苦痛と哀しみと悔しさで、絵画の鑑賞などできない。必死で泣かないように歯を食いしばる。
(泣いたら負けよ。絶対に泣かない。泣いてなんかやるものか!)
時々私を振り返り、謎の笑みを浮かべるイーサン様にだけは、涙を見せたくなかった。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
ジャボ
主にレースで出来ており袖口と共に装飾の役割を果たしていた。現在のネクタイとして用いられており、付け外しの出来る物や一体化した物まで存在した。
ジャボは通常純白のレースで作成されるものだけれど、イーサン様は蕩けるような笑みを浮かべておっしゃった。
「クララの為に、その陽だまりのような瞳色のジャボを特注したのだよ」と。
私のお誕生日パーティの間じゅう側にいて、愛おしそうな視線を注がれ、帰り際にはそっと唇にキスさえされた。もちろん、誰も見ていない隙にだけれど・・・・・・
私は圧倒的な幸福感に包まれる。『愛されている』と・・・・・・私は『深く愛されている』と、確信したのよ。
ところが翌日、王立学園のカフェテリアでイーサン様に呼び止められる。イーサン様は私に1通の手紙を差し出す。
「クララに頼みがある。君の親友のダーシィに、この手紙を渡してもらえないだろうか?」
「え? なぜですか?」
私は心底、意味がわからない。この手紙はなぁに? なぜ、私が渡さなければならないの? 首を傾げる私に彼は軽く微笑んで答えた。
「私が本当に好きなのは、実はダーシィなのだよ」
今まで王立学園の行き帰りは、いつもドミニク候爵家の馬車で送り迎えをしていただいた。先日のお誕生日には、私の瞳色のジャボを付けキスまでしたのに?
目の前が真っ暗になる。イーサン様の言葉が信じられない! これは悪夢よ。誰か、嘘だと言って!
多分、私は絶望的な表情をしていたはずだ。でも、イーサン様だけは、心から嬉しそうに微笑んでいた。
私はダーシィに手紙を渡し、彼女もまた私にひらひらとそれを見せびらかせながら、朗らかな笑い声をあげる。
「あらぁ、ごめんね。イーサン様が私のことを好きだなんて思わなかったわぁ。いつも、クララをエスコートしていたのにねぇ? 親友なのに心苦しいわぁ」
ダーシィの浮ついた声に、私の顔はきっと引きつっている。自分が惨めで情けなくて、思わず涙が溢れだす。親友と恋人に同時に裏切られた瞬間。
いいえ、イーサン様は恋人じゃないか・・・・・・私が勝手に恋人だと勘違いした男性なのかもしれない・・・・・・
その日以来、私の頭は混乱している。学園でダーシィとイーサン様が仲睦まじく笑い合うだけで、胸が締め付けられるほど痛くて・・・・・・泣きたくないのに涙が滲みだして・・・・・・一層惨めな気分になる。
この二人を見ていたくない。学園だって本当は仮病を使ってお休みしたいのに・・・・・・
そんな私の気持ちにお構いなく、イーサン様は私に絡んでこようとした。
「一緒に王立美術館に行かないか? ほら、クララも私と一緒に行きたがっていただろう?」
それは、イーサン様がダーシィを選ぶ前の話だ。
「私は結構です。お二人のお邪魔をしたくありませんから」
「いいから行こうよ。クララは絵を描くのが趣味だろう? いろいろ勉強になると思う。実は、大好きなダーシィと一緒にいると緊張して、うまく話せないかもしれないから、クララに是非来て欲しいのさ。頼むよ」
「・・・・・・はい、私でお役に立てるのでしたら・・・・・・」
相手は格上の侯爵家のご子息。頼む、と面と向かって言われれば、断れるはずもない。
そして私は王立美術館で寄り添い合い、睦まじく絵画を鑑賞する二人の後ろを、侍女のように付いて歩く。
耐えがたい苦痛と哀しみと悔しさで、絵画の鑑賞などできない。必死で泣かないように歯を食いしばる。
(泣いたら負けよ。絶対に泣かない。泣いてなんかやるものか!)
時々私を振り返り、謎の笑みを浮かべるイーサン様にだけは、涙を見せたくなかった。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
ジャボ
主にレースで出来ており袖口と共に装飾の役割を果たしていた。現在のネクタイとして用いられており、付け外しの出来る物や一体化した物まで存在した。
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